勿忘草~尚也side~

古紫汐桜

文字の大きさ
上 下
1 / 11

プロローグ

しおりを挟む
物心着いた時から、俺の隣にはみちるが居た。
子供の頃は、お転婆なみちるが男の子に間違えられ、おとなしかった俺が女の子に間違われた。

「なおちゃん」

そう言って差し出される手は優しくて、何度その手に救われたろう。

菜の花が一面を黄色に染め、野原を駆け回り淡いピンク色の桜が咲き乱れる春
強い日差しがキラキラと水面を照らす川で遊んだ夏
落ち葉を集めて焚き火をして、アルミホイルで包んだ焼き芋を頬張った秋
世界を一面、真っ白に染めたまっさらな雪景色に手を繋いで飛び込んだ冬

俺の世界には、いつだってみちるが居た。
おとなしい俺をからかう奴らが居ると、いつだってみちるが飛んで来て助けてくれた。
年月が過ぎゆき、俺の身長がみちるを追い越して、性別の違いを意識し始めたきっかけもみちるだった。
「なおちゃん」から「尚也」になったのも、その頃だったように記憶している。
俺の記憶の中には、いつだって向日葵のように笑うみちるの姿があった。
みちるの笑顔に、何度救われただろう。
きみのひまわりのような笑顔が、大好きだった……。
「尚也」
って呼ぶ声が大好きだった。
ずっとずっと……一緒に居られると信じてた。
みちる……もしも突然俺が消えたら

泣くだろうか?
悲しむだろうか?
怒るだろうか?
憎むだろうか?

……どんな形でも、みちるの思い出の中から自分が消えるのは嫌だと思った。
我儘な願望だよな……。
俺は、全部忘れちゃうのに……。

病院帰りに見上げた空は、やけに綺麗で真っ青な青空が広がっていた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『高校生活』

篠崎俊樹
青春
書き下ろしの連載青春小説です。自分自身に仮託して、私自身の昔のことを書いていきます。書籍化を目指します。どうぞよろしくお願いいたします!

夏の抑揚

木緒竜胆
青春
 1学期最後のホームルームが終わると、夕陽旅路は担任の蓮樹先生から不登校のクラスメイト、朝日コモリへの届け物を頼まれる。  夕陽は朝日の自宅に訪問するが、そこで出会ったのは夕陽が知っている朝日ではなく、幻想的な雰囲気を纏う少女だった。聞くと、少女は朝日コモリ当人であるが、ストレスによって姿が変わってしまったらしい。  そんな朝日と夕陽は波長が合うのか、夏休みを二人で過ごすうちに仲を深めていくが。

キミの隣で

江上蒼羽
青春
***** 春は嫌いだ。 眠いし花粉は飛んでるし、虫も出てくるし。 だけど一番の理由は キミが少し遠い存在になっちゃう事が寂しいから…… H31.4/16~公開 *****

青春再見

佐伯明理(さえきあかり)
青春
主婦のわたし。子供たちを送った帰り道に……。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

蒲ちゃん

maa坊/中野雅博
青春
中学生の悪ガキの桜井には親友が居た。 蒲ちゃんという、ちょっとデブで愛嬌のある、誰にも好かれるような少年が。 これは、彼と蒲ちゃんの純粋な友情と成長の物語。 そう、二人が大人になるまでの。

幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。

久野真一
青春
 羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。  そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。  彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―  「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。  幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、  ある意味ラブレターのような代物で―  彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。  全三話構成です。

クラス一の秀才美少女がオレに小説を読ませてくるのだが、展開が「ちょっと待て!」とツッコミたくなる

椎名 富比路
青春
漫画家志望者の主人公が、作家志望のヒロインからコミカライズしてもらいたいと頼まれる。 だが、それはそれはもうツッコミどころ満載の作品ばかり。 見た目が美少女なのに、なんだこれ。 主人公は容赦なく、ツッコミを入れていく。 コンセプトは『相席食堂』。

処理中です...