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冬夜の思い②
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すると遙は大きな溜息を着いて
「逆だよ、信頼してるんだよ」
と答え
「あいつのカメラ、お世話になった方の形見なんだ。だから、やたら人に触らせない。一度、私が触ろうとして怒鳴られたよ」
そう言いながら、悲しそうに小さく微笑んだ。
「遙先輩……」
冬夜の話をする遙は、いつも悲しそうで幸太は切なくなる。
別に、遙が冬夜を好きだから冬夜を嫌いな訳じゃない。遙をこんなに悲しそうにさせている冬夜が許せないのだ。
「冬夜はいつも、幸太の仕事は丁寧で綺麗だって褒めているよ。私に、もっと幸太を認めてやれって……」
遙はここまで言いかけて、言葉を飲んだ。
────あれはいつの事だったのか……。
突然、普段は全く連絡して来ない冬夜から
『話がある。今夜時間あるか?』
と、SMSが入って来た。
恋愛事では無いと頭で分かっていても、初めて2人で会う事にドキドキしていた。
冬夜が時々フラリと立ち寄る店に入ると、カウンターで早速、逆ナンされている冬夜が目に飛び込んで来た。
「だから、待ち合わせなんだ」
「え~、嘘~。じゃあ、待ってるから。その後なら良い?」
「悪い、今はそういう気分じゃないから」
髪の毛をふわふわ揺らしながら、柔らかい素材のヒラヒラした服を着た女性が、冬夜の腕を引っ張って甘えている。
それを見た瞬間、遙は吐き気を催してトイレに駆け込んだ。
ダメだ......。
まだ、あの女の面影を見ると、吐き気がしてしまう。
「遙ちゃん、遙ちゃん」
幼い頃、あの女が自分の髪の毛を梳いては
「女の子はね、可愛くしていなくちゃね」
いつも可愛らしい服を着させられ、リボンの着いた長い髪の毛だった幼い頃の自分。
洗面所で口を濯ぎ、鏡に映る自分の顔を見た。
年齢を重ねる程に、あの女に似てくる自分の容姿に吐き気がする。
「遙ちゃん、ごめんなさい。ママ、あなたのママにはなれなかったの。でも、遙ちゃんは女の子だから分かるよね? ママは母親である事より、女で居たいの」
知らない男性の腕に縋り付き、鞄1つで家を出たあの女……。
母親が家を飛び出したあの日、遙は女性である事を捨てた。
長かった髪の毛を自分でハサミで短く切り、母親の買った服を全て庭で火を放ち燃やしたのだ。
スカートなんて、7歳のあの日以来はいていない。
中学、高校と、制服はパンツを選べる学校を選び、スカートは敢えてはかない選択をして生きて来た。
そう。冬夜に出会うまでは、恋さえもしなかった。
冬夜に出会い、遥は自分の根底を覆される思いを幾度としている。
叶わない想いなら、諦められたら良いのに……と遥は幾度と無く思っている。
顔を洗い、タオルで顔を拭くと、自分が映る鏡に水を掛ける。
「こんな顔...」
吐き捨てるように呟き、トイレのドアを開けた。
すると、ふわりと冬夜のコロンと同じ香りが鼻腔を掠める。
視線を向けると、女子トイレのドアの横に冬夜が立っていた。
「大丈夫か?」
ポツリと言われ、遙は
「お前、いつから?」
と驚いて叫んだ。
「お前が駆け込んでから……?」
そう言いながら、店の外へと歩き出したのだ。
「逆だよ、信頼してるんだよ」
と答え
「あいつのカメラ、お世話になった方の形見なんだ。だから、やたら人に触らせない。一度、私が触ろうとして怒鳴られたよ」
そう言いながら、悲しそうに小さく微笑んだ。
「遙先輩……」
冬夜の話をする遙は、いつも悲しそうで幸太は切なくなる。
別に、遙が冬夜を好きだから冬夜を嫌いな訳じゃない。遙をこんなに悲しそうにさせている冬夜が許せないのだ。
「冬夜はいつも、幸太の仕事は丁寧で綺麗だって褒めているよ。私に、もっと幸太を認めてやれって……」
遙はここまで言いかけて、言葉を飲んだ。
────あれはいつの事だったのか……。
突然、普段は全く連絡して来ない冬夜から
『話がある。今夜時間あるか?』
と、SMSが入って来た。
恋愛事では無いと頭で分かっていても、初めて2人で会う事にドキドキしていた。
冬夜が時々フラリと立ち寄る店に入ると、カウンターで早速、逆ナンされている冬夜が目に飛び込んで来た。
「だから、待ち合わせなんだ」
「え~、嘘~。じゃあ、待ってるから。その後なら良い?」
「悪い、今はそういう気分じゃないから」
髪の毛をふわふわ揺らしながら、柔らかい素材のヒラヒラした服を着た女性が、冬夜の腕を引っ張って甘えている。
それを見た瞬間、遙は吐き気を催してトイレに駆け込んだ。
ダメだ......。
まだ、あの女の面影を見ると、吐き気がしてしまう。
「遙ちゃん、遙ちゃん」
幼い頃、あの女が自分の髪の毛を梳いては
「女の子はね、可愛くしていなくちゃね」
いつも可愛らしい服を着させられ、リボンの着いた長い髪の毛だった幼い頃の自分。
洗面所で口を濯ぎ、鏡に映る自分の顔を見た。
年齢を重ねる程に、あの女に似てくる自分の容姿に吐き気がする。
「遙ちゃん、ごめんなさい。ママ、あなたのママにはなれなかったの。でも、遙ちゃんは女の子だから分かるよね? ママは母親である事より、女で居たいの」
知らない男性の腕に縋り付き、鞄1つで家を出たあの女……。
母親が家を飛び出したあの日、遙は女性である事を捨てた。
長かった髪の毛を自分でハサミで短く切り、母親の買った服を全て庭で火を放ち燃やしたのだ。
スカートなんて、7歳のあの日以来はいていない。
中学、高校と、制服はパンツを選べる学校を選び、スカートは敢えてはかない選択をして生きて来た。
そう。冬夜に出会うまでは、恋さえもしなかった。
冬夜に出会い、遥は自分の根底を覆される思いを幾度としている。
叶わない想いなら、諦められたら良いのに……と遥は幾度と無く思っている。
顔を洗い、タオルで顔を拭くと、自分が映る鏡に水を掛ける。
「こんな顔...」
吐き捨てるように呟き、トイレのドアを開けた。
すると、ふわりと冬夜のコロンと同じ香りが鼻腔を掠める。
視線を向けると、女子トイレのドアの横に冬夜が立っていた。
「大丈夫か?」
ポツリと言われ、遙は
「お前、いつから?」
と驚いて叫んだ。
「お前が駆け込んでから……?」
そう言いながら、店の外へと歩き出したのだ。
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