珈琲のお代わりはいかがですか?

古紫汐桜

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窓際のきみ②

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「それにしても…、なんで熊さんだったんだろうね?」
  バイト終わりに更衣室で着替えながら、友也がぽつりと呟いた。
友也は知り合いの喫茶店でバイトしていたらしく、俺より後から来たのに接客のプロだ。
しかも、前のバイト先の常連客まで来てくれる程に人気があって、人当たりが良い。
俺みたいに愛想が悪い奴にでも、気さくに話しかけてくれる。
ちっこくて懐っこい、実家の豆柴みたいな奴。
「お前らが忙しいからじゃないか?」
そう答えると、友也は
「そうかな?な~んかあの人、気になるんだよな~」
腕を組んで考え込む友也に、俺は思わず
「気になるって?」
と、前のめりに聞いてしまう。
だって、デカイ、むさい、愛想悪いの三拍子揃った俺より、小ちゃい、可愛い、人懐っこいの三拍子が揃った友也の方が数千倍好かれる確率が高い。
「あの人、絶対にドSだと思う」
目を座らせて友也が呟いた。
「はぁ!え!ドS?」
可愛い友也の口から、とんでもない単語が出て来て驚くと
「熊さん、気を付けてよ!見た目は熊でも心の中は子リスちゃんなの、俺は分かってますから!」
手を握られ、真顔で言われて赤面する。
「ほら!その顔!あの人の前で見せたらダメですよ!熊さん、人見知りなだけで、本当は良い人ってバレたら大変ですからね!」
友也は鼻息荒くそう叫んだ。
「俺、思うんだけど、熊さんには優しい人が合ってると思いますよ」
制服のシャツを脱いで、友也が自分のTシャツに着替えようとしている時、背中に着けられた跡を見てしまい、思わず動揺してロッカーにしこたま頭をぶつけると
「大丈夫?熊さん?」
って、友也が近付いてきた。
「友也!頼むから、一先ずシャツを着てくれ!」
そう叫ぶ俺に
「何?熊さん、真っ赤な顔して」
と、不思議そう訊かれてしまう。
「お前……背中、背中にキスマークが…」
見てしまった俺が、真っ赤になってアワアワしていると、友也も真っ赤になって、慌ててTシャツを着て
「クソ健人!」
って呟いた。
「え?友也の恋人って、男なのか?」
腰を抜かした俺に、友也はケロっとした顔で
「あれ?言ってなかったっけ?俺の同棲している恋人、男だよ。超イケメン!あ、熊さん、取らないで下さいよ」
と答えた。
「と……取らないよ!って、えぇ!」
驚いて友也を見ると
「え?熊さん…高杉様の事、好きでしょう?いっつも熱い眼差しで見てますもんね」
ニコニコ笑って、座り込む俺に手を差し出す友也。
「大丈夫ですよ。俺、こう見えても口が固いんで!」
にっこり笑う友也に
「気持ち悪く……無いのか?」
ぽつりと聞くと、友也はきょとんとした顔をしてから
「じゃあ、熊さん。俺の事、気持ち悪い?」
って、聞いてきた。
俺が首を大きく左右に振ると
「でしょう?俺も一緒。俺の知り合いの奴に比べたら、見て妄想してる熊さんの方が可愛いって」
と答えた。
「妄想…」
そう呟いて真っ赤になると
「あぁ!ごめん。えっと、いつもうっとりした顔で見てるから、なんか妄想してるんだろうな~って思ってたんだけど……」
頭を掻く友也に、俺はガッツリ落ち込んだ。
「お前にバレてるって事は、本人にもバレてるよな」
落ち込む俺に、友也は背中を叩いて
「大丈夫だよ!ドンマイドンマイ!」
って笑ってる。
(友也……その言葉、フォローになって無いから!)
恨みの視線を友也に向けた後、ガッツリ落ち込む。
俺、来週からどんな顔して会えば良いんだよ。
顔を両手で覆って落ち込んでいると
「でもさ…、熊さんはなんで高杉様が良いの?」
友也はすっかり身支度を整えて、リュックを背負いながら訊いて来る。
「……綺麗、だろう?」
そう呟いた俺に、友也は『う~ん』と言いながら
「俺は、ハルちゃんの方が好きかな?」
って答えた。
「ハルちゃん?」
「そう、ハルちゃん!」
笑顔で答えると、ロッカーのドアを閉めて
「って事で、じゃあお先に~!」
っと、言いたい放題言って帰ってしまった。
俺は誰もいなくなったロッカーで、赤くなった顔を両手で隠し、必死に気持ちを鎮めていた。
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