水鏡

古紫汐桜

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遥の想い

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 冬夜は男性なのに、美しいという表現が似合う容姿に、178cmの身長に鍛えられたモデルのようなスタイルで、女性が途切れた事が無い。
いつも違う、綺麗な女性と歩いているのを見る度に苦しくなった。
そう……自分とは正反対の、女を武器にしたような女。
まるで自分と父親を捨てた、あの女のような女性。
(やはり、男はみんなああいう女性が好きなんだろうな……)
と、遙がぼんやり考えていると
「幸太、コーヒー」
そう言って、冬夜が振り向いて呟いた。
すると幸太は顔を歪ませて
「はぁ? 何で僕が、冬夜さんなんかにコーヒー入れなくちゃならないんですか!」と言い返した。
すると冬夜も
「はぁ? まともに仕事が出来ない奴がやれる事って、それ位だろうが」
当たり前のように答え、事務所内にある打ち合わせスペースの3人がけのソファーに音を立てて座る。
「寝み~」
アクビしながらウトウトしている冬夜と、遙の視線が合う。
ドキッと高鳴る胸と、カァ~っと顔が熱くなる感覚に
「あ……じゃあ、私が入れて来るよ」
と、遙が慌てて視線を反らす。
冬夜の漆黒の瞳に、何度も目が合う度に心臓が飛び出しそうな程にドキドキしてしまう。慌てて給湯室に駆け込む遙に
「遙先輩、良いですよ。どーせ、が出来ない僕の仕事ですから!」
幸太が、冬夜に聞こえるように嫌味たっぷりで叫ぶ。
 一方、冬夜は幸太の嫌味に気付かないのか、ただ単に無視をしているのか分からない表情で、遙が朝、ポストから持ってきた新聞を手にすると読み始めている。
 幸太が冬夜にキツく当たる理由は、自分にあると遙は分かっていた。
幸太の気持ちが自分にあるのを知っていて、「幼馴染み」という言葉で幸太の気持ちを言わせないようにしている自分のズルさに苦しくなる
(幸太は私だ……)
遥はそう考えて、目を軽く伏せた。
いつだって、遥かにとって冬夜は近くて遠い存在だった。
手を伸ばせば触れられる距離に居るのに、決して触れられない相手。
何度、あの背中にしがみつきたかっただろうか?
何度、あの大きな手で触れて欲しいと願っただろうか?
何度、あの広い胸に抱き締められたいと願っただろうか?
でも……決して叶わない、愚かな願い。
遙は閉じていた目をゆっくり開くと、ふわりと鼻腔にコーヒーの香りが触れた。
ゆっくり視線を向けると、幸太がトレーにコーヒーカップを乗せて立っていた。
「先輩、コーヒー入りましたよ」
幸太のクルクル変わる表情が笑顔に変わる。
リスのように可愛い顔をした、弟のような存在の幸太の笑顔に、何度救われただろう。無邪気で可愛い、二つ年下の幼馴染みの幸太。
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