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アルトの真意
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翌日、アルト達はメイソンの領地に入って声を失う。
荒れ果て、痩せこけた大地が広がり、まるで廃墟のようだった。
「酷いな……、まさかこんなになっていたとは……」
さすがのフランシスも顔をしかめると
「メイソン、この事を何故報告しなかった?」
フランシスの護衛達と一緒に居るメイソンに聞くと
「何度も城には嘆願書は出しました」
そう言われ、フランシスは首を傾げる。
いくらメイソンを使い駒にしたいからと、父王がこんな状況を見逃す筈が無い。
「ユリシス、居るか?」
フランシスが呼ぶと、護衛隊の中から明らかに身分の違いそうな金髪に水色の瞳をした綺麗な顔立ちの人物が現れた。
「フランシス様、お呼びですか?」
恭しく片膝を着き、フランシスに傅く男に
「大至急、ヒューストマン領の報告内容の確認と、例の報告書の準備をさせろ」
そう言うと、フランシスは大地に手を着いた。
目を閉じると、グラリと大地が揺れ動いた。
「やはりな……」
ポツリと呟き、胸ポケットから小瓶を出すと、その瓶の中に液体が現れた。
「ユリシス、ついでにこいつも調査しろ! 大至急だ! 私の考えが正しければ……、大変な事になる」
そう言うと、その人物は渡された小瓶を預かると、控えていた馬に跨り颯爽と去って行った。
そんなフランシスをポカンっとした顔で見つめるアルトに
「どうした? アルト」
と、フランシスが微笑むと
「凄いです、フランシス様! さすが本物の王子様ですね!」
そう言いながら、拍手している。
フランシスは無邪気なアルトの頭を撫でると
「僕は土地の浄化をしてくるから、アルトはメイソンのご家族の方を頼むよ」
と言い残すと、護衛隊数人を連れて歩き出した。
すれ違いざまに
「あぁ、そうだ。メイソン。アルトが神子の力できみのご家族を治したいらしくてね。神子の移動には、王家の人間一人とその騎士達の付き添いが必要なんだよ。それで、アルトは僕に依頼して来た。しかも、きみの領地を何とか救って欲しいってね」
そう言われて、メイソンはハッとした。
「その為なら、僕との婚約を受けても良いそうだ。良かったな。これでお前も、晴れて自由の身だ」
と言われて、メイソンは初めてアルトの最近の行動の意味を知った。
王家の人間を動かすとは、それなりの代償が伴うのは分かっていた筈だった。
それなのに、自分の感情でアルトを避けてしまった事を恥じた。
「メイソン? どうしたの?」
不思議そうにメイソンを見上げるアルトに
「アルト様……、フランシス様のご婚約をお受けになったのですか?」
思わず呟くと、アルトは一瞬顔を強ばらせると
「な……なんの話? それより、急ごう。早くメイソンのお母さんも妹さんも治さないと」
そう言って、アルトはメイソンの腕を掴んで歩き出した。
自分が下らない嫉妬をしていた間に、アルトはどんな覚悟をしていたのだろう?と、メイソンの胸が軋むように痛んだ。
久しぶりに戻った自分の屋敷は、国王の約束通りきちんと守られていると思っていた。しかし、屋敷には古くから仕えていた人間しか残っておらず、かなり苦しそうな生活をしていた。
「どういう事だ?」
出迎えてくれた執事は、首を横に振ると
「分かりません。ある日を境に、突然、この街にだけ流通がストップしてしまい、領民はこの地を捨てて出ていきました」
そう答えたのだ。
「私共は、元領民達から物資を分けて生活をしておりました」
「俺からの資金は?」
そう叫んだメイソンに、その執事は不思議そうな顔をすると
「メイソン様からの……資金?でございますか?」
と言われ、メイソンは自分のお金を何者かが横取りしていた事を知る。
そして、そんな事が出来る人物は1人しか居ないと気が付いた。
「叔父上か……」
ギリッと歯を食いしばり握り締めた手を、暖かい手が優しく触れた。
「メイソン……、今はそんなことより……」
アルトの声に、メイソンは頷いて母親と妹が養生している部屋に連れて行った。
寒々しい荒れ果てた屋敷に、メイソンは離れていた数年を悔やんだ。
(人など、信用するんじゃ無かった)
アルトはメイソンの苦しむ横顔を見上げて、そっと屋敷の壁に触れた。
すると目の前で、屋敷が一瞬のうちに元の活気ある屋敷へと姿を変えた。
「アルト様!」
驚いてアルトを見ると
