水鏡

古紫汐桜

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1000年前の出来事

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 動画はパソコンの音声と共に、雅やかな音楽をバックに始まった。

 時は遡る事、今から1000年前
帝の寵愛を受けた美しい側室が、正室と同じ日に男の子を出産した事から始まった。
側室が産んだ男の子が帝の座を狙わないようにと、正室に嫌われていた美しい側室は、自分が産んだ男の子と一緒に鬼が住むと言われる鬼が村へと送られる。
鬼が村は代々、神を身体に落とす事が出来る巫女が、その力によって鬼の力を封印して守られて来た。
 やがて時は流れ、帝の子供が本来なら成人の儀を迎える歳になった頃。
母親の愛情を一身に受け、帝の子供は美しく優しい青年へと成長していた。
そんなある日、青年は偶然、神を宿す巫女と運命的な出会いをしてしまう。
2人は出会った瞬間、恋に落ちた。
しかし、巫女は綺麗な身体でいなければ神を身体に宿せない。
村人に知られれば引き裂かれてしまうと、2人は秘密の逢瀬を繰り返していた。
そんなある日、封印していた巫女の力が使えなくなり、鬼が封印から解かれて溢れ出して来た。
村は大騒ぎになり巫女に鬼の封印を迫るが、その時には既に、巫女の力は使えなくてなっていた。
 すぐに2人の関係が村人達に知れ渡り、青年は生贄として巫女の目の前で村人達により惨殺され、死体を鬼の世界と人間の世界を繋ぐと言われている湖へと投げ込まれてしまう。
巫女はあまりの悲しさに、目の前で愛する人が投げ込まれた湖へと投身自殺をした。
その時、湖は真っ赤な血の色に染まり、湖の水で成長していた桜がその水を吸い込み、真っ赤に狂い咲きしたという。
そして巫女の命と引き替えに、鬼の封印は守られた。
しかし鬼の力が強くなり、その封印が弱まった時、湖にあちらの世界が映し出される。
その時、青年の魂を宿した若者が生け贄になり、再び封印しなければ……この世界は消滅する。

湖に赤き桜が映る時、新たなる生け贄を与えねば、その封印は解かれ、鬼が世に放たれる

最後、そう締められて動画が終わる。
「お前、良くこの短期間にこんな凄い動画作ったな」
拍手する冬夜に、幸太が大きな溜め息を吐いた。
「何で他人事なんですか! この話が本当なら、冬夜さん。あなた、生け贄にされちゃうんですよ!」
本気で怒っている幸太に、冬夜は小さく微笑む。
「ありがとうな……。でも、この話が本当なら、俺一人の方が良いんじゃないのか? お前等は関係無いんだし」
冬夜がそう言い出すと
「冗談じゃない!」
遥と幸太は声を揃えて叫ぶと
「大体、嘘か本当か分からない危ない話に、お前一人でなんか行かせる訳ないだろう!」
「そうですよ! 中々、こんな有り得ない話の中心人物に遭遇出来るチャンスなんて無いんですから!」
前のめりになって叫ぶ二人に、冬夜は吹き出すと爆笑し始めた。
「冬夜?」
戸惑う遥に、幸太が
「とうとう、頭がおかしくなっちゃいましたかね?」
と、顔を見合わせて話している。
「悪い、悪い。遥、心配してくれてありがとう。幸太、心の声がだだ漏れの感想サンキューな」
冬夜はそう言うと
「俺さ……正直、俺一人居ようが居まいが、当たり前のように時間ときは流れて、誰も気に止めずに俺っていう存在は消えて無くなるんだろうと思っていたんだよ」
と、ポツリと呟いた。
「冬夜……」
遥はその一言だけで、冬夜が何故、自分を絶対に受け入れようとしないのかを少しだけ分かったように思えた。
「何度、突き放しても食らいついて来る女は居るは、その女に必死に食らいついて居て俺に喧嘩腰のくせに、やたらとお節介な奴は居るは……」
冬夜はそう言うと
「お前等、本当に変な奴等……」
と言うと、初めて破顔した笑顔を見せた。
(こんな時に……そんな笑顔、狡い)
ぎゅっと苦しくなる胸を押さえ、遥は泣き出しそうな気持ちになる。
冬夜とは長い付き合いで、色々な表情を見て来た。
でも、こんなに無邪気に屈託無く笑った冬夜の顔を初めて見たのだ。
溢れ出しそうになる感情を、遥が必死に抑えていると
「と……冬夜さんが……笑った!」
怖い物を見たように呟く幸太に、冬夜が
「あ? いつも笑ってるだろうが!」
と、反論した。
「いやいやいやいや!いつものは、目が笑って無いんですよ」
幸太が吊り目を作り、似てない冬夜のモノマネをすると
「お前、本当に良い性格してるよな!」
そう言って、幸太の頭を押さえ付けた。
冬夜と幸太が戯れ始めたのを見て
「少し休憩にしよう。私はお茶を入れて来る」
とだけ言い残し、遥は慌てて会議室を飛び出して給湯室へと駆け込んだ。
両手で顔を覆い、溢れる涙を押さえる。
(ダメだ。まだ……こんなにも、冬夜が好きなんだ……)
冬夜の笑顔を見ただけで、胸が締め付けられるように苦しい。
給湯室で、声を殺しながら泣き崩れる遥は
(冬夜が求める人は、どうして私じゃないのだろう?)
と、何度も繰り返された答えの出ない思いに苦しんでいた。
 いつか、この想いに決着が着く日が来るのだろうか?と、遥は溢れる涙を押さえながら考えていた。
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