猫被りなきみと嘘吐きな僕

古紫汐桜

文字の大きさ
上 下
2 / 96

悲しい過去

しおりを挟む
小関さんの仕事は弁護士で、偶然、先輩の友達二人に強姦されている僕を見付けた当時の担任に相談され、僕に二度と手を出せないように法的に対処してくれた人。
 当時の担任は数学の教師で、普段はのほほんとした感じの人だった。
でも、体育倉庫で強姦されていた僕を見つけると、身を呈して盾になってくれたんだ。
僕を大嫌いな二人から解放してくれて、いつも
『大丈夫だ、相馬は俺が護るから……』
と、頭を撫でてくれた人。
 最初は「こいつも僕の身体を狙って優しくしてくれているんだ」と思って警戒した。
でも……担任が僕に触れるのは、頭を撫でる時だけだった。
『相馬は綺麗な顔立ちをしているから、狙われ易いのかもしれないな。俺みたいに、The凡人面ならこんな苦労しないで済んだだろうに……』
いつだったか、1度だけ僕の頬に触れてそう呟くと、悲しそうな瞳をした後に優しい笑顔を浮かべた。
担任と出会って、僕は本当に優しい笑顔というものを知った。
担任は僕を見つけると、いつも目を細めて優しく微笑んでは
『相馬』
って、声を掛けてくれた。
 いつしか僕は、担任の小関晃先生を好きになっていた。
僕の家は幼い頃から両親の喧嘩が耐えなくて、基本的に子供に目を向けるような親では無かった。
そんな環境さえも心配してくれて、卒業間近になる頃には僕を家に泊めてくれたりもした。(もちろん、部屋は別だった)
実家通いだった小関先生の家は、温かいテレビに出てくるような家族だった。
先生の家にはいつも電気が灯り、温かい湯気の立つ食事と笑いの絶えない温かい家族。
他人の僕にさえ、家族のように接してくれていた。
 先生の家に行くと、太陽の匂いがするフカフカの布団が客間に用意されていて、先生が学校の外で僕に授業を教えるのは問題があるからと、小関さんが勉強を見てくれた。
先生の家に泊まる度、僕は擬似家族体験をさせてもらって幸せだった。
 そんな先生の家族の仲を壊したくなくて、自分の想いは永遠に胸の中に隠し通すつもりだった。
 でも、高卒のつもりでいた僕に大学の進学を勧めてくれて、僕が最善の人生を歩けるように手を差し伸べてくれた先生への思いはふくらんでいく。
本当に本当に大好きだった、手の届かない人。そう思っていた卒業式の日。
僕はこの想いを抱え切れなくなって、失恋覚悟で告白をした。
今でも忘れない。
桜が舞い散る裏庭で、人生初の告白をした。
「先生が好きです」
驚いた顔をした先生が、ゆっくり微笑んで
「俺もだよ」
って応えてくれた。
信じられなくて、思わず目を見開いて見つめた先には、舞い散る桜と陽の光に照らされた先生の笑顔があった。
「生徒でいる間は、この気持ちに蓋をしようと決めていたんだ。それに、俺みたいなThe凡人を、相馬みたいに綺麗な子が好きになってくれるなんて思わなかったから」
そう言いながら、そっと僕の頬に触れた手が震えていたっけ……。
 初めて心から幸せを感じた瞬間だった。
もしも時が戻せるのなら、この時間に巻き戻して全てをやり直したい。
 卒業式が終わり、この日は先生の家で僕の卒業祝いをしてくれる事になっていた。
小関先生の兄で、僕の担当弁護士の小関さんがいつも通り僕を車で迎えに来て、僕は先生より先に小関先生の家で先生の帰りを御家族と待っていた。
テーブルの上にはたくさんのご馳走が並んでいて、『かずやくん 卒業おめでとう』のプレートが乗ったケーキまで用意されていた。
先生のご家族の好意が嬉しくて、先生の帰りを今か今かと心待ちにしていた。
……でも、先生は帰って来なかった。
僕を強姦していた二人に逆恨みされ、帰り道に待ち伏せされて刺殺されてしまったのだ。
先生は二人に滅多刺しにされ、見るも無惨な姿になって居たらしい。
あまりにも損傷の酷い遺体なので、家族しか先生の遺体に対面は許されなかった。
最期のお別れさえ出来なかった先生との別れ。
棺の窓は閉ざされ、遺体は中身が見えないように布と袋で密封された状態での別れになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

処理中です...