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新しい自分
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1年の月日が流れ、僕は遂に「高杉」から「熊谷」に苗字が変わった。
色んな手続きがあり大変だったが、一番変わったのは診療所を畳んだ事。
深沢弁護士からちょうど、はじめのお爺様が入院している病院で心療内科の医師を探しているとご紹介され、高杉診療所を丸々っと石塚総合病院で引き受けてくれる事になった。
通勤なども変わるので、みんなにどうするか?を聞いたら「着いて行くに決まってるじゃないですか!」と答えてくれた。
患者さんはさすがに無理だろうと、信頼出来る診療所を紹介したものの、大半の患者さんが新しい診療所に足を運んでくれた。
駅で3つの所とはいえ、歩きで行けた場所からわざわざ電車で来て下さった患者さんの顔を見た時には泣きそうになった。
生活も落ち着いた頃、深沢先生にお礼をお伝えした後、深沢先生を紹介してくれたハルさんにもほんの心ばかりの品を手にお礼を伝えると
「……本当は内緒にしてくれと言われていたんだけどね」
と言いづらそうにしながら
「深沢先生を紹介したのは、蔦田さんなんだよ」
そう言われた。
「え?」
驚く僕にハルさんは小さく微笑んで
「はじめ君ときちんと付き合い始めたのを知って『高杉先生が困った時、彼には絶対に秘密にして必ず知らせて欲しい』と頭を下げられていてね」
と言って
「『彼には償っても償いきれない罪を僕は犯した』と蔦田さんは言っていたけど、そうなの?」
優しいハルさんの色素の薄い瞳が僕を見つめた。
僕はハルさんの薄茶色い瞳から逃れるように視線を落とし
「いいえ。僕が子供で、逆に蔦田さんの傷口に塩を塗ったんです」
と答えると、ハルさんはクスクスと笑い出した。
驚いて顔を上げると
「全く……。2人して、同じ表情をして……。あのさ、人は誤解から離れたりする事もある。又、自分を守る為に人を傷付けてしまう事もある。でも、年月が解決してくれる事もあると思うんだ」
優しい表情でそう言うと
「ねぇ、時間が掛かっても良い。いつか2人が仲良くなれたら、きっと……2人の心の中に居る大切な人は喜ぶと思うよ」
と続けた。
……そうだろうか?
向日葵のように明るくて、姉のように優しかった人。
『創、大好きよ』
そう言って、いつも僕に手を差し伸べてくれた大好きで大切だった人。
今の僕を見て、きみは笑ってくれるだろうか?
そして、長く仲違いしていた彼との和解を望んでいるのだろうか?
目を閉じると、たくさんの向日葵の中で麦わら帽子に真っ白なワンピースを着て笑う彼女の姿が浮かぶ。
「そうですね……」
小さく微笑んで頷く僕に、ハルさんも優しく微笑んだ。
きっと、蔦田さんとの雪解けが「高杉 創」として生きて来た僕の最後のケジメであり、僕を信じてこの手を握り返してくれたはじめとの新しい生活を始める為の出発地点に立つ為に必要な事なのかもしれい。
僕はそう思って、覚悟を決めた。
色んな手続きがあり大変だったが、一番変わったのは診療所を畳んだ事。
深沢弁護士からちょうど、はじめのお爺様が入院している病院で心療内科の医師を探しているとご紹介され、高杉診療所を丸々っと石塚総合病院で引き受けてくれる事になった。
通勤なども変わるので、みんなにどうするか?を聞いたら「着いて行くに決まってるじゃないですか!」と答えてくれた。
患者さんはさすがに無理だろうと、信頼出来る診療所を紹介したものの、大半の患者さんが新しい診療所に足を運んでくれた。
駅で3つの所とはいえ、歩きで行けた場所からわざわざ電車で来て下さった患者さんの顔を見た時には泣きそうになった。
生活も落ち着いた頃、深沢先生にお礼をお伝えした後、深沢先生を紹介してくれたハルさんにもほんの心ばかりの品を手にお礼を伝えると
「……本当は内緒にしてくれと言われていたんだけどね」
と言いづらそうにしながら
「深沢先生を紹介したのは、蔦田さんなんだよ」
そう言われた。
「え?」
驚く僕にハルさんは小さく微笑んで
「はじめ君ときちんと付き合い始めたのを知って『高杉先生が困った時、彼には絶対に秘密にして必ず知らせて欲しい』と頭を下げられていてね」
と言って
「『彼には償っても償いきれない罪を僕は犯した』と蔦田さんは言っていたけど、そうなの?」
優しいハルさんの色素の薄い瞳が僕を見つめた。
僕はハルさんの薄茶色い瞳から逃れるように視線を落とし
「いいえ。僕が子供で、逆に蔦田さんの傷口に塩を塗ったんです」
と答えると、ハルさんはクスクスと笑い出した。
驚いて顔を上げると
「全く……。2人して、同じ表情をして……。あのさ、人は誤解から離れたりする事もある。又、自分を守る為に人を傷付けてしまう事もある。でも、年月が解決してくれる事もあると思うんだ」
優しい表情でそう言うと
「ねぇ、時間が掛かっても良い。いつか2人が仲良くなれたら、きっと……2人の心の中に居る大切な人は喜ぶと思うよ」
と続けた。
……そうだろうか?
向日葵のように明るくて、姉のように優しかった人。
『創、大好きよ』
そう言って、いつも僕に手を差し伸べてくれた大好きで大切だった人。
今の僕を見て、きみは笑ってくれるだろうか?
そして、長く仲違いしていた彼との和解を望んでいるのだろうか?
目を閉じると、たくさんの向日葵の中で麦わら帽子に真っ白なワンピースを着て笑う彼女の姿が浮かぶ。
「そうですね……」
小さく微笑んで頷く僕に、ハルさんも優しく微笑んだ。
きっと、蔦田さんとの雪解けが「高杉 創」として生きて来た僕の最後のケジメであり、僕を信じてこの手を握り返してくれたはじめとの新しい生活を始める為の出発地点に立つ為に必要な事なのかもしれい。
僕はそう思って、覚悟を決めた。
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