風の声 森の唄

古紫汐桜

文字の大きさ
上 下
28 / 32

星空の下で

しおりを挟む
「はぁ……」
 食事を終えた後、美咲は夜空を見上げて溜め息を吐く。
思えば、失恋の経験って今まで一度も無かったな……と苦笑いする。
未だに空と恭介の事を考えると、どす黒い感情が胸の中を襲って自分が嫌いになりそうになる。
「私……ダメだな~」
自分の両頬を両手で叩き
「笑え! 私、笑え!」
必死に笑顔を作っていると、頭に何かがコツンと当たる。
足下を見ると、丸々とした栗が転がっているのが見えた。美咲が転がる栗を拾うと、心配そうな顔をした修治が立っているのが見えた。
「いつから居たの?」
驚いて叫ぶと、修治は心配そうな顔をして近付くと、美咲の隣に座って
「無理に笑わなくて良いんじゃない?」
そう呟いた。
「え?」
「確かに俺は、笑ってる美咲が大好きだけど……。最近は、美咲の笑顔を見てると辛いんだよね」
そう言って修治が小さく笑う。
「辛かったら、辛いって顔をしても良いんじゃない?」
「でも……そんな事したら、教授が気を使っちゃうでしょう!」
「使わせれば良いんだよ!」
美咲の言葉を遮るように、修治が叫んだ。
「何で美咲だけが、我慢しなくちゃいけないんだよ!」
修治はそう言うと、美咲の身体を抱き締めた。
「いつだって、笑顔で自分の気持ちを押し殺して。見てる俺の方が辛いよ!」
「修治……」
美咲は小さく微笑むと、抱き締める修治の背中を軽く叩いて
「ありがとう。でも、大丈夫。心配しないで。これでも私、案外強いんだから。ほら、もしかしたら、空さんに振られて、そんな教授を慰めて恋に発展するかもしれないじゃない?」
抱き締めていた修治の身体を離すと、美咲は笑顔を浮かべる。
「私、可能性がたった1%だったとしても、教授を諦めるつもりないから。それにほら、大学だと変わり者で誰もライバルがいなかったでしょう?やっと戦える相手が現れたんだもん。私、負けないよ」
そう言って修治のそばから一歩前へ立ち上がって歩き出した。
満点の星空を見上げ、月光を浴びてゆっくりと振り向いて微笑む美咲を修治は綺麗だと思った。
いつも明るくて、ひまわりのような美咲。
修治は、彼女の明るくて屈託の無い笑顔が大好きだった。しかし、この里に来てから、美咲が悲しそうな顔をしているのを知っていた。
でもそれはほんの一瞬で、いつだって気付かれないようにしているのも分かっていた。
(俺だったら、絶対にそんな顔させないのに……)
修治はそう思いながら、必死に1人で立とうとしている美咲の背中を見守っていた。
すると
「あれ?修治と美咲、何してるんだ?」
風太が恭介と座敷童子を連れて現れた。
「あ!風太君と座敷童子ちゃん。……それに教授まで。そっちこそどうしたんですか?」
笑顔を浮かべて話しかける美咲に
「恭介に、星座を教えてもらうんだ!知ってたか?夜空の星には名前があるんだぞ!」
得意気に話す風太に
「風太ちゃん、そんなのみんな知ってるぜ」
と、修治が偉そうに声を掛けた。
「嘘だね!じゃあ、修治。どの星がどの名前なのか教えて見ろよ!」
怒る風太に、修治が踏ん反り返って
「良いだろう。この博識修治様が教えて上げよう」
と答えた。
すると風太は恭介に
「恭介、博識ってなんだ?」
と聞いて来た。
「博識は、たくさんの事を知っている人の事を言うんだ」
「ふぅ~ん」
風太が恭介の言葉に納得すると
「風太ちゃ~ん、今からでも遅くない。この天才修治様を敬って良いのだぞ!」
そう言って高笑いしている。
その様子を見て、美咲と恭介が呆れた顔をすると
「恭介、敬うってなんだ?」
と、再び質問して来た。
「そうだな……。凄い人だなって、思う事かな?」
首を傾げて答える恭介に、美咲は思わず吹き出してしまう。
「柳君、何を笑っているんだ?」
ムッとした顔をする恭介に
「だって教授、講義をしているよりも難しい顔をしていますよ」
と答えた。
恭介は美咲の言葉に鼻の頭をかいて
「子供に分かり易く伝えるって、案外難しくてな」
そう言って微笑んだ。
(ずるい……)
美咲は恭介の笑顔を見て、心の中で呟く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

水鏡

古紫汐桜
キャラ文芸
都市伝説などの話を扱うオカルト雑誌の編集社に所属している、カメラマンの杉野冬夜に一通の招待状が届く。 その招待状をきっかけに坂巻遥、渡瀬幸太の二人も巻き込み、1000年の時を超えた美しくも悲しい悲劇が再び蘇ろうとしていた。 1000年の悲しい鎖に縛られた二人が出会った時、止まっていたはずの歯車が動き出す。 愛は憎しみを超えるのか? 憎しみが愛を超えるのか? 様々に入り組んだ感情が支配する中、冬夜の出す答えとは……?

天之琉華譚 唐紅のザンカ

ナクアル
キャラ文芸
 由緒正しい四神家の出身でありながら、落ちこぼれである天笠弥咲。 道楽でやっている古物商店の店先で倒れていた浪人から一宿一飯のお礼だと“曰く付きの古書”を押し付けられる。 しかしそれを機に周辺で不審死が相次ぎ、天笠弥咲は知らぬ存ぜぬを決め込んでいたが、不思議な出来事により自身の大切な妹が拷問を受けていると聞き殺人犯を捜索し始める。 その矢先、偶然出くわした殺人現場で極彩色の着物を身に着け、唐紅色の髪をした天女が吐き捨てる。「お前のその瞳は凄く汚い色だな?」そんな失礼極まりない第一声が天笠弥咲と奴隷少女ザンカの出会いだった。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

声劇台本置き場

ツムギ
キャラ文芸
望本(もちもと)ツムギが作成したフリーの声劇台本を投稿する場所になります。使用報告は要りませんが、使用の際には、作者の名前を出して頂けたら嬉しいです。 台本は人数ごとで分けました。比率は男:女の順で記載しています。キャラクターの性別を変更しなければ、演じる方の声は男女問いません。詳細は本編内の上部に記載しており、登場人物、上演時間、あらすじなどを記載してあります。 詳しい注意事項に付きましては、【ご利用の際について】を一読して頂ければと思います。(書いてる内容は正直変わりません)

モノの卦慙愧

陰東 愛香音
キャラ文芸
「ここじゃないどこかに連れて行って欲しい」   生まれながらに異能を持つひなは、齢9歳にして孤独な人生を強いられた。  学校に行っても、形ばかりの養育者である祖父母も、ひなの事を気味悪がるばかり。  そんな生活から逃げ出したかったひなは、家の近くにある神社で何度もそう願った。  ある晩、その神社に一匹の神獣――麒麟が姿を現す。  ひなは彼に願い乞い、現世から彼の住む幽世へと連れて行ってもらう。 「……ひな。君に新しい世界をあげよう」  そんな彼女に何かを感じ取った麒麟は、ひなの願いを聞き入れる。  麒麟の住む世界――幽世は、現世で亡くなった人間たちの魂の「最終審判」の場。現世での業の数や重さによって形の違うあやかしとして、現世で積み重ねた業の数を幽世で少しでも減らし、極楽の道へ進める可能性をもう一度自ら作るための世界。  現世の人のように活気にあふれるその世界で、ひなは麒麟と共に生きる事を選ぶ。  ひなを取り巻くあやかし達と、自らの力によって翻弄される日々を送りながら、やがて彼女は自らのルーツを知ることになる。

『元』魔法少女デガラシ

SoftCareer
キャラ文芸
 ごく普通のサラリーマン、田中良男の元にある日、昔魔法少女だったと言うかえでが転がり込んで来た。彼女は自分が魔法少女チームのマジノ・リベルテを卒業したマジノ・ダンケルクだと主張し、自分が失ってしまった大切な何かを探すのを手伝ってほしいと田中に頼んだ。最初は彼女を疑っていた田中であったが、子供の時からリベルテの信者だった事もあって、かえでと意気投合し、彼女を魔法少女のデガラシと呼び、その大切なもの探しを手伝う事となった。 そして、まずはリベルテの昔の仲間に会おうとするのですが・・・・・・はたして探し物は見つかるのか? 卒業した魔法少女達のアフターストーリーです。  

ヒカリとカゲ♡箱入り令嬢の夢見がちな日常♡

キツナ月。
キャラ文芸
世間知らずな令嬢の恋を、トイレが激近い泥棒が見守る(面白がる)ドタバタおトイレLOVEコメディ❤️ ※表紙はフリー素材です※ 《主な登場人物》 ♡胡桃沢(くるみざわ)ヒカリ 深窓の令嬢。17歳。恋しがち。 ♡カゲ 泥棒。 ヒカリの気まぐれで雇われる? トイレが激近い(危険な時は特に)。 令嬢が章ごとに恋するスタイル👀✨ ⚡️泥棒の章⚡️ 恋愛対象→危険な香りの泥棒❤️ 今後の物語に絡んでくる人物。 🎹ピアノ男子の章🎹 恋愛対象① 奏斗(かなと)さま…謎多き美貌のピアニスト❤️ 恋愛対象② 森下奏人さま…ヒカリが通う学園の教育実習生、担当教科は音楽❤️ 💡ゴージャスな学園やライバルお嬢も登場。 🏥お医者さまの章🏥 恋愛対象→医師・北白河 誠さま❤️ 💡じいちゃんが健康診断を受けることになり──? 🌹お花屋さんの章🌹 恋愛対象→???    

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

処理中です...