56 / 69
フランシスの想い
しおりを挟む
フランシスがアルトの視線に気付き、ハッとして慌てて両手を離すと
「フランシス様、どうしたの?」
と、フランシスを心配そうに見上げるアルトの瞳に切なさが込み上げて来る。
抱き締めようとしたその時、『ガチャ』っとドアの開く音が聞こえて、フランシスはそっとアルトから後ろに後退り離れた。
「お待たせ致しました。本日はベルガモットをご用意致しました」
優雅な手つきで茶器とマフィンを並べるメイソンを、アルトは全身から『大好き』を溢れさせて見つめている。
その姿を見る限り、自分には寸分の可能性さえも残されてはいないような気がしてならなかった。
フランシスは握り拳を握ると
「すまない。急用を思い出したので、失礼する」
そう言って踵を返すと、出て行こうとした。
そんなフランシスに、アルトは慌てて
「フランシス様、待って!どうしたの?何か用があって来たんだよね?それなのに、急に帰るなんて……。本当に変だよ」
そう言って腕を掴んだ。
フランシスは、アルトに掴まれた腕が焼けるように熱く感じた。
このまま攫ってしまえたら、どんなに良いのだろうと思う自分の気持ちを打ち消そうとした時だった。
「アルト様、フランシス様は急用を思い出されたのですから、邪魔をしてはダメですよ」
と話すメイソンの声が耳に入る。
(この野郎!わざと言っていやがるな!)
そう思ってメイソンを睨むと、アルトが寂しそうに
「急用って、そんなに大事な用事なの?最近、フランシス様と話をしていなかったから、久し振りに話がしたかったのに」
しょんぼりとした顔をするアルトを見て、萎んだ筈のフランシスの心が元気になって行くのを感じた。
「アルトは、私と話をしたかったのか?」
「うん!今日ね、授業で分からない所があってね……って、勉強の話は嫌だよね?」
上目遣いで見つめて苦笑いを浮かべたアルトの可愛らしさに、フランシスは鼻血が出そうになるのを必死に堪えた。
「今日、休んだ授業を教えようとして来たんだ。構わないよ」
優しく微笑み返すフランシスに、アルトは『パァっ!』と嬉しそうに笑みを浮かべて
「フランシス様、ありがとう!」
と、抱き着いた。
……が、直ぐにメイソンに引き剥がされ
「アルト様、直ぐに誰彼構わず抱き着く癖はお止め下さい」
そう注意されて、アルトは肩を窄めてフランシスを見上げると
「フランシス様、ごめんなさい」
と謝罪された。
「いや、私はアルトに抱き付かれるのは一向に構わないよ」
メイソンを睨んで答えるフランシスに、メイソンはアルトを自分の後ろに隠すと
「アルト様を食べようと、涎を垂らしていらっしゃる狼さんに、大切なアルト様を近付ける訳には行きませんから」
そう言って、にっこり微笑んだ。
「ほう?貴様、不敬罪という言葉を知っているか?」
「さあ?私はアルト様を、フランシス様から守る為に雇われておりますもので」
絶対零度の空気がフランシスとメイソンから流れ出す。
そんな二人を、呑気にアルトは見つめながら
「いつの間に、フランシス様とメイソンは仲良くなったの?」
と、場の空気を壊す発言をした。
その瞬間、二人は顔を見合わせて溜め息を吐くと
「お茶にしましょうか……」
「そうだな……」
そう言って、フランシスがアルトの隣に座ろうとするのを、メイソンが素早く
「あ、フランシス様。こちらは下座になりますので。お客様は上座へどうぞ」
と、一人がけの椅子へと強引に座らせた。
(コイツ、とことん邪魔する気だな)
フランシスが心の中で舌打ちすると、フランシスの前にアルトが座り直して微笑む。
……アルトの天使の笑みを見たら、全て許せてしまう自分は単純だなぁ~とフランシスは苦笑いを浮かべた。
「フランシス様、どうしたの?」
と、フランシスを心配そうに見上げるアルトの瞳に切なさが込み上げて来る。
抱き締めようとしたその時、『ガチャ』っとドアの開く音が聞こえて、フランシスはそっとアルトから後ろに後退り離れた。
「お待たせ致しました。本日はベルガモットをご用意致しました」
優雅な手つきで茶器とマフィンを並べるメイソンを、アルトは全身から『大好き』を溢れさせて見つめている。
その姿を見る限り、自分には寸分の可能性さえも残されてはいないような気がしてならなかった。
フランシスは握り拳を握ると
「すまない。急用を思い出したので、失礼する」
そう言って踵を返すと、出て行こうとした。
そんなフランシスに、アルトは慌てて
「フランシス様、待って!どうしたの?何か用があって来たんだよね?それなのに、急に帰るなんて……。本当に変だよ」
そう言って腕を掴んだ。
フランシスは、アルトに掴まれた腕が焼けるように熱く感じた。
このまま攫ってしまえたら、どんなに良いのだろうと思う自分の気持ちを打ち消そうとした時だった。
「アルト様、フランシス様は急用を思い出されたのですから、邪魔をしてはダメですよ」
と話すメイソンの声が耳に入る。
(この野郎!わざと言っていやがるな!)
