塔の上のお姫様

琴葉悠

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昔々の……

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 これはお姫様が生まれる前のお話。

 とある魔界に魔王様がおりました。
 魔王様は人間に対して何の感情も抱いておりませんでした。

 ハロウィンの夜。
 小さな悪魔達に紛れて魔王様は人間界を訪れました。
 そこで、悪魔達にお菓子をあげる美しい女性と出会いました。

「小さな悪魔さん達、お菓子をあげるからいたずらはしちゃだめよ」

 女性は言葉だけでなく、心でも、自分がお菓子をあげてる存在が悪魔だと理解していることを知り、魔王様は驚きました。

 女性が魔王様に近づき声をかけます。

「まぁ、大きな悪魔さん、貴方もお菓子はいかが?」
「菓子はいらぬ。何故悪魔だと分かって菓子をやっているのだ?」

 女性はきょとんとして応えました。

「悪魔全てが悪い訳ではないわ、貴方もそうでしょう」

 魔王様は女性に恋をしました。
 初めての恋だったため、魔王様はどうすれば女性の気を引けるのか分かりませんでした。

 美しい宝石や金銀財宝を贈れば

「勿体ないのでいりません」

 高級な菓子を渡せば

「貴方もご一緒にいかが?」

 花束を贈れば

「まぁ、素敵。どこに飾ろうかしら」

 と言う反応だったので、魔王様はいつも女性にお菓子と花束をもって遭いに行きました。

「大きな悪魔さん、貴方は私に何をして欲しいのですか?」
 ある日女性が問いかけます。
「どうか私の妻に」
「まぁ! 私のような魔女を?」
「魔女?」
「ええ、皆がそういうの。その黒い髪は黒い目は魔女の証だって、だから私は町から離れて一人で暮らしているの」
「貴方は魔女ではない、ただの人だ」
「では、そのただの人の私を?」
「ああ」
「まぁ、嬉しい。連れて行って貴方の世界に!」
 魔王様は女性を連れて行きました。

 そして女性を自分の妻としました。

 女性は力の弱い悪魔達を庇護し、またがれきの魔界に花畑をつくりました。

 やがて、二人の間に女の子が生まれます。
 それがお姫様でした。

 お姫様は二人の愛を受けすくすくと育ちました。

 ですが五歳の誕生日に──

 目の前で、女性を、お母様を亡き者にされました。
 死んでしまったお妃様に小さき悪魔達は皆嘆きました。
 力ある者は歓喜しました。

 これで力による支配の時代が来ると。

 ですが魔王様には誰も勝てません。
 欲深き者はお姫様を人質に、もしくは虜にして魔王の座を狙おうとしました。

 それを知った魔王様は、塔にお姫様を幽閉しました──



 100年も昔のお話です。
 お姫様は今も、塔の中にいて、子どものまま過ごしています。
 安全なハロウィンの日以外外出できずに居ます。




「いつになったらおとうさまとまたいっしょにそとをあるけるのかしら」


 詳しいことを聞かされていないお姫様は塔の中で以前の生活を夢見ています。
 100年もずっと──





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