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創さんの告白
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「僕さ……あの兄貴達から逃げ出したくて、地域医療に行くつもりで準備していたんだ」
遠い目をして、創さんがゆっくりと話し出した。
「研修医を終えて、父親の総合病院には行きたく無くてね。そうしたら裏で邪魔されてしまってね。せめて父親の総合病院には無い心療内科の医師を選択して、他の病院に何とか逃げ出した。それでも、新しく心療内科を作るから戻れと邪魔されてね……」
綺麗な創さんの瞳が翳り
「何をしてもあの兄達から逃げられないんだと絶望していた時、重い気持ちをなんとかしたくてあのお店に入ったんだ」
そう呟いた。
そしてゆっくりと視線を落とし
「本を読んでも頭に入らなくてね。帰宅したくなくて、なんとなく時間を潰してたんだ……。いつしか半分以上残ってるコーヒーも冷めきって……。やけにコーヒーの苦さを感じた時だった」
そう言うと、ゆっくりと俺に視線を向けて
「はじめが声を掛けてくれたんだ。『コーヒーのお代わりはいかがですか?』って」
と呟いた。
俺が目を見開き創さんの顔を見つめると
「カップにはまだ半分以上コーヒーが残っていたから、どうせ冷たいコーヒーの中に温かいコーヒーを注ぐんだと思っていたんだ。そうしたら、はじめは僕のカップを一度下げて温かいカップに新しくコーヒーを入れ直してくれた」
そう言って微笑んだ。
「あの時、灰色で冷たい世界から、はじめが温かくて色鮮やかな世界へと連れ出してくれたんだよ」
創さんの言葉に、俺は慌てて
「そんな!」
って首を横に振る。
すると創さんは優しく微笑んで
「入れ直してくれたコーヒーは温かくて香り高く、優しい味がしたよ。僕はあの日、はじめに恋をしたんだ」
そう呟いたのだ。
「でも…はじめはあの日以降、姿を消してしまっただろう?もしかしたら、又会えるんじゃないか?って、あの店の近くに診療所を作ったんだ」
創さんの信じられない言葉に呆然とした。
「……でも、僕の身体はポンコツになっていたから。知られたら嫌われると思っていたんだ」
ポツリポツリと語られる創さんの言葉に、腰の痛みやらなんやらを堪えて起き上がって抱き締めた。
「はじめ!身体、辛いんだろう?」
驚く創さんを強く抱き締めた。
「創さん。俺も…俺もあの日に、創さんに恋をしました!」
強く抱き締めて叫ぶと、創さんは目に涙を浮かべて
「なんだ。最初から、両想いだったのか」
そう言って微笑んだ。
「もう…離れたいって言っても、絶対に離しませんからね!」
抱き締めて叫ぶ俺に、創さんは幸せそうな笑顔を浮かべて
「はじめ、それは僕の方こそだよ」
って答えた。
俺達は顔を見合わせて笑うと、どちらからともなく唇を重ねた。
俺は何を見ていたんだろう?
こんなにも、俺に愛情を示してくれていた人を、ずっと信じられなかったなんて……。
ゆっくりと唇が離れ、額をコツンと当てて微笑み合う。
「はじめ、選んでくれてありがとう」
「それはこっちの台詞ですよ!」
再び抱き締めた俺に、創さんの手がゆっくりと回される。
「人の体温が安心するって、はじめに教えて貰ったよ」
ポツリと呟く創さんに
「俺もです」
そう言って、そっと髪の毛を撫でた。
「はじめ。この先に何があっても、僕の手を離さないでくれよ」
幸せそうに俺の胸に顔を埋める創さんに、愛しさが込み上げて来る。
今、この腕の中にある温もりを、一生手放さいと固く決意をした。
この後1年掛けて、創さんは高杉創から熊谷創へと籍を移した。
遠い目をして、創さんがゆっくりと話し出した。
「研修医を終えて、父親の総合病院には行きたく無くてね。そうしたら裏で邪魔されてしまってね。せめて父親の総合病院には無い心療内科の医師を選択して、他の病院に何とか逃げ出した。それでも、新しく心療内科を作るから戻れと邪魔されてね……」
綺麗な創さんの瞳が翳り
「何をしてもあの兄達から逃げられないんだと絶望していた時、重い気持ちをなんとかしたくてあのお店に入ったんだ」
そう呟いた。
そしてゆっくりと視線を落とし
「本を読んでも頭に入らなくてね。帰宅したくなくて、なんとなく時間を潰してたんだ……。いつしか半分以上残ってるコーヒーも冷めきって……。やけにコーヒーの苦さを感じた時だった」
そう言うと、ゆっくりと俺に視線を向けて
「はじめが声を掛けてくれたんだ。『コーヒーのお代わりはいかがですか?』って」
と呟いた。
俺が目を見開き創さんの顔を見つめると
「カップにはまだ半分以上コーヒーが残っていたから、どうせ冷たいコーヒーの中に温かいコーヒーを注ぐんだと思っていたんだ。そうしたら、はじめは僕のカップを一度下げて温かいカップに新しくコーヒーを入れ直してくれた」
そう言って微笑んだ。
「あの時、灰色で冷たい世界から、はじめが温かくて色鮮やかな世界へと連れ出してくれたんだよ」
創さんの言葉に、俺は慌てて
「そんな!」
って首を横に振る。
すると創さんは優しく微笑んで
「入れ直してくれたコーヒーは温かくて香り高く、優しい味がしたよ。僕はあの日、はじめに恋をしたんだ」
そう呟いたのだ。
「でも…はじめはあの日以降、姿を消してしまっただろう?もしかしたら、又会えるんじゃないか?って、あの店の近くに診療所を作ったんだ」
創さんの信じられない言葉に呆然とした。
「……でも、僕の身体はポンコツになっていたから。知られたら嫌われると思っていたんだ」
ポツリポツリと語られる創さんの言葉に、腰の痛みやらなんやらを堪えて起き上がって抱き締めた。
「はじめ!身体、辛いんだろう?」
驚く創さんを強く抱き締めた。
「創さん。俺も…俺もあの日に、創さんに恋をしました!」
強く抱き締めて叫ぶと、創さんは目に涙を浮かべて
「なんだ。最初から、両想いだったのか」
そう言って微笑んだ。
「もう…離れたいって言っても、絶対に離しませんからね!」
抱き締めて叫ぶ俺に、創さんは幸せそうな笑顔を浮かべて
「はじめ、それは僕の方こそだよ」
って答えた。
俺達は顔を見合わせて笑うと、どちらからともなく唇を重ねた。
俺は何を見ていたんだろう?
こんなにも、俺に愛情を示してくれていた人を、ずっと信じられなかったなんて……。
ゆっくりと唇が離れ、額をコツンと当てて微笑み合う。
「はじめ、選んでくれてありがとう」
「それはこっちの台詞ですよ!」
再び抱き締めた俺に、創さんの手がゆっくりと回される。
「人の体温が安心するって、はじめに教えて貰ったよ」
ポツリと呟く創さんに
「俺もです」
そう言って、そっと髪の毛を撫でた。
「はじめ。この先に何があっても、僕の手を離さないでくれよ」
幸せそうに俺の胸に顔を埋める創さんに、愛しさが込み上げて来る。
今、この腕の中にある温もりを、一生手放さいと固く決意をした。
この後1年掛けて、創さんは高杉創から熊谷創へと籍を移した。
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