風の声 森の唄

紛れ込んでしまった世界

美咲と修治の姿が見えなくなると、木々の間にある草むらから二人の子供が顔を出した。
「見たか？　座敷童子」
年の頃、5歳くらいの青い着物を着た男の子が、おかっぱ頭に赤い着物を着た女の子と手を繋いで現れる。
「今の……人間だったよな？」
男の子はそう言うと、『座敷童子』と呼んでいる女の子に話しかけた。
少女が頷くと、少年が
「早く空そらに知らせないと……」
と言って、走り出そうと一歩前に足を出したその時だった。
森の奥から紫の布に桜の絵が描かれた着物に袴を着た姿で、長い髪の毛をポニーテールにして着物と同じ生地で作られたリボンを付けた女性が現れたのだ。
「風太、座敷童子、こんな所で何をしているの？」
「空！」
空と呼ばれた女性が2人に声をかけると、『風太』『座敷わらし』と呼ばれた少年とおかっぱの少女が声を揃えて彼女の名前を叫んだ。そして2人はそれぞれ空へ駆け寄ると、何やら必死に訴え始めた。
しかし二人一斉に話しているので、空には何を言っているのか全く分からない。
空は屈んで2人の目線の高さになると
「何言ってるか分からないから、1人ずつ話そうか？」
そう話しかけるが、再び2人が一斉に何かを話し始めてしまう。
困った空が
「ん～。じゃあ、代表で1人が話してくれる？」
と優しく語りかけると、今度は2人で手を挙げて主張し始めてしまう。
「オラが話す！」
「私が話す！」
言い合いが始まり、喧嘩になりそうになってしまい、空は困ってしまう。
「あ～！　もう、分かったから。じゃあ、ジャンケンで代表を決めようか？」
空が提案すると、風太と呼ばれた少年が腕捲りをして
「とうとう、オイラと座敷童子との違いを見せる時が来たようだ！」
とほくそ笑む。
座敷童子も腕まくりすると
「偉そうにしてられるのも今のうちだよ、風太」
そう言って背中合わせになった。
それはまるで、西部劇の打ち合いをするかのような姿だった。
二人は緊張した顔をすると、数歩歩いて振り向き
「最初はグー！又々グー！いかりや長介中身はパー！正義は勝つ！ジャンケンポン！」
と叫んでジャンケンを始めた。
空が驚いた顔をして
「何、それ？」
と聞くと、風太は得意げに微笑み
「カッコいいだろう？　山の狸ジィに教わったんだ。今、人間界で流行ってるらしいぜ！」
そう答えて、再び奇妙なジャンケンを始めた。しかし仲の良い2人は、永遠にあいこを繰り返す。
「ねぇ……まだ？」
呆れた声で話しかけた空を
「うるさい！　気が散る！」
そう一蹴すると、無視してジャンケンを続ける二人。
段々と西の空が赤く染まり始め、空は溜め息を吐くと
「そろそろ帰ってご飯の支度しないと、ご飯が遅くなるよ」
そう叫んだ。
すると空の言葉に、二人は一斉に動きを止めて
「ご飯！」
と叫んだ。