40 / 42
ここから
祖父母の死~命を返すこと~
しおりを挟むアドリア達が卒業し、式を挙げた。
でも、まだまだ私は現役で無くてはならない。
そう思いながら仕事をしていると、祖母が城を訪れた。
「リディア御祖母様、どうしたのですか?」
「うむ、そろそろ私とロンディネの命を主神アンノにお返ししようと思う」
「え」
命を返す、という意味くらい私は知っている。
それは死ぬという事なのだから。
「早すぎ、ませんか?」
思わず動揺してしまう。
「いやいや、二百も生きた、もう十分だ」
「……」
私はしがみつくタチだから、もっと生きたいと願ってしまうだろう。
「ダンテ、お前は長生きしなさい」
「え」
「お前は生きる事の美しさをまだまだ知り終えてないからだ」
「え?」
耳を疑った。
「お前が生きる美しさを知り終えるのには……私の倍以上時間がかかるだろう」
「……」
「ではな」
「リディア御祖母様」
思わず呼び止めた。
「何だ?」
「……どうか、看取らせてください」
「変わった子だな、お前は本当に」
祖母は微笑んだ、美しかった。
終の棲家となる屋敷に私達はやって来た。
祖母と祖父?は既にベッドで寝ている。
「少し緊張しますね……」
「怖いとかはないのですか?」
「いいえ、あるのは安息だけです」
私は理解ができなかった。
だって、これから死ぬんだよ、この二人は。
「ダンテ、お前は理解するまで時間がかかる、だから長生きしろ」
祖母はそう笑うと、自分の伴侶の手を握り静かに呟いた。
「女神インヴェルノ、主神アンノよ。貴方方から頂いた命、今お返しします」
そう言うと二人は光に包まれ、そして光は上へと上っていった。
ガラス状の天井を突き抜けて。
光が消え、医者が静かに口にした。
「お亡くなりになられました」
心に重いものがのしかかり、私の目からは涙がこぼれていた。
「ダンテ……」
「これが王家では普通なのに、どうして私はこんなにも──」
「悲しいのでしょうか──」
祖母達の葬儀は盛大に行われた。
老若男女身分問わず、民が訪れ花を捧げた。
手を握り合い、静かに眠るように死んでいる祖母達を私は直視することはできなかった。
「王族の方々は寿命が長いのです」
フィレンツォがそう言った。
「だから、お返しするのです、自分が生きた証として」
「生きた証……」
私は言葉を反芻するが、上手く自分の中で処理できなかった。
その日は、何か一人で居たくなかった。
伴侶達──エドガルドや、エリア達と一緒に居た。
「大丈夫か、ダンテ」
「いいえ……ちょっと不安体です、ですからどうか側にいて欲しいのです」
私は王様らしくない、弱気な言葉を返した。
すると、皆が私を抱きしめてくれた。
「ダンテ、お前は死が怖いのだな」
「僕も……怖いです」
「私もだ、ダンテ」
「俺もこぇえよ」
「俺もだ」
皆が私を肯定してくれた。
「だが、いつかは避けられない。その日まで、私達は共にあろう」
エドガルドの言葉に、皆が頷いた。
「……ありがとう……皆さん」
私は嗚咽をこぼしながら、涙を流し、抱きしめ返した。
「いつか私も死ぬんだよね」
『それはそうだ』
神様が言う。
「いつなのかな」
『それは分からぬ、だがお前は長くなりそうだ』
「生きるのが?」
『ああ、なかなか死なないだろうな、お前は』
「命を返さないってこと?」
神様に問いかける。
『そういうことだ』
予想通りの答えが返ってきた。
『お前は死ぬのが怖いのだからな』
「誰だって死ぬのは怖いですよ」
『確かに』
神様は頷く。
『だが、いずれ命を返す時が来る、それまでゆっくり生きるといい』
「王様として?」
『退位した後も考えておけ』
「はぁい」
夢──神様との対話から目覚める。
今日も王としての仕事がある。
「頑張らないと」
自分を励まし、勇気づける。
書類に目を通し、民や貴族が謁見に来て、問題を解決等する。
それが終わると──
伴侶達に部屋へ押し込まれた。
「な、な、どうしたんです?!」
「だ、ダンテ様がむ、無理、してる、から」
エリアが必死に言うと、他の皆が頷いた。
「無理、してる?」
勿論私にそんな自覚は一切ない。
エドガルドが呆れた様にため息をつく。
「お前は祖父母の死に傷ついている」
「え……?」
「身内の死は堪えるだろう」
「……」
そう言われると、そうだとしか言えない。
もっと生きられるのに、自分たちで死を選んだ。
寿命を返すというのがよく分からない。
もっと祖父母と交流したかったし、祖父母に恩返しもしたかった。
「あ……」
気がついたら、私は泣いていた。
涙を拭ってもまたすぐ涙がこぼれてくる。
──つらい、悲しい、寂しい、どうして──
そんな感情があふれて出てくる。
「ダンテ、泣いてもいいんだぞ」
エドガルドのその一言に、私は泣いた。
年も身分も、忘れて泣いた。
いつか父母も同じように寿命を返して死ぬときが来るのが脳裏をよぎる。
そのときも、きっと私は耐えられないだろう。
肉親の死には耐えられない。
生き汚い私にはとうてい無理な事だ。
そして──
私もいつか寿命を返す日が来るのだろうか?
それが分からないままだった──
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
僕の前世はコオロギですから!【完結】
蕾白
BL
高校三年生、十八歳の薗原裕唯には悩みがあった。何故か某テレビドラマの主演俳優の声に身体(主に下半身)が反応してしまうのだ。しかも全く接点がないはずのその主演俳優朱皇アキラに出会ってしまった。アキラは裕唯の顔に身体が反応してしまうという。お互いの利益のために「恋愛を前提としたおつきあい」を始めた二人。さてどうなる??
……というかなりふざけた内容のラブコメっぽい何かです。
全20話です。他サイトで先行連載したものです。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる