野花のような君へ

古紫汐桜

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回り出す運命

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あの日以来、彼と出会った喫茶店にたまに行くようになっていた。
彼と初めて出会った窓際の席。
もしかしたら……と諦めきれず、時折彼の居ないお店に通うこと半年。
それは桜の舞う春だった。
「いらっしゃいませ」
居るはずの無い彼が、カウンターの向こうに見えた。
最初は見間違いだと思った。
でも、厨房から時折見える姿は間違い無く『彼』だった。
それから、気が向いた時に通っていたのを、2月に一回、そして毎月、その後週1のペースへと変えた。
彼の淹れてくれる珈琲はすぐにわかる。
カップとソーサーまで温められていて、見えない配慮がされている。
他の従業員から、要領が悪いとか鈍臭いと悪く言われてるいるようだったけど、僕はその遅さの原因がこの温かいカップとソーサーなんだと気付いた。
いつも大きな身体を猫背にして、自信なさそうにオドオドしている彼。
接客が苦手らしく、お客さんに声を掛けられる度にびっくりした顔でド緊張して対応している。
身長180㎝を超えているであろう高さまで成長した彼は、遠目からでも目を引く容姿をしていた。
短く整えられた焦茶色の髪の毛と、身長の割に小さな顔。
整えた事が無いのであろう凛々しい眉に、少し垂れ目がちな切れ長の目。
小鼻が小さくて程よい高さの鼻と、薄くて均整の取れた唇。
おそらく背が高いので、一見怖そうにみえてしまうのかもしれないが、本当は緊張しているだけなんだというのを僕は知っている。
そして最近、そんな彼の僕を見つめる視線に熱を帯びているのに気付く。
僕を産んでくれた母親は嫌いでは無いが、容姿が似ているせいで兄達に性の対象にされていた事もあり、コンプレックスではあった。
そんな僕を、彼はいつもうっとりとした瞳で見つめている。
その時、ふと思ってしまうのは、彼も僕を兄達のように欲望を叩き付けるだけの相手として見ているのでは無いかと……。
どこかで彼を信じたい自分と、裏切られてしまった時の事を考えている自分がいた。
正直、怖かった。
誰かを好きになって、僕の今の状態がバレたら嫌われてしまうのでは無いか。
又は、彼も兄達のように、僕を抱く事しか考えていないんじゃないのか……。
そう考えてしまい、僕も彼を遠くで見つめることしか出来ずに居た。
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