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母様の危機⑨
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そして、久しぶりに会った母様らしき魔物は、髪の毛も生え揃い、肌艶が大分良くなっていた。
おそらく……ゴブリン系の魔物に変えられてしまったのだろう。
肌の色は土色をしているだけで、見た目はゴブリンのようだった。
ベッドに横たわり、窓の外を見ていた母様に
「母様?」
そっと声を掛けると、ゆっくりとこちらに視線を向けた瞳の色は……まだ透明だ。
「亜蘭様……で、合っておりますか?」
小さく呟いた声は、聞き慣れた声とは遥かに違うのに、なんと無く……母様だと分かった。
初めて会った時のような異臭は無く、足元にはマテオとディランが母様らしき魔物を守るように傍に居た。
「亜蘭……ママの呪いが強くて、僕達が巻き付くと苦しむんだ」
マテオが悲しそうに呟く姿に、やっぱり本当に母様なんだと実感させられる。
「父様は?」
ふと疑問に思って呟くと、母様らしき魔物が身体を震わせた。
「亜蘭! ここでシルヴァの話はダメ!」
マテオに怒られて、疑問の視線を母様らしき魔物に向けると
「お願いです。シルヴァ王を連れて、王宮にお戻り下さい」
そう言って、ポロポロと泣き出したのだ。
アレンと顔を見合わせると
「あの方は、こんな俺に『愛している』と囁くのです。隙あらば、キスしようとして来るのです。こんな醜い俺を……愛せる筈が無いのに……」
顔を両手で覆い、嗚咽を漏らして泣く姿は痛々しい。
でも、父様の気持ちは嘘じゃない。
それは僕が知っている。
「どうして? 父様はいつだって、母様一筋だよ」
そう答えた僕に、母様らしき魔物は目を見開いた。
「貴方の母君が、俺の訳無いじゃないですか! 俺の治癒魔法が必要なら、瀕死な俺を助けてくれたご恩返しに幾らでも使います。ですから、こんな茶番は止めて下さい」
泣きながら訴える母様らしき魔物に、僕はそっと近付いて手を握り締めた。
「ねぇ、母様。父様はね、どんな器の母様だって愛せるんですよ。中味が、本物の母様なら。昔ね、母様が読んで下さった絵本に、カエルになった王子様が、綺麗なお姫様のキスで王子様に戻る絵本があったのです。その時、父様が『僕は多朗がどんな姿になっても、直ぐに見つけ出して愛を囁くし、キス出来る』って言っていました。それを有言実行しただけなんですよ」
「亜蘭様……」
「ちなみに、母様は父様をどう思っているの?」
それは、ちょっとした好奇心で質問したのだが……。
母様らしき魔物は顔を真っ赤にして
「俺のような魔物が、あんな美しい方をどうこうなんて……」
って慌てている。
(あぁ……そうか。愛しているから、辛いんだね)
「それ、父様に言ってあげてよ。泣いて喜ぶから」
しかし、僕の言葉に母様らしき魔物は首を横に振り
「俺みたいな魔物が、好きになって良い方では無いです」
なんて言い出した。
その言葉に、僕の中の何かが切れた。
「はぁ? あのね、母様。あの人、そんな風に言って貰えるような人じゃないから!」
思わずそう叫んでいた。
「亜蘭?」
僕に驚くアレンの声を無視して
「母様キチガイで、あの人の頭の中は母様だけなの。どうせ今頃、母様に拒否られて、何処かでしょんぼりしているんだろうけどさ! 大体、みんなおかしいよ? あの人、もうじき40歳になるオッサンなんだよ! 美しい人だって? 見た目だけのただの母様キチガイのアホなんです!」
肩で息をしながら、一気に話した僕に母様らしき魔物が唖然としている。
「今だって、公務を全部デーヴィドに押し付けて、自分は母様とベッタリでしょう? 気を付けてよ。そのうち、父様に寝込み襲われるから!」
思わず叫んだ僕に、ディランが
「それだ!」
と叫んだ。
「我等はすっかり忘れておった! 多朗、シルヴァに抱かれろ! 中和すれば、呪いがシルヴァの魔力に負けて解けるかもしれん!」
ディランの言葉に、母様らしき魔物が口をポカンっと開いている。
「ママ! そうだよ! シルヴァが珍しくマトモ過ぎて、すっかり忘れてたよ!」
母様の足元でキャッキャウフフと喜ぶ龍神に、今度は僕が口をポカンと開いてしまった。
「さすが亜蘭だ! そうと決まれば、出禁にしていたシルヴァを連れて来よう」
「そうだね!」
盛り上がる二匹の龍神。
「亜蘭、ありがとう!」
マテオが久しぶりに、僕の身体に巻き付いて来たが、僕としては単に父様の悪口を言っただけなのに、褒められてバツが悪い。
するとベッドの母様らしき魔物が、慌てて
「待って! 俺なんかを、抱ける訳無いだろう!」
そう叫んだが、僕とディランとマテオは
「いや、絶対に大丈夫」
と、何故か親指を立てて自信満々に答えていた。
「そうと決まれば、父様を呼んでくる!」
僕がアレンを連れて部屋を飛び出すと
「待って! 無理だからぁぁぁ!」
背中に母様らしき魔物の声を聞きながら、僕は走り出していた。
おそらく……ゴブリン系の魔物に変えられてしまったのだろう。
肌の色は土色をしているだけで、見た目はゴブリンのようだった。
ベッドに横たわり、窓の外を見ていた母様に
「母様?」
そっと声を掛けると、ゆっくりとこちらに視線を向けた瞳の色は……まだ透明だ。
「亜蘭様……で、合っておりますか?」
小さく呟いた声は、聞き慣れた声とは遥かに違うのに、なんと無く……母様だと分かった。
初めて会った時のような異臭は無く、足元にはマテオとディランが母様らしき魔物を守るように傍に居た。
「亜蘭……ママの呪いが強くて、僕達が巻き付くと苦しむんだ」
マテオが悲しそうに呟く姿に、やっぱり本当に母様なんだと実感させられる。
「父様は?」
ふと疑問に思って呟くと、母様らしき魔物が身体を震わせた。
「亜蘭! ここでシルヴァの話はダメ!」
マテオに怒られて、疑問の視線を母様らしき魔物に向けると
「お願いです。シルヴァ王を連れて、王宮にお戻り下さい」
そう言って、ポロポロと泣き出したのだ。
アレンと顔を見合わせると
「あの方は、こんな俺に『愛している』と囁くのです。隙あらば、キスしようとして来るのです。こんな醜い俺を……愛せる筈が無いのに……」
顔を両手で覆い、嗚咽を漏らして泣く姿は痛々しい。
でも、父様の気持ちは嘘じゃない。
それは僕が知っている。
「どうして? 父様はいつだって、母様一筋だよ」
そう答えた僕に、母様らしき魔物は目を見開いた。
「貴方の母君が、俺の訳無いじゃないですか! 俺の治癒魔法が必要なら、瀕死な俺を助けてくれたご恩返しに幾らでも使います。ですから、こんな茶番は止めて下さい」
泣きながら訴える母様らしき魔物に、僕はそっと近付いて手を握り締めた。
「ねぇ、母様。父様はね、どんな器の母様だって愛せるんですよ。中味が、本物の母様なら。昔ね、母様が読んで下さった絵本に、カエルになった王子様が、綺麗なお姫様のキスで王子様に戻る絵本があったのです。その時、父様が『僕は多朗がどんな姿になっても、直ぐに見つけ出して愛を囁くし、キス出来る』って言っていました。それを有言実行しただけなんですよ」
「亜蘭様……」
「ちなみに、母様は父様をどう思っているの?」
それは、ちょっとした好奇心で質問したのだが……。
母様らしき魔物は顔を真っ赤にして
「俺のような魔物が、あんな美しい方をどうこうなんて……」
って慌てている。
(あぁ……そうか。愛しているから、辛いんだね)
「それ、父様に言ってあげてよ。泣いて喜ぶから」
しかし、僕の言葉に母様らしき魔物は首を横に振り
「俺みたいな魔物が、好きになって良い方では無いです」
なんて言い出した。
その言葉に、僕の中の何かが切れた。
「はぁ? あのね、母様。あの人、そんな風に言って貰えるような人じゃないから!」
思わずそう叫んでいた。
「亜蘭?」
僕に驚くアレンの声を無視して
「母様キチガイで、あの人の頭の中は母様だけなの。どうせ今頃、母様に拒否られて、何処かでしょんぼりしているんだろうけどさ! 大体、みんなおかしいよ? あの人、もうじき40歳になるオッサンなんだよ! 美しい人だって? 見た目だけのただの母様キチガイのアホなんです!」
肩で息をしながら、一気に話した僕に母様らしき魔物が唖然としている。
「今だって、公務を全部デーヴィドに押し付けて、自分は母様とベッタリでしょう? 気を付けてよ。そのうち、父様に寝込み襲われるから!」
思わず叫んだ僕に、ディランが
「それだ!」
と叫んだ。
「我等はすっかり忘れておった! 多朗、シルヴァに抱かれろ! 中和すれば、呪いがシルヴァの魔力に負けて解けるかもしれん!」
ディランの言葉に、母様らしき魔物が口をポカンっと開いている。
「ママ! そうだよ! シルヴァが珍しくマトモ過ぎて、すっかり忘れてたよ!」
母様の足元でキャッキャウフフと喜ぶ龍神に、今度は僕が口をポカンと開いてしまった。
「さすが亜蘭だ! そうと決まれば、出禁にしていたシルヴァを連れて来よう」
「そうだね!」
盛り上がる二匹の龍神。
「亜蘭、ありがとう!」
マテオが久しぶりに、僕の身体に巻き付いて来たが、僕としては単に父様の悪口を言っただけなのに、褒められてバツが悪い。
するとベッドの母様らしき魔物が、慌てて
「待って! 俺なんかを、抱ける訳無いだろう!」
そう叫んだが、僕とディランとマテオは
「いや、絶対に大丈夫」
と、何故か親指を立てて自信満々に答えていた。
「そうと決まれば、父様を呼んでくる!」
僕がアレンを連れて部屋を飛び出すと
「待って! 無理だからぁぁぁ!」
背中に母様らしき魔物の声を聞きながら、僕は走り出していた。
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