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これからの僕達⑤
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風呂から上がり、婆ちゃんに声を掛けてから薪の様子を見て、火が完全に燃えきったのを確認して離れに戻る。
創さんが退屈していないか心配になりながら歩いていて、ドアを開ける寸前にふと気付く。
もしかして、初めて同じ部屋で過ごすんじゃないのか!
1つ屋根の下で、しかも同じ部屋!
創さんはEDだとは分かっているけど、ちゃんとした恋人になろうって事は……そういう事もある訳だよな……。
そう気付いてしまった瞬間、心臓がバクバクと激しく鳴り始めた。
頭では何も無いと分かっているけど、何処かで「もしかしたら」がよぎる。
いやいや、創さんに限って!と首をブンブンと激しく振って否定すると、意を決して離れのドアを開けて靴を脱いで襖を開いた。
……そこには、本を読んだままの姿で掛け布団の上で爆睡する創さんが居た。
俺は小さく微笑み、そっと創さんの身体から掛け布団を引き抜いて創さんの身体に被せる。
そして、創さんが読んでいた難しそうな医学書的な物を閉じて枕元に置くと、自分の布団に胡座をかいて座って創さんの寝顔を見つめた。
多分、慣れない山道を1時間近く歩いたので、疲れたのだろう。
規則正しい寝息を立てて眠る創さんの、髪の毛にそっと触れてみた。
思ったより柔らかい髪の毛に触れながら、熟睡している創さんの寝顔に愛しさが込み上げて来る。
護りたい気持ちと、全てを奪いたいと思う気持ちに深い溜め息を吐いた。
瞼が閉じていても、「美しい」という言葉が似合う程に綺麗な創さんの顔を見つめる。
寝息を立てる綺麗な唇も、閉じた瞼を飾る長い睫毛も……全てが自分とは違う世界の人だと思う。
創さんと離れてから、思い出した事が1つだけあった。
初めて創さんと出会ったのは、俺が高校生の時だったこと。
バイトを休む同級生のお願いで、1日だけの代わりにアルバイトでホールをやらされていた時に創さんが現れたんだ。
それはまるで、掃き溜めに鶴。
泥沼に蓮の花のようだった。
難しそうな本を捲りながら、時折何か憂い顔をしていたっけ……。
冷めきったコーヒーに手を伸ばした創さんに
「珈琲のお代わりはいかがですか?」
って声を掛けた。
創さんが驚いた顔をして俺を見上げ
「え?じゃあ、お願いしようかな?」
と答えてカップを差し出した。
まだ半分以上残っていた、冷めきったコーヒー。
俺はカップを持ってキッチンに下がると、冷めきったコーヒーを捨てて新しいコーヒーに入れ替えた。
驚いた顔をした創さんが
「これじゃあ、お代わりじゃなくて入れ直しじゃないの?」
なんて言うから
「いいえ、最初から入っていませんでしたよ」
って、何処かの三文芝居のような言葉を答えたっけ。
創さんは一瞬、唖然とした顔をしてから吹き出すと
「そうだった?これは失礼」
そう言って笑っていた。
その笑顔は本当に綺麗だった。
一目惚れって、あるんだと俺はこの時に思った。
1日だけのバイトで出会ったその人が忘れられなくて、俺は大学に入ってからその店にきちんとバイトとして働くようになったんだ。
創さんが退屈していないか心配になりながら歩いていて、ドアを開ける寸前にふと気付く。
もしかして、初めて同じ部屋で過ごすんじゃないのか!
1つ屋根の下で、しかも同じ部屋!
創さんはEDだとは分かっているけど、ちゃんとした恋人になろうって事は……そういう事もある訳だよな……。
そう気付いてしまった瞬間、心臓がバクバクと激しく鳴り始めた。
頭では何も無いと分かっているけど、何処かで「もしかしたら」がよぎる。
いやいや、創さんに限って!と首をブンブンと激しく振って否定すると、意を決して離れのドアを開けて靴を脱いで襖を開いた。
……そこには、本を読んだままの姿で掛け布団の上で爆睡する創さんが居た。
俺は小さく微笑み、そっと創さんの身体から掛け布団を引き抜いて創さんの身体に被せる。
そして、創さんが読んでいた難しそうな医学書的な物を閉じて枕元に置くと、自分の布団に胡座をかいて座って創さんの寝顔を見つめた。
多分、慣れない山道を1時間近く歩いたので、疲れたのだろう。
規則正しい寝息を立てて眠る創さんの、髪の毛にそっと触れてみた。
思ったより柔らかい髪の毛に触れながら、熟睡している創さんの寝顔に愛しさが込み上げて来る。
護りたい気持ちと、全てを奪いたいと思う気持ちに深い溜め息を吐いた。
瞼が閉じていても、「美しい」という言葉が似合う程に綺麗な創さんの顔を見つめる。
寝息を立てる綺麗な唇も、閉じた瞼を飾る長い睫毛も……全てが自分とは違う世界の人だと思う。
創さんと離れてから、思い出した事が1つだけあった。
初めて創さんと出会ったのは、俺が高校生の時だったこと。
バイトを休む同級生のお願いで、1日だけの代わりにアルバイトでホールをやらされていた時に創さんが現れたんだ。
それはまるで、掃き溜めに鶴。
泥沼に蓮の花のようだった。
難しそうな本を捲りながら、時折何か憂い顔をしていたっけ……。
冷めきったコーヒーに手を伸ばした創さんに
「珈琲のお代わりはいかがですか?」
って声を掛けた。
創さんが驚いた顔をして俺を見上げ
「え?じゃあ、お願いしようかな?」
と答えてカップを差し出した。
まだ半分以上残っていた、冷めきったコーヒー。
俺はカップを持ってキッチンに下がると、冷めきったコーヒーを捨てて新しいコーヒーに入れ替えた。
驚いた顔をした創さんが
「これじゃあ、お代わりじゃなくて入れ直しじゃないの?」
なんて言うから
「いいえ、最初から入っていませんでしたよ」
って、何処かの三文芝居のような言葉を答えたっけ。
創さんは一瞬、唖然とした顔をしてから吹き出すと
「そうだった?これは失礼」
そう言って笑っていた。
その笑顔は本当に綺麗だった。
一目惚れって、あるんだと俺はこの時に思った。
1日だけのバイトで出会ったその人が忘れられなくて、俺は大学に入ってからその店にきちんとバイトとして働くようになったんだ。
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