8 / 53
回り出す運命
しおりを挟む
あの日以来、彼と出会った喫茶店にたまに行くようになっていた。
彼と初めて出会った窓際の席。
もしかしたら……と諦めきれず、時折彼の居ないお店に通うこと半年。
それは桜の舞う春だった。
「いらっしゃいませ」
居るはずの無い彼が、カウンターの向こうに見えた。
最初は見間違いだと思った。
でも、厨房から時折見える姿は間違い無く『彼』だった。
それから、気が向いた時に通っていたのを、2月に一回、そして毎月、その後週1のペースへと変えた。
彼の淹れてくれる珈琲はすぐにわかる。
カップとソーサーまで温められていて、見えない配慮がされている。
他の従業員から、要領が悪いとか鈍臭いと悪く言われてるいるようだったけど、僕はその遅さの原因がこの温かいカップとソーサーなんだと気付いた。
いつも大きな身体を猫背にして、自信なさそうにオドオドしている彼。
接客が苦手らしく、お客さんに声を掛けられる度にびっくりした顔でド緊張して対応している。
身長180㎝を超えているであろう高さまで成長した彼は、遠目からでも目を引く容姿をしていた。
短く整えられた焦茶色の髪の毛と、身長の割に小さな顔。
整えた事が無いのであろう凛々しい眉に、少し垂れ目がちな切れ長の目。
小鼻が小さくて程よい高さの鼻と、薄くて均整の取れた唇。
おそらく背が高いので、一見怖そうにみえてしまうのかもしれないが、本当は緊張しているだけなんだというのを僕は知っている。
そして最近、そんな彼の僕を見つめる視線に熱を帯びているのに気付く。
僕を産んでくれた母親は嫌いでは無いが、容姿が似ているせいで兄達に性の対象にされていた事もあり、コンプレックスではあった。
そんな僕を、彼はいつもうっとりとした瞳で見つめている。
その時、ふと思ってしまうのは、彼も僕を兄達のように欲望を叩き付けるだけの相手として見ているのでは無いかと……。
どこかで彼を信じたい自分と、裏切られてしまった時の事を考えている自分がいた。
正直、怖かった。
誰かを好きになって、僕の今の状態がバレたら嫌われてしまうのでは無いか。
又は、彼も兄達のように、僕を抱く事しか考えていないんじゃないのか……。
そう考えてしまい、僕も彼を遠くで見つめることしか出来ずに居た。
彼と初めて出会った窓際の席。
もしかしたら……と諦めきれず、時折彼の居ないお店に通うこと半年。
それは桜の舞う春だった。
「いらっしゃいませ」
居るはずの無い彼が、カウンターの向こうに見えた。
最初は見間違いだと思った。
でも、厨房から時折見える姿は間違い無く『彼』だった。
それから、気が向いた時に通っていたのを、2月に一回、そして毎月、その後週1のペースへと変えた。
彼の淹れてくれる珈琲はすぐにわかる。
カップとソーサーまで温められていて、見えない配慮がされている。
他の従業員から、要領が悪いとか鈍臭いと悪く言われてるいるようだったけど、僕はその遅さの原因がこの温かいカップとソーサーなんだと気付いた。
いつも大きな身体を猫背にして、自信なさそうにオドオドしている彼。
接客が苦手らしく、お客さんに声を掛けられる度にびっくりした顔でド緊張して対応している。
身長180㎝を超えているであろう高さまで成長した彼は、遠目からでも目を引く容姿をしていた。
短く整えられた焦茶色の髪の毛と、身長の割に小さな顔。
整えた事が無いのであろう凛々しい眉に、少し垂れ目がちな切れ長の目。
小鼻が小さくて程よい高さの鼻と、薄くて均整の取れた唇。
おそらく背が高いので、一見怖そうにみえてしまうのかもしれないが、本当は緊張しているだけなんだというのを僕は知っている。
そして最近、そんな彼の僕を見つめる視線に熱を帯びているのに気付く。
僕を産んでくれた母親は嫌いでは無いが、容姿が似ているせいで兄達に性の対象にされていた事もあり、コンプレックスではあった。
そんな僕を、彼はいつもうっとりとした瞳で見つめている。
その時、ふと思ってしまうのは、彼も僕を兄達のように欲望を叩き付けるだけの相手として見ているのでは無いかと……。
どこかで彼を信じたい自分と、裏切られてしまった時の事を考えている自分がいた。
正直、怖かった。
誰かを好きになって、僕の今の状態がバレたら嫌われてしまうのでは無いか。
又は、彼も兄達のように、僕を抱く事しか考えていないんじゃないのか……。
そう考えてしまい、僕も彼を遠くで見つめることしか出来ずに居た。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
父の男
上野たすく
BL
*エブリスタ様にて『重なる』というタイトルで投稿させていただいているお話です。ところどころ、書き直しています。
~主な登場人物~渋谷蛍(しぶや けい)高校二年生・桜井昭弘(さくらい あきひろ)警察官・三十五歳
【あらすじ】実父だと信じていた男、桜井が父の恋人だと知ってから、蛍はずっと、捨てられる恐怖と戦っていた。ある日、桜井と見知らぬ男の情事を目にし、苛立ちから、自分が桜井を好きだと自覚するのだが、桜井は蛍から離れていく。


離したくない、離して欲しくない
mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。
久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。
そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。
テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。
翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。
そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。
超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─
藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。
そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!?
あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが…
〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜
シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊
喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者
ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』
ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫
〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜
Rシーンは※をつけときます。

ヤバい薬、飲んじゃいました。
はちのす
BL
変な薬を飲んだら、皆が俺に惚れてしまった?!迫る無数の手を回避しながら元に戻るまで奮闘する話********イケメン(複数)×平凡※性描写は予告なく入ります。
作者の頭がおかしい短編です。IQを2にしてお読み下さい。
※色々すっ飛ばしてイチャイチャさせたかったが為の産物です。
珈琲のお代わりはいかがですか?
古紫汐桜
BL
身長183cm 体重73kg
マッチョで顔立ちが野性的だと、女子からもてはやされる熊谷一(はじめ)。
実は男性しか興味が無く、しかも抱かれたい側。そんな一には、密かに思う相手が居る。
毎週土曜日の15時~16時。
窓際の1番奥の席に座る高杉に、1年越しの片想いをしている。
自分より細身で華奢な高杉が、振り向いてくれる筈も無く……。
ただ、拗れた感情を募らせるだけだった。
そんなある日、高杉に近付けるチャンスがあり……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる