花火

古紫汐桜

文字の大きさ
上 下
8 / 25

認めたくない思い

しおりを挟む
   まだ自分が20代の頃、職場に40代で未婚の女性が居た。
性格は大雑把で、制服のスカートの裾が解れると、平気でホチキスで留めるような人だった。
若い女の子が大嫌いで、ちょっとでも会社の男性に優しくされると、その子を1日無視するような人だった。
当時、パートで来ていた50代の女性から
「結婚は失敗しても良いから一度はしなさい。じゃないとあぁなるわよ」
と、女性からも笑われているような人だった。
彼女はいつまでたっても若いつもりで、10代の男の子が「私にだけ話しかけてくるのはなんでだと思う?」って、私に「好きなんじゃ無いんですか?」と、明らかに言わせたい顔で聞いて来た。
私には2つ下に弟が居たので、10代後半の男の子が40代後半の女性に好意を持つとはどうしても言えなくて、
「お母さんみたいに思ったのでは?」
と言ってしまたのだ。
すると彼女は顔を真っ赤にして怒り出し
「あなた、失礼ね!」
と怒鳴ると、その日から私への虐めが始まった。
連絡事項は伝えない。
わざと私に電話応対をさせ
「ごめんなさいね~。新人だから、な~んにもわからないのよ!」
って叫んで取引先に言ったりしていた。
彼女の虐めはあからさまだったので、社内で問題になり、自主退職していった。
(この人の場合、私の他にも、女性の新人が何人もいじめられていたのが原因ではあったのだけど……)
あの姿を見て、私はずっとあぁはなるまいと思って生きて来た。
どんなに自分が若く見えたとしても、所詮は40代。
肌の艶や張りも違うし、何より手の甲が若い子と明らかに違う。
老いる事を怖いと思った事も無かったし、私は魅力的に生きている諸先輩方が憧れだった。
自分も良い年齢の取り方をしたいと思っていたし、実際、そう生きていると思っていた。
何不自由の無い生活。積み上げた社会的地位。
そんな自分の今までの価値観が、根底から覆されそうで怖かった。

   あの日以来、三島健人は私を見掛けると声をかけてくるようになった。
とはいえ
「おはようございます」
とか
「今日はノー残DAYですから、さっさと帰ってくださいよ」
とか、相変わらず、可愛らしさのカケラもない会話。
でも、その言葉が温かく感じてしまうくらいには、私は彼に惹かれてしまっていたらしい。
そして、後から知ったのだが、彼の奥様は同じ会社で総務の女の子という事。
社内外で、美人で有名な子だと噂で聞いた。
今は時短出勤をしていて、妊活をしているとかいないとか…。
子供を望めない年齢の私には、若い子との恋愛を望んではいけないと頭で理解していた。
私には、彼の遺伝子を残すことはもう無理だから……。
あんなに早く「女」であることを終わらせたかったのに、今、こんなにも足枷に思うなんて……人間とは欲深い生き物だと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

婚約者

詩織
恋愛
婚約して1ヶ月、彼は行方不明になった。

愛されない女

詩織
恋愛
私から付き合ってと言って付き合いはじめた2人。それをいいことに彼は好き放題。やっぱり愛されてないんだなと…

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

ずぶ濡れで帰ったら置き手紙がありました

宵闇 月
恋愛
雨に降られてずぶ濡れで帰ったら同棲していた彼氏からの置き手紙がありーー 私の何がダメだったの? ずぶ濡れシリーズ第二弾です。 ※ 最後まで書き終えてます。

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

届かない手紙

白藤結
恋愛
子爵令嬢のレイチェルはある日、ユリウスという少年と出会う。彼は伯爵令息で、その後二人は婚約をして親しくなるものの――。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中。

処理中です...