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要らないアルト②
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その後も、会う人会う人から『以前のアルトの方が良かった』と口々に言われてしまう。
アルトにとって、『以前のアルト』がどんな自分だったのか分からない。
だから、段々と人と接するのが怖くなってしまったのだ。
でも、そんなアルトをたった1人だけ否定しない人物が居る。
アルトにとって、いつでも自分だけを見つめて守ってくれるフランシスが心の支えになっていた。
でも、そんなある日の事だった。
フランシスとお茶の約束をしていたアルトは、約束の場所に向かう途中で月の巫女であるマリアンヌとフランシスの会話を偶然聞いてしまうのだ。
「ちょっと!アルトきゅんがああなったのは、あんたのせい?」
裏庭のテラスに向かって歩いていたフランシスに、マリアンヌがそう叫んでいた。
フランシスはマリアンヌの言葉に呆れた顔をすると
「僕がアルトに?」
と呟くと
「じゃなきゃ、なんでアルトきゅんがあんたなんかを好きなのよ!」
自国の第一王子に対して、『あんた』呼ばわりしているマリアンヌに唖然としていると
「そもそも、あんただって前のアルトきゅんだったから好きになったんじゃないの!」
と叫んだのだ。
するとフランシスは顔色も変えずに
「確かに、出会って惹かれたのは以前のアルトだ。それが?」
そう答えたのが聞こえ、アルトは足下が真っ暗になるのを感じた。
(やっぱり……フランシス様も、本当は前の僕が良いんだ……)
フランシスがその後、マリアンヌに何か話しているようだったが、アルトの耳には届かなかった。
フラフラと裏庭をテラスとは反対側に歩いていると
「おい!アルト・フィルナート!さっきから呼んでいるのに無視するのか!」
腕を捕まれてハッと我に返る。
声のした方に視線を向けると、灰色の瞳と目が合う。
フワフワとした柔らかい、少し癖のある赤い髪の毛に意思の強い瞳がアルトを見下ろしている。
「ギルフォード会長?」
驚いて呟くと
「そんな真っ青な顔でフラフラして、どうした?フランシス王子は?」
心配そうに言いながら、アルトを近くのベンチへと座らせた。
「すみません」
ポツリと呟いたアルトに
「何があった?」
と聞かれて
「実は、前の僕と今の僕が比べられてつらいんですよ~」
なんて、軽く言えたら良いのに……。とアルトは考えていた。
(きっと、前の僕ならそうしているんだろうな……)
そう思いながら、アルトは必死に笑顔を作り首を横に振る。
するとギルフォードはアルトの額にデコピンすると
「そんな真っ青な顔で、何も無いは無いだろう?」
と呟くと、アルトの隣に腰掛けた。
宰相の息子でフランシスの幼馴染みでもあるギルフォードに話せば、きっとフランシスの耳にも入ってしまう。
アルトには、それが何よりも怖かった。
フランシスも、本当は前の自分の方が良いのかもしれない。
そう考えるだけで、胸が張り裂けそうに苦しくなる。
アルトにとって、『以前のアルト』がどんな自分だったのか分からない。
だから、段々と人と接するのが怖くなってしまったのだ。
でも、そんなアルトをたった1人だけ否定しない人物が居る。
アルトにとって、いつでも自分だけを見つめて守ってくれるフランシスが心の支えになっていた。
でも、そんなある日の事だった。
フランシスとお茶の約束をしていたアルトは、約束の場所に向かう途中で月の巫女であるマリアンヌとフランシスの会話を偶然聞いてしまうのだ。
「ちょっと!アルトきゅんがああなったのは、あんたのせい?」
裏庭のテラスに向かって歩いていたフランシスに、マリアンヌがそう叫んでいた。
フランシスはマリアンヌの言葉に呆れた顔をすると
「僕がアルトに?」
と呟くと
「じゃなきゃ、なんでアルトきゅんがあんたなんかを好きなのよ!」
自国の第一王子に対して、『あんた』呼ばわりしているマリアンヌに唖然としていると
「そもそも、あんただって前のアルトきゅんだったから好きになったんじゃないの!」
と叫んだのだ。
するとフランシスは顔色も変えずに
「確かに、出会って惹かれたのは以前のアルトだ。それが?」
そう答えたのが聞こえ、アルトは足下が真っ暗になるのを感じた。
(やっぱり……フランシス様も、本当は前の僕が良いんだ……)
フランシスがその後、マリアンヌに何か話しているようだったが、アルトの耳には届かなかった。
フラフラと裏庭をテラスとは反対側に歩いていると
「おい!アルト・フィルナート!さっきから呼んでいるのに無視するのか!」
腕を捕まれてハッと我に返る。
声のした方に視線を向けると、灰色の瞳と目が合う。
フワフワとした柔らかい、少し癖のある赤い髪の毛に意思の強い瞳がアルトを見下ろしている。
「ギルフォード会長?」
驚いて呟くと
「そんな真っ青な顔でフラフラして、どうした?フランシス王子は?」
心配そうに言いながら、アルトを近くのベンチへと座らせた。
「すみません」
ポツリと呟いたアルトに
「何があった?」
と聞かれて
「実は、前の僕と今の僕が比べられてつらいんですよ~」
なんて、軽く言えたら良いのに……。とアルトは考えていた。
(きっと、前の僕ならそうしているんだろうな……)
そう思いながら、アルトは必死に笑顔を作り首を横に振る。
するとギルフォードはアルトの額にデコピンすると
「そんな真っ青な顔で、何も無いは無いだろう?」
と呟くと、アルトの隣に腰掛けた。
宰相の息子でフランシスの幼馴染みでもあるギルフォードに話せば、きっとフランシスの耳にも入ってしまう。
アルトには、それが何よりも怖かった。
フランシスも、本当は前の自分の方が良いのかもしれない。
そう考えるだけで、胸が張り裂けそうに苦しくなる。
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