風の声 森の唄

古紫汐桜

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龍神の里での暮らし

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 あれから数日が経過して、最初は此処での暮らしに戸惑っていた3人も、次第に慣れ始めて来た。
空が井戸から水を汲んでいると
「そ~らさん。それ、台所に持って行くんでしょう?俺、やりますよ」
修治は、空が水汲みや薪割り。その他、重い荷物の仕事をしていると、何処からともなく現れて手伝ってくれる。
「空さん、洗い物終わりました。何か他にお手伝いしましょうか?」
美咲も、大学で一人暮らしをしていたとかで、家事を手伝ってくれて助かっている。
「ありがとうございます」
2人に微笑んで答えると
「そ~ら~!」
と、自分を呼ぶ風太の声が聞こえて視線を向けると、恭介とバケツを2人で持って手を振っていた。
 3人が来てから、風太は毎日楽しそうにしている。ずっと、この世界では空と座敷童子の3人で過ごしていた風太にとって、恭介達3人が良い刺激になっているようだった。
空は風太に笑顔を浮かべて
「今日はどこに行って来たの?」
と声を掛けると
「今日はね、恭介と一緒に釣りに行って来たんだ」
そう言って、バケツに入ったヤマメを得意気に見せて来た。
「いや~、思ったより魚が釣れて驚きました」
笑顔で語り掛ける恭介に、空は一瞬、顔を強ばらせてから作り笑顔で微笑み
「そうですか……」
そう答えて、視線をすぐに風太へと戻した。
「見て見て!ヤマメが、1、2、3……いっぱいだよ!」
無邪気に笑う風太に、空は優しく微笑み返す。
「では、今夜はヤマメの焼き魚ですね」
空が顔を上げた瞬間、微笑みながら空を見下ろした恭介と顔が近付く。
思ったより間近だった顔に
「あ……すみません」
そう言って慌てて俯く空に、恭介が口を開き掛けると
「教授! 魚釣りに行ってたんですか?」
と、美咲が声を掛けて来た。
恭介が美咲に視線を向けると、空はバケツを掴んで
「夕飯の支度……して来ますね」
そう言い残して走り去ってしまう。
恭介は走り去る空の後ろ姿を見つめて、深い溜め息を吐いた。
此処に来てから、他の2人とは親し気にしている空が、自分を避けているように恭介は感じていた。
近付けば遠避ける空が、恭介は気になって仕方なかった。
今まで他人に興味の無かった自分が、何故、空に避けられているのが気になるのかが不思議だった。
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