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野花のような君へ
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春になり、僕ははじめと2人で『蔦田家の墓』と記された墓石の前で手を合わせる。
お墓は綺麗にされており、まだそんなに日数が経過していないであろう、生花が飾られていた。
はじめがまだ綺麗な花を残し、持って来た花を飾っている。
僕は墓石を綺麗な濡れ雑巾で拭いた後、乾いた綺麗な雑巾で墓石を拭いた。
持って来たお線香を手向け、はじめと並んで手を合わせる。
温かい風が頬を撫で、お墓には不似合いだと分かっていたけど、美鈴にはこの花がピッタリだからと選んだ向日葵の花が揺れている。
「向日葵のような女性って、素敵ですね」
優しく微笑むはじめは、タンポポのような愛らしさと逞しさを兼ね備えている。
きみとなら、どんなに険しい道でも手を取り合って生きていける。僕はそう思った。
お墓参りの道具を片付けて、ゆっくりとはじめと歩いていると
「創!幸せにね!」
と、向日葵のような笑顔を浮かべて手を振る美鈴の姿が見えた……ような気がした。
するとはじめも不思議そうな顔をして
「今、誰か創さんを呼んでませんでしたか?」
って、当たりをキョロキョロした後、ふわりと優しく微笑んで
「創さんの初恋の人は、本当に向日葵のような人だったんですね」
そう呟いた。
僕達は顔を見合わせて微笑むと
「創さんは、穢れの無い真っ白な薔薇のようですよね」
と僕に手を差し出した。
僕がはじめの手を握り返すと
「創さん。出会ってくれて、俺を好きになってくれてありがとうございます」
いつになく真剣に言われて、思わず苦笑いを返し
「それは僕の方だよ、はじめ」
そう言って、僕より高い位置にあるはじめの頬に触れた。
「創さん?」
驚いた顔をするはじめに
「これからもずっと、こうして僕の手を引いてくれよ」
と微笑み返した。
はじめはふわりと柔らかい笑顔を浮かべ
「ずっと二人で、ゆっくり歩いて行きましょうね」
そう言って車へと二人で並んで歩いた。
ずっと……何故、自分が生まれて来たのか。
何故、生かされていたのかが分からなかった。
でも、今なら迷わず言える。
僕の手を取り、優しく微笑むはじめと出会う為だったんだと。
なぁ、はじめ。
きみは僕を綺麗だと言うけれど、僕からしたらはじめの方が純粋無垢でずっと綺麗だよ。
山に咲く高山植物を都会に持ち帰れば、気候や気温が合わずに枯れてしまうだろう。
はじめも、あの場所でしか生きていけないと分かっている。
だから、僕は自分がきみの傍に居ることを選択した。
僕はきみと居ると、とてもとても幸せな気持ちになれるんだ。
きみはちっとも、その辺を理解してはくれないけど……。
僕は野花のように、優しく強く上へと真っ直ぐ伸びるきみが……きみだから好きになった。
だからね、悩んだり迷ったり喧嘩したりするだろう。
その度に二人で悩んだり迷ったり、喧嘩をしたら仲直りをしていこう。
きみとなら、そうやって生きていけると思うから……。
僕は隣に並んで歩くはじめに、そう心の中で呟いた。
車に到着して、鍵を開けて車に乗り込む。
行きは、はじめが運転していたから、帰りは僕の運転で帰宅する。
助手席に座りシートベルトを締めるはじめに、エンジンを掛けながら
「じゃあ、僕達の家に帰ろうか」
と声を掛けた。
するとはじめは弾けるような笑顔を浮かべ
「はい!」
そう答えて頷いた。
ゆっくりと車を走らせ、山奥の新しい僕の家族が待つ家に向かう。
僕は、野花のようなきみと一緒に、温かくて優しい歳を重ねた家族を得た。
もう、孤独に泣き暮らす日々は来ない。
