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オマケ小説~夏休み~

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しばらく2人を母屋に残し、話し合いをさせた。
……まぁ、俺も離れで創さんにしこたま怒られた。
折角の2人だけの時間を!!!って。
でもさ、中々4人で過ごす事なんてないじゃないか。
俺はなんとか創さんを宥め、昼ご飯を作りに母屋に行くと……既にご機嫌の友也がお出迎えしてくれた。
さすがだ健人君。
2時間余りで友也をご機嫌にする技は、俺には無い。
「熊さん、すみません、勝手に冷蔵庫を拝見して作っちゃいました」
健人君の美味しそうな料理がテーブルに並んでいる。
「わぁ!美味しそう。さすが健人君。ね、創さん」
まだ口がへの字の創さんに声を掛ける。
すると健人君は
「俺達、これ食べたら帰りますから安心して下さい」
と言い出した。
「え!そんな……」
俺が慌てて言うと、創さんの口がまだへの字になっている。
「創さんがそんな顔してるから、健人君達が気にしちゃってるじゃないか!」
怒る俺に、創さんはムッとしたまま
「はじめ、2人だって仲直りしたんだから……、察してやれ」
と言われ、俺は首を傾げる。
すると真っ赤な顔をした2人に、流石の俺も察して真っ赤になる。
「あ……ごめん」
「いや、……こちらこそ」
俺と健人君が頭を下げあっていると
「でも、熊さんの家に一泊してからでも俺は構わないよ」
って微笑む友也に
「あぁ!」
「はぁ!」
と、創さんと健人君が同時に叫んだ。
「冗談だよ。創先生も健人も……顔、怖いよ」
そんな2人に友也が苦笑いする。
「俺は構わないのに……」
しょんぼりして呟くと、友也は微笑んで
「熊さん、また遊びに来るよ」
って呟いた。
「友也」
「熊さん」
見つめ合って頷き合っていると
「見つめ合うな!」
って、2人に邪魔されてしまった。
賑やかに健人君の美味しい手料理を食べて、後片付けを済ませると、2人は健人君のミニバンで帰って行った。
俺と創さんも2人を門まで見送り、嵐のような友也に苦笑いしながら獣避けの門を施錠した。
多分だけど……友也は俺達の様子を見に来てくれたんだと思うんだけど……。
「全く。彼は何処に居ても、ミニ台風だな」
って創さんがぽつりと呟く。
俺がそんな創さんに小さく笑うと、創さんは口をへの字にして
「僕はまだ、はじめに怒っているんだからな」
と呟いた。
「え?俺に?」
きょとんとして言うと、創さんは大きな溜め息を吐いて
「そうだから……、怒ってるこっちが悪い気分になっちゃうんだよな……」
ブツブツと言いながら
「もう良いよ。折角の2人の時間を、くだらない事で無駄にはしたくないからね」
って創さんが苦笑いした。
「で、何処か行きたいところはある?」
創さんに聞かれて、帰宅する道を歩きながら考える。
以前、創さんが来た時に2人で歩いた道。
あの時の創さんは山道に歩き慣れていなくて、ブツブツ文句言ってたっけ……。
小さく笑っていると、創さんが怪訝そうに俺の顔を見ている。
「あ……すみません。つい、初めてこの道を歩いた日の事を思い出してしまいました」
そう呟くと、創さんは「あぁ……」と言いながら
「今じゃ、すっかりこの距離も普通に歩けるようになったな」
創さんはそう言って、小さく笑う。
「あの時は、不安な気持ちで歩いていたけどな」
「不安?」
「そう。はじめに別れを言われるんじゃ無いかってな」
そう言われて、思わず創さんの顔を見る。
「そうは見えなかったか?」
小さく笑いながら言われ、首を横に振る。
「あの頃の僕は、自分を守る事で精一杯だったからな」
遠くを見つめる創さんの瞳は、何を見ているんだろう?
黙って隣を歩いていると、創さんは俺を見上げて
「今は幸せだよ」
そう言って穏やかに微笑んだ。
「あの頃の僕に、未来は穏やかな幸せが待っていると教えてあげたいよ」
創さんの言葉に涙が込み上げてきた。
創さんの手を握り締めて
「これから、たくさんの幸せを2人で重ねていきましょうね」
そう言うと、創さんも俺の手を握り返して微笑んだ。
こうして過ごす日々の1日1日が大切なんだと、俺は噛み締めていた。
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