上 下
56 / 75

最終話

しおりを挟む
「はじめは知らないかもしれないけど……」
そう呟いて、創さんが口を結ぶ。
「え?何ですか?」
途中で会話を止めた創さんの顔を覗き込むと、胸倉を掴まれてキスをされ
「もう少し、自分の魅力を自覚しようね」
って微笑まれた。

後から知った話では、どうやら喫茶店に来ているお客様で俺を狙っているお客様を、創さんが魔性の笑顔で追っ払っていたらしい。
友也はそれを見て、単に女好きのヤバい人だと思っていたのだと聞いた。
友也とは、週に一回電話で会話をしている。
女子では無いからそんなに長話はしないけど、近況やハルさんと蓮君の話。
時々、喧嘩をしたりすると健人君の愚痴を聞いたりしている。
そんな中、俺にハルさんからお店に出す珈琲の焙煎をしてみないか?という話が舞い込んできた。
前のお店で教わってはいて、接客が苦手な自分は裏方をマスターしようと思っていたのを思い出す。
創さんに相談してみると
「はじめがやりたい事は、邪魔しないよ」
って笑顔で言いながら、機材一式をカタログで選ばせて創さんが買ってきた。
やっぱり俺は街には行けないんだ……って思っていると
「次の日曜日、ハルさんの店に一緒に行こうか」
って創さんが言い出した。
「良いの?」
驚いて聞くと
「言っただろう?はじめのやりたい事の邪魔はしないって。そろそろ、豆の試飲して欲しいんじゃ無いかな?って思っていたんだけど?」
そう言って、創さんが苦笑いする。
豆の焙煎する機械を買ってもらい、最初は中々自分の気に入った香りや味にはならなくて……。
失敗作を創さんに飲んでもらっていたり、自分で消費していた。
子供達は、香りは良いのに苦い飲み物を美味しそうに飲む俺達を変な目で見ていたっけ。
その度、創さんは得意げに
「大人になったらわかるよ」
って答えていた。
特に、この山の山頂から湧き出る清水は軟水なので珈琲に持ってこいだったのもラッキーだった。
湧水を汲んで車に積み、ハルさんの為に焙煎した珈琲を積んでお店へと向かう。
木目のドアを開けると
「いらっしゃいませ」
って、ハルさんの笑顔が飛び込んで来た。
「はじめくん!いらっしゃい」
極上の笑顔で微笑むハルさんの美貌に、一瞬目眩がしそうだった。
この人は……こんなに綺麗で色気があるのに、何故にずっと1人だったんだろう?と謎になる。
「珈琲豆、持って来てくれたの?」
ワクワクした顔で言われて、俺は湧き水を運び終えるとハルさんにコーヒー豆を手渡した。
「わぁ!凄く良い香りだね!」
普段から綺麗なハルさんがふわりと微笑む。
「好きな場所に座ってて。今、珈琲入れるから」
ハルさんがそう言ってカウンターの中に戻ると
「すみません。湧き水まであんなに持参頂いて」
と、蓮君が俺と創さんが座る席に来た。
今日、防災用のポリタンク満杯にお水を入れて、3つ持って来たのだ。
「これ、このまま飲んでも美味しい水だよ」
はしゃぐハルさんが可愛いなぁ~って見ていたら、創さんに耳を引っ張られた。
「僕の目の前で、堂々と浮気か?」
目を据わらせる創さんに
「浮気って……」
って呟くと
「聞き捨てならないですね。いくら熊さんでも、ハルだけは譲れないので」
殺気を感じる蓮君は初めてで
「え?そんなつもり無いよ」
と苦笑いする。
「いいですか!熊さん。あなたは、俺や健人が驚異に感じる位にはハルや友也に大事にされています!創先生も、ちゃんと熊さんを捕まえてて下さいね」
って、蓮君が言い切った。
俺が唖然としていると、お店のドアが開き
「くまさ~ん!」
と叫びながら、友也が入って来た。
そして俺に抱き着くと
「こっちに来るってハルちゃんから聞いて、バイト休んじゃったよ!」
笑顔で言う友也の背後から、怖い顔をした健人君が現れた。
「ひっ!」
びびる俺に
「健人!お前、熊さんにそんな態度するなら帰れよ!」
友也の言葉に、益々健人君の眉間に皺が寄る。
え?何?俺が居ると空気悪くなる?
思わずソワソワして落ち着かなくなると
「こら!そこの3人!はじめ君が居心地悪そうにしてるだろう!」
そう言って、ハルさんがシルバートレイで頭を叩いて行く。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...