上 下
61 / 75

最終話

しおりを挟む
「友也君、蔦田さん狙いはダメ!」
ハルさんが笑顔で友也君にデコピンすると
「はぁ?あのおっさんの利点なんて、そんなもんだろう?」
って、辛辣な蓮君に苦笑いを浮かべていると、創さんが浮かない顔をしている。
「創さん?」
俺が疑問の視線を投げると
「あ、ごめん。それで、名前はどうするの?」
と無理に笑顔を作った。
「じゃあさ、俺達の出した『ハルちゃんのコーヒー』と、ハルちゃんが考えた名前を、お客様に決めてもらうのはどう?投票にして」
創さんを気にしていると、友也が提案して話が進んで行った。
結局、名前は投票で決まる事になり、俺は来週にお店へコーヒー豆を納品する事になった。
この日は夕飯をハルさんの家でみんなで食べてから、俺と創さんは帰宅した。
風呂から上がって部屋に戻ると、創さんが何やら物思いに耽っていた。
「昔…蔦田さんと何かあったんですか?」
部屋に戻って創さんに声を掛けると
「あ……風呂から上がったのか」
って、創さんが無理に笑顔を作る。
俺はそんな創さんの前に座り
「俺達、ある意味で夫婦ですよね!」
そう切り出すと、創さんは溜め息を吐いて
「尚寿さんは、僕の従姉妹の旦那さんだったんだよ」
ぽつりと話し出した。
「明るくて、僕のような高杉家の恥と言われていた人間にさえ優しい人だった。…親同士が決めた結婚だったけど、彼女は彼を愛していたんだ」
そう言うと
「結婚して1年くらいの時かな?彼が仕事、仕事で彼女の体調の悪さに気付かなかったんだ。彼女が咳が酷いのに、そんな彼女を置いて出張に行ってしまった。1週間の出張から戻った時には、ベッドで冷たくなった彼女が寝ていたらしい」
創さんはそこまで話すと、小さな溜め息を吐いた。
「彼女のお腹には、子供が居たらしい。だから病院へ行かなかったんだろな。本当に、優しい人だったんだ。そんな彼女が何故?って思ったよ」
悲しそうに話す創さんの手を、俺はそっと握った。
多分……創さんの初恋の人だったのだろう。
「蔦田さん……創さんの事を心配していましたよ。今日来たのも、創さんの相手である俺を確認に来たみたいでした」
笑顔で俺が創さんに言うと、創さんは小さく微笑み俺の肩に額を当てた。
俺はそっと創さんの背中に手を回し
「きっと、その方の死が…蔦田さんを変えたんでしょうね」
ぽつりと呟いた。
「人は過ちを犯してから……気付きます。その過ちにいつ気付くのか。気付いてからどう変わるのか…が、大切なんじゃないですかね」
俺が話終えると、創さんが突然、首筋に舌を這わせて来た。
「ちょ……!創さん!大事な話してるのに!」
慌てた俺を押し倒し
「じゃあ、はじめの身体で慰めて?」
そう言って小さく笑うと、ギュッと俺の身体を抱き締めて
「ごめん、冗談だよ。はじめ、ありがとう」
って呟いた。
創さんはきっと、たくさんの傷を心の中に抱えて生きてきたんだろう。
ほんの少しでも、俺が一緒に抱えて行けたら良いなぁ~と願いながら、俺を抱き締める創さんの背中をそっと抱き締めた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...