野花のような君へ

古紫汐桜

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嫉妬

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「高杉先生、コーヒー好きなんですよね?」
彼……熊谷一が通うようになり数日過ぎた頃、受付の田崎さんに聞かれた。
「そうだね」
「でしたら、今度商店街の『木漏れ日』に行ってみて下さいよ!あそこのコーヒー、めちゃくちゃ美味しいんですよ」
田崎さんが前のめりになって言い出す。
「ランチタイム以外なら、コーヒーの出前してくれるんですよ!」
田崎さんの言葉に苦笑いを返していると
「はじめちゃんのコーヒーも美味しいけど、コーヒー好きなら是非、ハルさんのコーヒーを飲んで欲しいです。今時珍しいハンドドリップなんですよ」
止まらない田崎さんに
「こらこら、はじめちゃんが可哀想でしょう!」
って杉山さんが助け舟を出すと
「えー!この間、はじめちゃんが木漏れ日から出てきたのを見たよ」
と、田崎さんが反論した。
「え?」
驚く僕に
「多分、ハルさんにハンドドリップのやり方教わってるんじゃない?凄く仲良さそうだったよ」
田崎さんの言葉に、よく分からないけどモヤモヤした。
「ハルさん、色っぽいもんね~。はじめちゃん、ハルさんの色気に当てられちゃうかも!」
入力担当の事務、佐倉さんも会話に加わった。
「えー!ハルさんには、蓮君でしょう?」
「ほら、なんだっけ!どっかの偉い人、ハルさん狙いで来てるイケメン居るよね!」
「じゃあ、はじめちゃんが加わったら……ハルさんを3人の男が取り合うの!」
何やら3人が物凄く盛り上がっている。
彼……はじめはうちに通うようになって、すっかりうちのスタッフに可愛がられている。
みんなから「はじめちゃん」と呼ばれ、仲良くするのはまぁ……良い。
「ハルさん」って誰だよ?
そう思っていると
「でも、あんなに色っぽいのに独り身で、蓮君という息子の若いパパだもんね~。」
そう呟いた田崎さんに、思わず
「ハルさんって、男なの?」
と聞いてしまった。
すると
「「「はい!」」」
って、3人から満面の笑みで返事が返って来た。

  この日から、僕の中に「色っぽいハルさん」が棘のように刺さってしまう。
そして僕は偶然目にしてしまう。
余りにも田崎さんが激推しするので、休憩時間に喫茶 木漏れ日にコーヒーを飲みに行ってみようと足を伸ばした。
すると、僕の少し前にはじめが歩いていて、凄い偶然だと声を掛けようとした時だった。
「ハルさん!」
と、はじめの少し前を大荷物抱えて歩く白いシャツに黒い細身のパンツを履いた線の細い男性に駆け寄った。
何やら会話して、彼の荷物を半分持っていると、一番大きなバッグを2人で取り合い、顔を見合わせて笑いながら大きなエコバッグの取っ手を片方ずつ持って、仲良く歩き出したのだ。
はじめと一緒に居る男性は、年齢は多分…30代前半。
優しく笑う笑顔が魅力的な人だった。
はじめも、そんな彼と親しげに会話をしていて、僕には見せた事の無い笑顔を浮かべていた。
悔しいけど、並んで歩く姿がやけにお似合いだ。
(そうか……、はじめは彼が好きなんだ)
仲良くお店に入った2人を、こっそり喫茶店の窓から覗いて見た。
カウンターに座るはじめに、カウンターからエプロンをしながら何やら楽しそうに「ハルさん」とやらと会話をしていて、はじめは僕の視線に全く気付かない。

そうか……はじめはもう、恋人が出来たんだ……。

そう思うと悲しかった。
どうやって診療所に戻ったのかさえ、記憶に無い。
ただ、脳裏には2人の姿がグルグルと回る。
ちゃんと「好き」だと言えば良かった……。
後悔ばかりが先に立ち、診察室の椅子に座り込み上げる涙を堪える。

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