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この世界で生きて行く為に③
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『大丈夫だよ、お兄ちゃん! 中身はこっちの空木鈴音だった訳だし、身体もこっちに来たら戻るから!』
カラカラと笑う琴音に
(本当か!)
一筋の光を見付けて喜んでいると
『……多分?』
と付け加えやがった。
(お前なぁ……)
『あ! 大変! そろそろ時間になる。今回、お兄ちゃんにはチートスキルを盛モリにしといたから!』
(琴音……ラーメンのトッピングじゃないんだからさ! なんだよ、その表現)
文句を言った僕に
『あ! そろそろ会話出来なくなる。とにかく、この世界で信じて良いのはアーヒルだけだからね! まず、教会関係者や弟は信じちゃダメだよ!』
早口にまくし立てられ、返す言葉も見つからないまま、『ダメだからね~!』の一言を残して琴音の声が聞こえなくなった。
(待て! 琴音。僕はまだ大切な話をしていない!)
そう叫んでも、もう琴音の声は聞こえなかった。
「そんな……」
思わず口から声が漏れると
「リン! 大丈夫か?」
慌てて走り寄るアーヒルに
「声が……琴音の声が聞こえたのに、あっという間に聞こえなくなってしまったんだ。僕、大切な事を何も伝えられなかった」
そう呟くと、アーヒルは僕を強く抱き締め
「泣くな、リン。また、連れて来てやるから」
優しく宥められてしまう。
そして拭われて初めて、目から涙が流れているのに気付いた。
(琴音に泣いたのがバレちゃうのに……、涙が止まらない)
どうやら僕は琴音の声を聞いて、ホームシックになってしまったらしい。
散々、1人で都内に出て一人暮らしをして、実家になんか戻らなかった癖に。
何故だか、異世界に来てから元の世界が恋しくて仕方ないんだ。
ひとしきり泣いて落ち着くまで、アーヒルは黙って僕を抱き締めてくれていた。
この世界に来て、最初に僕を受け止めてくれた優しくて大きな腕の中は居心地が良い。……だけど、この場所はこの世界の僕のモノだ。
琴音にお願いして、早くこの世界の空木鈴音を蘇らせてあげなくちゃ……と、そう心に誓った。
僕がこの世界で生きて行く為には、アーヒルの力が必要だ。
だけど、ただアーヒルに甘えるのでは無く、僕はこの世界を学び、知ってアーヒルが命を懸けて守ろうとしているこの国を、この世界の空木鈴音が蘇るまで一緒に守って行こうと思った。
だから、泣くのは今日で最後だ。
僕がこの世界の空木鈴音では無いと分かっても、変わらず僕を守り助けてくれるアーヒルの為に、元の世界に戻れるその日まで共に闘おうと決めた。
アーヒルの、人には見せない繊細で優しい心を、この世界の空木鈴音が戻るまで、代わりに僕が守ろうと決意した。
それが僕の、この世界で生きていく意味なのだと、そう信じて……。
カラカラと笑う琴音に
(本当か!)
一筋の光を見付けて喜んでいると
『……多分?』
と付け加えやがった。
(お前なぁ……)
『あ! 大変! そろそろ時間になる。今回、お兄ちゃんにはチートスキルを盛モリにしといたから!』
(琴音……ラーメンのトッピングじゃないんだからさ! なんだよ、その表現)
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『あ! そろそろ会話出来なくなる。とにかく、この世界で信じて良いのはアーヒルだけだからね! まず、教会関係者や弟は信じちゃダメだよ!』
早口にまくし立てられ、返す言葉も見つからないまま、『ダメだからね~!』の一言を残して琴音の声が聞こえなくなった。
(待て! 琴音。僕はまだ大切な話をしていない!)
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「そんな……」
思わず口から声が漏れると
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「声が……琴音の声が聞こえたのに、あっという間に聞こえなくなってしまったんだ。僕、大切な事を何も伝えられなかった」
そう呟くと、アーヒルは僕を強く抱き締め
「泣くな、リン。また、連れて来てやるから」
優しく宥められてしまう。
そして拭われて初めて、目から涙が流れているのに気付いた。
(琴音に泣いたのがバレちゃうのに……、涙が止まらない)
どうやら僕は琴音の声を聞いて、ホームシックになってしまったらしい。
散々、1人で都内に出て一人暮らしをして、実家になんか戻らなかった癖に。
何故だか、異世界に来てから元の世界が恋しくて仕方ないんだ。
ひとしきり泣いて落ち着くまで、アーヒルは黙って僕を抱き締めてくれていた。
この世界に来て、最初に僕を受け止めてくれた優しくて大きな腕の中は居心地が良い。……だけど、この場所はこの世界の僕のモノだ。
琴音にお願いして、早くこの世界の空木鈴音を蘇らせてあげなくちゃ……と、そう心に誓った。
僕がこの世界で生きて行く為には、アーヒルの力が必要だ。
だけど、ただアーヒルに甘えるのでは無く、僕はこの世界を学び、知ってアーヒルが命を懸けて守ろうとしているこの国を、この世界の空木鈴音が蘇るまで一緒に守って行こうと思った。
だから、泣くのは今日で最後だ。
僕がこの世界の空木鈴音では無いと分かっても、変わらず僕を守り助けてくれるアーヒルの為に、元の世界に戻れるその日まで共に闘おうと決めた。
アーヒルの、人には見せない繊細で優しい心を、この世界の空木鈴音が戻るまで、代わりに僕が守ろうと決意した。
それが僕の、この世界で生きていく意味なのだと、そう信じて……。
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