風の声 森の唄

古紫汐桜

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空の食事が示す想い

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 その日は風太が話した通り、茶碗蒸しと竹の子ご飯に鳥の唐揚げが食卓に並んでいた。
「肉!久し振りの肉!」
大はしゃぎする修治に、美咲が頭を叩き
「うるさい!風太君や座敷童子ちゃんを見てごらんなさい!大人しく待っているじゃ無い!」
そう叫ぶ。
「そんなに肉が食いたいなら、俺の分を上げようか?」
山盛りの唐揚げが乗っているお皿を差し出す恭介に、修治が手を伸ばそうとすると、今度は風太がその手を叩いた。
「修治!ダメだぞ!オイラ、恭介に食べさせる為に大龍神様の神殿まで行ってきたんだ!お前は自分の分を食べろ!」
そう言って怒っている。
「恭介も恭介だぞ!オイラはお前の為にもらってきたんだ。ちゃんと食べなくちゃダメだぞ!」
恭介にも怒り出した風太に、恭介は苦笑いを浮かべる。
「でも、こんなには食べられないから、みんなで分けて食べないか?」
恭介の言葉に、風太は腕組みをして考えるフリをすると
「仕方ねぇな!オイラ達が少し食ってやるよ!」
そう言って笑顔を浮かべた。
唐揚げが三つずつ並んだお皿に、恭介は唐揚げを1つずつ置くと、風太と座敷童子にもう1つずつ乗せてあげた。
すると風太は目をまん丸にして
「良いのか? オイラ達がこんなにもらって」
と叫んだ。
「風太達は育ち盛りなんだから、たくさん食べなさい」
そう言って微笑んだ恭介に、風太が笑顔を返す。
その光景はまるで、親子のようだと美咲は眺めていた。
「じゃあ、食べましょうか」
美咲がそう言うと、恭介は食卓に空が居ない事に気が付き
「柳君、空さんがまだ……」
と呟くと
「空さんなら、出掛けましたよ」
恭介の言葉を遮るように、美咲がそう答えた。
「え?」
「何でも、大龍神様の神殿をお守りする当番だとかで……。今日は戻らないそうです」
美咲がそう言うと、恭介は用意された食事を見つめ
「そうか……、居ないのか?」
そう呟いた。
記憶が戻った事で、彼女に確認したい事が幾つかあった。でも、それを故意に避けられているような気がしてならなかった。
すると
「恭介は空が好きなのか?」
と、突然、風太が聞いてきた。
「え?」
驚いた顔をすると
「恭介と空がくっ付けば、恭介はずっと此処に残れるのにな。な、座敷童子!」
風太が楽しそうに言うと、座敷童子が悲しそうに首を横に振った。
「なんだよ、座敷童子。お前、恭介が嫌いなのかよ!」
そう言うと、座敷童子が美咲の顔を見て再び首を横に振った。
風太はひたすら首を横に振る座敷童子の視線に気付いて
「あ!そうか!美咲は恭介が好きだったんだよな。じゃあ、残念だけど諦める。オイラ、美咲も大好きだから、美咲が悲しむなら恭介とバイバイ出来るぞ」
屈託の無い笑顔て話す風太の言葉に、今度は美咲の方が泣いてしまいそうになった。
(とっくに失恋しているのに……。教授にとって、私はずっと自分を慕う生徒のまま……)
美咲は挫けそうになる気持ちを振り切るように首を振って
「ほら!無駄話していたら、せっかく風太君がもらってきてくれた鶏肉と卵を使った茶碗蒸しと、炊き込みご飯に唐揚げが冷めちゃうよ!食べよう!」
そう叫ぶと、みんなで「いただきます」と言ってご飯を口に入れた。
口に入れた、たけのこご飯の味は優しくて
(空さん……。どんなに気持ちを誤魔化しても、こんなに愛情のこもった料理を出されたら、あなたが教授をどう思っているのか分かっちゃうじゃないですか……)
溢れそうになる涙を堪えて、美咲は必死に食事を口に運んだ。
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