愛するはじめと、優しくて大らかなきみを育ててくれた祖父母。そして雄大な自然の待つ我が家へと、温かくて穏やかで幸せな気持ちを胸に帰宅の道を走り続けた。[完]
お墓は綺麗にされており、まだそんなに日数が経過していないであろう、生花が飾られていた。
はじめがまだ綺麗な花を残し、持って来た花を飾っている。
僕は墓石を綺麗な濡れ雑巾で拭いた後、乾いた綺麗な雑巾で墓石を拭いた。
持って来たお線香を手向け、はじめと並んで手を合わせる。
温かい風が頬を撫で、お墓には不似合いだと分かっていたけど、美鈴にはこの花がピッタリだからと選んだ向日葵の花が揺れている。
「向日葵のような女性って、素敵ですね」
優しく微笑むはじめは、タンポポのような愛らしさと逞しさを兼ね備えている。
きみとなら、どんなに険しい道でも手を取り合って生きていける。僕はそう思った。
お墓参りの道具を片付けて、ゆっくりとはじめと歩いていると
「創!幸せにね!」
と、向日葵のような笑顔を浮かべて手を振る美鈴の姿が見えた……ような気がした。
するとはじめも不思議そうな顔をして
「今、誰か創さんを呼んでませんでしたか?」
って、当たりをキョロキョロした後、ふわりと優しく微笑んで
「創さんの初恋の人は、本当に向日葵のような人だったんですね」
そう呟いた。
僕達は顔を見合わせて微笑むと
「創さんは、穢れの無い真っ白な薔薇のようですよね」
と僕に手を差し出した。
僕がはじめの手を握り返すと
「創さん。出会ってくれて、俺を好きになってくれてありがとうございます」
いつになく真剣に言われて、思わず苦笑いを返し
「それは僕の方だよ、はじめ」
そう言って、僕より高い位置にあるはじめの頬に触れた。
「創さん?」
驚いた顔をするはじめに
「これからもずっと、こうして僕の手を引いてくれよ」
と微笑み返した。
はじめはふわりと柔らかい笑顔を浮かべ
「ずっと二人で、ゆっくり歩いて行きましょうね」
そう言って車へと二人で並んで歩いた。
ずっと……何故、自分が生まれて来たのか。
何故、生かされていたのかが分からなかった。
でも、今なら迷わず言える。
僕の手を取り、優しく微笑むはじめと出会う為だったんだと。
なぁ、はじめ。
きみは僕を綺麗だと言うけれど、僕からしたらはじめの方が純粋無垢でずっと綺麗だよ。
山に咲く高山植物を都会に持ち帰れば、気候や気温が合わずに枯れてしまうだろう。
はじめも、あの場所でしか生きていけないと分かっている。
だから、僕は自分がきみの傍に居ることを選択した。
僕はきみと居ると、とてもとても幸せな気持ちになれるんだ。
きみはちっとも、その辺を理解してはくれないけど……。
僕は野花のように、優しく強く上へと真っ直ぐ伸びるきみが……きみだから好きになった。
だからね、悩んだり迷ったり喧嘩したりするだろう。
その度に二人で悩んだり迷ったり、喧嘩をしたら仲直りをしていこう。
きみとなら、そうやって生きていけると思うから……。
僕は隣に並んで歩くはじめに、そう心の中で呟いた。
車に到着して、鍵を開けて車に乗り込む。
行きは、はじめが運転していたから、帰りは僕の運転で帰宅する。
助手席に座りシートベルトを締めるはじめに、エンジンを掛けながら
「じゃあ、僕達の家に帰ろうか」
と声を掛けた。
するとはじめは弾けるような笑顔を浮かべ
「はい!」
そう答えて頷いた。
ゆっくりと車を走らせ、山奥の新しい僕の家族が待つ家に向かう。
僕は、野花のようなきみと一緒に、温かくて優しい歳を重ねた家族を得た。
もう、孤独に泣き暮らす日々は来ない。
愛するはじめと、優しくて大らかなきみを育ててくれた祖父母。そして雄大な自然の待つ我が家へと、温かくて穏やかで幸せな気持ちを胸に帰宅の道を走り続けた。[完]
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