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壊れた中で見つけた大切な思い出

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 医者の診断だと、俺の精神はぶっ壊れている状態にあるそうだ。
 急にぶっ壊れた訳じゃない、長い間壊れていたのを、俺が無自覚に押し込めていた。
 だけども、それが急に噴き出たらしい。

 きっかけは簡単。

 もう、二度と追われなくて済む環境になった。

 という事からだ。

 俺の状態は例えるなら、傷が開いた箇所に幾重にも布を巻いてごまかしていたのに、その布が破けて血が噴き出ている、そんな感じらしい。


 治療には長い時間がかかると言われた。
 それもそのはずだ、俺は医者の薬とかも飲めない。
 王子様が薬を目の前で調合した物とかしか飲めないし、注入できない。

 けど、その理由は今も分からない。
 分からないのは、何で王子様だけは平気なのか、だ。

 それ以外に関しては心当たりしか存在しない。




 知り合いだったはずの相手が金で買収されて、裏切られて毒を盛られた事もある。
 町中から追われて殺されかけたことだってある。

 正直思い出したくもない。
 家族以外敵しかいなかった世界で、俺は我慢していたんだろう。

 そんな中で「もう我慢しなくていいよ」なんて言われた途端、俺の傷は開いてごらんのありさま。

 ここの城の、此処の国のひとが悪い訳じゃない。
 だけども、どうしても、俺は怖くて仕方ないのだ。
 おかげでここずっと眠れない。


 もちろんそれはバレたし、どうするかと言われたら、王子様が「私が傍にいます」なんて言われて、二人っきりになって傍で手を握ってもらってようやく寝れたのだ。

 だから、謎なのだ。
 俺がどうして王子様の事が平気なのか。

 意識がもうろうとしてくると、幼い頃の俺が俺の事罵倒してきやがるから最悪だし。

 一体何だんだよもう。




 王子様に迷惑をかけ続ける日々を過ごしていると、母さんが俺の荷物を持ってきた。
「ニュクス、体は大丈夫?」
「ああ、うん、だいじょうぶ」
 俺は嘘をついてしまう。
 それを聞いた母さんは悲しそうに微笑んだ。
「今日はね、貴方が大切にしているものをもってきたの、きっとよくなるんじゃないかと思って」
「たいせつ……?」
「これよ」
 母さんは王子様にそれを私、王子様はそれを一瞬見て、驚いた表情を浮かべてから、穏やかに笑って俺にソレを渡した。

 黒い箱。

 宝箱だ、俺以外開けられない宝箱。

 俺の大切な――

 大切な――

 何が入ってたか思い出せなかった。

「ニュクス、開けてみるといい。私もきっとよくなると思う」
 王子様にそう言われて、俺は恐る恐る箱を開ける。

 箱の中に入っていたのは、角度や、光の加減で色が変わり、中には小さな薔薇の花がある宝石だった。

「綺麗だな……でもなんでこれが――」


 頭が一気に痛くなった。

 色んな光景が頭の中を駆け巡る。

 そしてある情景を、俺は思い出した。


『……生まれてこなければよかったと、思ってしまうのか君は』
 俺を何度も助けてくれたひとは俺にそう言った。

『全ての命は祝福されている……はずだというのに、どうしてこう時の流れは多くの者達を愚かにしてしまうのか、かつて賢者と言われていた種族さえも、今では聖王の言いなりだ』

 ああ、この声は、この声は。

『ニュクス、君は生まれて良くなかった存在などではない。生まれてくるべくして生まれた、他の者達と同様』

『君は何処かへ行くのだね、そうだね、じゃあ最後だ。君と再会できることを祈って、私と君が出会った証として私の名前を最後に、この事は、誰にも言ってはいけない、いいね。時が来るまで』

『私の名前は――』

『リアン――とある国のそう、王子という立場だよ』

――おうじさま、なのか?――

『ああ、だからいつか、君の事を本当の意味で助けてあげたい』

――いいよ、いつもたすけてくれたから、うん、いつかおれがおんがえしするよ、いつかりあんのこと、たすけるよ――

『ふふ、ありがとう、ニュクス』


「……俺……何も恩返しできてないのに……」
「――思い出してくれたのかい?」
「俺、これ持ってていいのかな……」

 宝石を壊さないように優しく包みながら言葉を口にすると、リアンは頷いた。

 俺はこの宝石がどんなことを意味するか思い出したのだ。


『――ニュクス、もし君が嫌じゃなければ、君が大人になったら、私と結婚してくれないかな? 君の家族を勿論守るよ、約束する』
――おれみたいなやつとけっこんしたいの?――
『君が大人になって私と再会した時に結婚してほしい、君は素敵な子だよ、けっして災いの種でも、なんでもない、君は普通の子だ、普通の素敵な子だ』
――へんなやつ……いいよ、どうせけっこんできないよ、おれ、こんなからだだもん――
『体の事はいいんだ。君のその体は変でもなんでもない、そういう体だった、ただそれだけなんだよ』
――おとこでも、おんなでもないのに?――
『君の精神が男性よりだろうと、女性よりになろうと、どちらでもなくてもいい、君が君自身なら』
――ほんとう、かわってる――
『よく言われるよ』
――ああ、うん、じゃああんたがおぼえてたら、いいよ――
『分かった、忘れない、君の事だけは決して』
――……どうせわすれるだろ――
『はは、これでも忘れないと決めたことだけは忘れたことはなくてね』
――……へんなの――
『じゃあ、誓いにこれを渡そう』
――なに、これ……ほうせき?――
『婚約者へ渡すものだよ、君に渡そう』
――……なくすかもしれないけど?――
『大丈夫、それは決して無くすことは無い。君は何処かにしまうだけ、決してなくならない』
――ふぅん――

 言葉の通り、俺はこの宝石を無くすことなく、ずっと持ち続けていた。
 今に至るまで、俺はこの宝石を無くすことはなかった。

 母さんも、売り払うなどしなかったし。


「ニュクス、改めて言おう」
 リアンが膝をついて俺の手を取った。
「君が男だろうと、女だろうと、どちらでもなくても君は君のままだだから――」


「どうか私と、結婚して欲しい」


 リアンの言葉に、俺は上手く言う事ができなかった――





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