野花のような君へ

古紫汐桜

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これからの事

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お祖母様の話を聞いて、堪らない気持ちになった。
僕の知っているはじめは、確かにオドオドすることはあるけど、いつも優しい笑顔を浮かべている。
人の気持ちを思いやり、誰に対しも優しいはじめが、何故、自信無さそうに眉を八の字にするのか。
身長が高くて、見た目も僕の主観ではカッコイイと思えるはじめが、何処か自分に自信が持てないのは、顕在意識には無い、潜在意識の中に幼少期の経験があるからなのかもしれない。
そう思うと、居た堪れない気持ちになった。
「あの!」
僕はお祖母様に向き合い
「僕が……僕の人生を掛けてはじめ君を幸せにします!」
そう言って頭を下げた。
「伺った話は、決して口外しません。むしろ、話をして下さりありがとうございます」
と言って母屋から飛び出した。
外の冷えた空気で頭を冷やしたかった。
家の灯りしか無い真っ暗な空を見上げると、浴室からはじめの鼻歌が聞こえて来て、思わず笑みが零れる。
本人は無意識らしいが、はじめはご機嫌な時に鼻歌を歌う。
はじめの声は優しい声をしていて、一緒に暮らしている頃からはじめの鼻歌を聞いているのが大好きだった。
目を閉じてはじめの鼻歌を聞いていると、プツっと突然歌声が途切れてしまう。
無音が続き、まさか倒れているんじゃないかと心配になり
「はじめ!」
と、思わず強めに呼んでしまった。
はじめは僕の声に驚いたらしく、お風呂場から激しい水音が響く。
窓を開けて中を見ると、どうやら声に驚いて溺れ掛けていたらしい。
声を掛けたのが逆効果だったみたいだ。
(はじめ、ごめん)
溺れていたのには気付かなかったフリをしようと
「僕も火を見ていてあげるよ。これを入れれば良いんだろう?」
と、釜の横に置いてある枝をポイポイ投げ入れてみた。
弱くなっていた火が強くなり、もっと入れようとすると
「創さん!あんまり枝を入れ過ぎると……!」
そう叫ばれ手を止めた時には既に遅く、火が勢い良く燃えてお湯がみるみる熱くなったようで……。
「あっちぃ!」
と叫ぶはじめの声と、ザバッとお湯から上がる音が響く。
慌てて
「え!大丈夫?」
と言いながら窓から覗き込むと、隠すところも隠さずに全身真っ裸のはじめの姿。
肌が真っ赤になっていて
「あ……ごめん。マジで熱いんだ」
そう言ってはじめの全裸を眺め
「茹でダコみたいに真っ赤になってる」
と言って、思わずはじめのはじめちゃんに視線が止まる。
まだ勃起していない縮こまったはじめちゃんを眺めながら
「ところではじめ、丸見えだけど誘ってるの?」
って微笑むと、はじめはハッと我に返り慌てて前を隠し
「創さん!何処見てるんですか!」
そう叫ぶと、窓を荒々しく閉めて施錠されてしまう。
(ちょっとやり過ぎたか……)
反省しながら、中から聞こえる水を湯船に足している音を聞いていた。
湯船に水を入れ、温度を調節していると
「はじめ……怒ってる?」
コンコンっと窓ガラスを叩くと
「怒ってますよ! 揶揄うのは止めて下さいって、いつも言ってますよね?」
不機嫌そうなはじめの声が返って来て、湯船からお湯が溢れる音が響いた。
「……ごめん」
ぽつりと呟いて空を見上げた。
はじめは、この夜空をどんな気持ちで見上げていたんだろうか?と考えた。
すると浴室の窓が開き、はじめが心配そうに顔を出して僕を見ているのが視線の端に映る。
その真っ直ぐな瞳を見て
(例え出生がどうであれ、はじめはお爺様とお祖母様にたくさん愛情を注がれて育った。だから、はじめは誰かを愛する事も赦すことも知っているんだろう)
と思いながら
「ここは良い所だな」
と呟いた。
「ちょこちょこ遊びに来れば良いじゃないですか」
感慨にふけていた感情に、はじめの無意識の言葉が冷水を浴びせる。
「あ? 何言ってるんだよ! 僕はここに婿に来るんだよ」
僕が意志を込めてはじめに言うと、やっぱりはじめは分かっていないみたいでポカンとして僕の顔を見つめている。
(やっぱり分からないか……)
僕は心の中で苦笑いをしてから
「火の当番は要らないみたいだから、先に部屋に戻ってるから」
そう言ってはじめに手を振って離れに戻った。
自分の鞄の中にあった心理学の本を開き、幼少期の虐待に関する文献を読もうとはじめが敷いてくれた布団に寝転がり本を広げた。
しかし、慣れない山歩きで疲れていたらしく、僕はウトウトと眠りに落ちて行った。
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