「僕が出来るのは、古びた物を原型に戻すだけだよ」
そう言って微笑んだ。
荒れ果て、痩せこけた大地が広がり、まるで廃墟のようだった。
「酷いな……、まさかこんなになっていたとは……」
さすがのフランシスも顔をしかめると
「メイソン、この事を何故報告しなかった?」
フランシスの護衛達と一緒に居るメイソンに聞くと
「何度も城には嘆願書は出しました」
そう言われ、フランシスは首を傾げる。
いくらメイソンを使い駒にしたいからと、父王がこんな状況を見逃す筈が無い。
「ユリシス、居るか?」
フランシスが呼ぶと、護衛隊の中から明らかに身分の違いそうな金髪に水色の瞳をした綺麗な顔立ちの人物が現れた。
「フランシス様、お呼びですか?」
恭しく片膝を着き、フランシスに傅く男に
「大至急、ヒューストマン領の報告内容の確認と、例の報告書の準備をさせろ」
そう言うと、フランシスは大地に手を着いた。
目を閉じると、グラリと大地が揺れ動いた。
「やはりな……」
ポツリと呟き、胸ポケットから小瓶を出すと、その瓶の中に液体が現れた。
「ユリシス、ついでにこいつも調査しろ! 大至急だ! 私の考えが正しければ……、大変な事になる」
そう言うと、その人物は渡された小瓶を預かると、控えていた馬に跨り颯爽と去って行った。
そんなフランシスをポカンっとした顔で見つめるアルトに
「どうした? アルト」
と、フランシスが微笑むと
「凄いです、フランシス様! さすが本物の王子様ですね!」
そう言いながら、拍手している。
フランシスは無邪気なアルトの頭を撫でると
「僕は土地の浄化をしてくるから、アルトはメイソンのご家族の方を頼むよ」
と言い残すと、護衛隊数人を連れて歩き出した。
すれ違いざまに
「あぁ、そうだ。メイソン。アルトが神子の力できみのご家族を治したいらしくてね。神子の移動には、王家の人間一人とその騎士達の付き添いが必要なんだよ。それで、アルトは僕に依頼して来た。しかも、きみの領地を何とか救って欲しいってね」
そう言われて、メイソンはハッとした。
「その為なら、僕との婚約を受けても良いそうだ。良かったな。これでお前も、晴れて自由の身だ」
と言われて、メイソンは初めてアルトの最近の行動の意味を知った。
王家の人間を動かすとは、それなりの代償が伴うのは分かっていた筈だった。
それなのに、自分の感情でアルトを避けてしまった事を恥じた。
「メイソン? どうしたの?」
不思議そうにメイソンを見上げるアルトに
「アルト様……、フランシス様のご婚約をお受けになったのですか?」
思わず呟くと、アルトは一瞬顔を強ばらせると
「な……なんの話? それより、急ごう。早くメイソンのお母さんも妹さんも治さないと」
そう言って、アルトはメイソンの腕を掴んで歩き出した。
自分が下らない嫉妬をしていた間に、アルトはどんな覚悟をしていたのだろう?と、メイソンの胸が軋むように痛んだ。
久しぶりに戻った自分の屋敷は、国王の約束通りきちんと守られていると思っていた。しかし、屋敷には古くから仕えていた人間しか残っておらず、かなり苦しそうな生活をしていた。
「どういう事だ?」
出迎えてくれた執事は、首を横に振ると
「分かりません。ある日を境に、突然、この街にだけ流通がストップしてしまい、領民はこの地を捨てて出ていきました」
そう答えたのだ。
「私共は、元領民達から物資を分けて生活をしておりました」
「俺からの資金は?」
そう叫んだメイソンに、その執事は不思議そうな顔をすると
「メイソン様からの……資金?でございますか?」
と言われ、メイソンは自分のお金を何者かが横取りしていた事を知る。
そして、そんな事が出来る人物は1人しか居ないと気が付いた。
「叔父上か……」
ギリッと歯を食いしばり握り締めた手を、暖かい手が優しく触れた。
「メイソン……、今はそんなことより……」
アルトの声に、メイソンは頷いて母親と妹が養生している部屋に連れて行った。
寒々しい荒れ果てた屋敷に、メイソンは離れていた数年を悔やんだ。
(人など、信用するんじゃ無かった)
アルトはメイソンの苦しむ横顔を見上げて、そっと屋敷の壁に触れた。
すると目の前で、屋敷が一瞬のうちに元の活気ある屋敷へと姿を変えた。
「アルト様!」
驚いてアルトを見ると
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そう言って微笑んだ。
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