上 下
26 / 75

これからの俺達②

しおりを挟む
母屋に入ると
「田舎料理しか作れないから、お口に合うか分からないけど…」
そう言って、ばあちゃんが創さんにお茶碗を差し出した。
創さんはばあちゃんからお茶碗を受け取り、3人で食卓を囲んで和やかに食事が始まる。
創さんは、ばあちゃんのお味噌汁を口すると
「あぁ……はじめ君のお料理は、おばあ様の味だったんですね」
って微笑んだ。
するとばあちゃんは
「おばあ様なんてやめてちょうだい。ばあちゃんで良いよ。私はそうね……」
と呟いたばあちゃんに
「創です。僕の名前は、創です」
って答えた。
ばあちゃんは創さんの言葉に
「じゃあ、創って呼んでも良い?」
そう言って微笑んだ。
「え!ばあちゃん、それはあまりにも馴れ馴れしい…」
と言い掛けた俺を、創さんは片手で制して
「はい!是非、創と呼んで下さい」
そう言って微笑んだのだ。
するとばあちゃんは嬉しそうに笑って
「孫が二人になった気分だね」
って言って、創さんにあれこれ食事を勧めた。
3人で食べた食事は思いの外美味しくて、特に創さんがとても楽しそうにしているのが俺は本当に嬉しかった。
俺達3人以外、誰も来ないこんな山奥で、創さんはとても穏やかに笑っている。
俺がそんな創さんの笑顔に見惚れていると
「じゃあ、明日は山に山菜を取りに行くかい?」
なんて言って、ばあちゃんと創さんが盛り上がっている。
「え! 山菜って! 創さん、朝早いんですよ!」
驚く俺に、創さんはムッとした顔をすると
「今、ばあちゃんに朝5時起きって聞いたよ! そんなに寝ていたいなら、はじめだけ寝てれば良いだろう」
って、創さんが言い出した。
いやいやいや!
都会暮らししか知らない創さんが、山菜採りなんて行けるわけないだろう! ってばあちゃんの顔を見た。
するとばあちゃんは笑顔を浮かべたまま
「はじめ、創は此処での暮らしを体験してみたいそうだよ。だったら、やらせてあげればよいだろう?子供じゃないんだから」
と言って、呑気にお茶を飲んでいる。
結局、山菜採りに付き添う事になり、洗い物をしようと立ち上がった俺に
「僕も手伝うよ」
そう言って、創さんが隣に並んだ。
家事なんて一切してこなかった創さんが、どうしたんだろう?って考えながら、俺が洗い上げた食器を創さんが拭いてテーブルに置き、ばあちゃんが片付けるという流れになった。
食器を片付け終わり、俺がお風呂を沸かしに薪を取りに外へと出ると
「お風呂、薪で沸かすんだって?」
そう言って、創さんが俺の後を着いて来た。
火をつけて薪を竹の火吹き棒で拭いていると、パチパチと音を立てて火が燃え始める。
どのくらい時が経過したのだろうか。
俺と創さんは黙ったまま、並んで燃える炎を見つめていた。沈黙を破ったのは、創さんだった。
「はじめは……ずっと、こういう生活をして来たんだな」
ぽつりと呟く。
真っ直ぐに火を見つめる創さんの横顔が綺麗で、思わず手を伸ばそうとすると
「創! あんた、先にお風呂に入りなさい」
って、ばあちゃんが現れた。
さっきと言い、今回と言い。
あまりのタイミングの良さに、思わずばあちゃんに恨みの視線を送ってしまう。
するとばあちゃんは
「はじめ! 創がいくら綺麗だからって、お風呂は覗いちゃダメだからね!」
って言われて
「覗くか!」
と、思わず叫び返してしまった。
すると創さんとばあちゃんは顔を見合わせて、吹き出して大笑いしている。
街に居た頃には見た事の無い、創さんの屈託の無い笑顔が愛おしいと思った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

処理中です...