そう思ってメイソンを睨むと、アルトが寂しそうに
「急用って、そんなに大事な用事なの?最近、フランシス様と話をしていなかったから、久し振りに話がしたかったのに」
しょんぼりとした顔をするアルトを見て、萎んだ筈のフランシスの心が元気になって行くのを感じた。
「アルトは、私と話をしたかったのか?」
「うん!今日ね、授業で分からない所があってね……って、勉強の話は嫌だよね?」
上目遣いで見つめて苦笑いを浮かべたアルトの可愛らしさに、フランシスは鼻血が出そうになるのを必死に堪えた。
「今日、休んだ授業を教えようとして来たんだ。構わないよ」
優しく微笑み返すフランシスに、アルトは『パァっ!』と嬉しそうに笑みを浮かべて
「フランシス様、ありがとう!」
と、抱き着いた。
……が、直ぐにメイソンに引き剥がされ
「アルト様、直ぐに誰彼構わず抱き着く癖はお止め下さい」
そう注意されて、アルトは肩を窄めてフランシスを見上げると
「フランシス様、ごめんなさい」
と謝罪された。
「いや、私はアルトに抱き付かれるのは一向に構わないよ」
メイソンを睨んで答えるフランシスに、メイソンはアルトを自分の後ろに隠すと
「アルト様を食べようと、涎を垂らしていらっしゃる狼さんに、大切なアルト様を近付ける訳には行きませんから」
そう言って、にっこり微笑んだ。
「ほう?貴様、不敬罪という言葉を知っているか?」
「さあ?私はアルト様を、フランシス様から守る為に雇われておりますもので」
絶対零度の空気がフランシスとメイソンから流れ出す。
そんな二人を、呑気にアルトは見つめながら
「いつの間に、フランシス様とメイソンは仲良くなったの?」
と、場の空気を壊す発言をした。
その瞬間、二人は顔を見合わせて溜め息を吐くと
「お茶にしましょうか……」
「そうだな……」
そう言って、フランシスがアルトの隣に座ろうとするのを、メイソンが素早く
「あ、フランシス様。こちらは下座になりますので。お客様は上座へどうぞ」
と、一人がけの椅子へと強引に座らせた。
(コイツ、とことん邪魔する気だな)
フランシスが心の中で舌打ちすると、フランシスの前にアルトが座り直して微笑む。
……アルトの天使の笑みを見たら、全て許せてしまう自分は単純だなぁ~とフランシスは苦笑いを浮かべた。
0
お気に入りに追加
387
あなたにおすすめの小説
転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった
angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。
『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。
生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。
「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め
現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。
完結しました。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
・作者が話の進行悩み過ぎてる
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
専属【ガイド】になりませんか?!〜異世界で溺愛されました
sora
BL
会社員の佐久間 秋都(さくま あきと)は、気がつくと異世界憑依転生していた。名前はアルフィ。その世界には【エスパー】という能力を持った者たちが魔物と戦い、世界を守っていた。エスパーを癒し助けるのが【ガイド】。アルフィにもガイド能力が…!?

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

少女漫画の当て馬に転生したら聖騎士がヤンデレ化しました
猫むぎ
BL
外の世界に憧れを抱いていた少年は、少女漫画の世界に転生しました。
当て馬キャラに転生したけど、モブとして普通に暮らしていたが突然悪役である魔騎士の刺青が腕に浮かび上がった。
それでも特に刺青があるだけでモブなのは変わらなかった。
漫画では優男であった聖騎士が魔騎士に豹変するまでは…
出会う筈がなかった二人が出会い、聖騎士はヤンデレと化す。
メインヒーローの筈の聖騎士に執着されています。
最上級魔導士ヤンデレ溺愛聖騎士×当て馬悪役だけどモブだと信じて疑わない最下層魔導士
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる