風の声 森の唄

古紫汐桜

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嵐の予感

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そして風太は鼻の下を人差し指でこすると
「この勝負はお預けだな!」
と言うと、手を差し出す空に走り寄りその手を繋いで歩き出す。
 座敷童子も又、風太にあかんべをすると、風太とは反対側の座敷童子に差し出され空の手を繋いだ。
そして二人は空を見上げ、空はそんな二人を笑顔で見つめ返すと仲良く歩き出した。
「それにしても、そんなに興奮するような事が何かあったの?」
そう空が訪ねると
「あ! そうだった。大変なんだよ! 人間が、人間がこの森に迷い込んでいるんだよ!」
と、風太が叫んだ。
すると空は一瞬、自分の耳を疑った。
「え?」
笑顔で聞き返すと
「だ~か~ら~! この森に、人間が迷い込んでいるんだって!」
風太が地団駄を踏んで叫ぶのを聞いて、空は驚いた顔をすると
「なんでそんな大事な事を、先に言わないの!」
と叫ぶと、2人は手を繋いでいない反対側の手で空を指さし
「オイラたちはずっと話してたよ!」
「そうだよ!だから言ったじゃないの!」
口々に文句を言うと
「話を聞かなかったのは、空じゃないか!」
と、息ピッタリに叫んだのだ。
空はそんな二人にガックリと肩を落とし
「きみたち、そういう時は息ぴったりなのね」
そう呟くと、
「2人にお願いがあるの」
と言うと、繋いだ手を離して2人を並ばせると、目線の高さにしゃがみ肩に手を置いて
「迷い込んだ人間を見つけ出してもらっても良い?早くこの森から出さないと、大変な事になってしまうから」
そう言った。
2人は顔を見合わせて頷くと
「空、任せろ! 森はオイラの友達だ! 人間の居場所なんか、すぐに見つけ出せる!」
風太はそう叫ぶと走り出した。
その速さは、まさに疾風のようだった。
しかし、いつもなら風太に着いて行く座敷童子が心配そうに空の手を掴むと
「人間……大丈夫?」
と訊ねた。
空は小さく微笑み、座敷童子の手を包むと
「大丈夫よ。ありがとう、座敷童子」
と答えた。
すると自分に付いて来ない座敷童子を心配して、風太が戻って来ると
「座敷童子、何しているんだよ! 置いて行くぞ」
そう叫んだ。
そんな風太に、座敷童子が慌てて走り寄る。
そんな座敷童子を見て、風太は満足そうに笑うと
「行くぞ!」
と叫んで再び走り出した。
すると、座敷童子はもう一度心配そうに振り向いて空の顔を見ているので、空は座敷童子に微笑んで
「大丈夫だから、行って頂戴」
そう答えた。
座敷童子は空に頷くと、急いで風太の後を追い掛けて行った。
二人の背中を見送ると、空は遠くで遠雷が鳴る青空を見上げ
「嵐が来そうですね…」
そう独り言を呟いて歩き出した。
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