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奪還
しおりを挟む大企業といわれるマイヤー社の前にブラッドとレアは姿を出現させると、周囲の様子を見渡した。
「厳重な警備だな」
「どうする?」
「突破するまでだ」
「そうだな」
二人そろって警備員のいる場所へと飛び込んでいく。
警備員は銃口を向けて弾丸を二人に放つが、二人はそれを気にもせずよけて、警備員を蹴り倒し、気絶させる。
建物の中に入るなり警報が鳴り響いたが、二人は気にすることなく進んでいく。
ブラッドを先頭に、レアが続く形で建物の奥へ奥へと移動していく。
「おい、こっちで道は合ってるのか?」
「マリヤのいる場所は分かると言ってるだろう!」
「そうだな、マリヤに関しては貴様は犬より信頼できる」
「どういう意味だ!」
「匂いをたどる犬よりも誤魔化されないってことだ」
レアとブラッドはいつもの調子で会話をしながら、警備員たちをなぎ倒していく。
警備員側は、二人が異形の何かに見えているかのようにどこか怯え、冷静さを欠いていた。
しばらく、警備員をなぎ倒しながら進んでいくと、頑丈な扉の前にたどり着く。
「……堅いな、これは『生物』じゃないから私には破壊できんぞ」
レアは扉を軽くノックすると、困ったようなため息をついた。
「何簡単なことだ、私が壊せばいい」
手袋を外し、鋭い爪と手を出すとブラッドはその異形じみた手で何回も何十回も扉を殴りつけた。
すると扉はその圧に耐えきれなくなったのか最期には大穴をあけて壊れた。
「結構頑丈だったな」
「何回殴った?」
「56回だ」
「お前の攻撃56回も耐えるとはなかなかの品だな」
「たぶんマリヤが以前開発した金属を使ったのだろう、販売してたからな、こうして別の形でマリヤの発明品を目にすると改めて優秀さが分かるな」
ブラッドは自慢げにいうと、そのまま穴から部屋の中へと入っていく。
部屋の中には大量の培養管があり、その中には異形になった状態の何かが保存されていた。
「……全部壊したいのだが」
「後にしよう、私がすべて壊す」
培養管の中の物を見て、気分を害したブラッドに、レアはそう冷静に返した。
「それよりもマリヤだ」
「そうだな、分かっている」
ブラッドは部屋の奥へと進んでいく。
再度同じ扉があった。
「今度は少し薄めだな」
「……ロックが不用心に外されている何かあるぞ」
「何か、か」
レアの言葉に、ブラッドは神経を尖らせながら扉を開かせた。
扉の向こうの部屋には拘束されたマリヤと――彼女を人質にとるかのように盾にしている男がいた。
「マリヤ!」
「ち、近づくんじゃないぞ!!」
男は虚勢を張りながら後ろに後ずさりする。
「それ以上近づいたら、この女に新薬を投薬してやる! 特効薬でも効くか分からない代物だぞ!」
「……!」
その言葉に、レアとブラッドは動きを止める、止めざるえなかった。
そして動きを止めてマリヤを見る、意識はあるようだが、ひどく落ち着いているように見える。
「――ブラッド様、レア先生、私の事は大丈夫です。 ですからどうか、この人をぶちのめして下さい」
「お前……!」
その言葉に男は注射型の薬を取り出し、マリヤの首に打ち込んだ。
「!!」
空になった薬が転がった瞬間、男はブラッドの一撃で吹き飛ばされた。
「マリヤ!!」
拘束されたマリヤを抱き抱えてブラッドは特効薬を取り出し、藁にすがる気持ちで首に注入した。
「は、はは! むだ……え……な、何で変化していないんだ!!」
「……この薬何でできたか分からないほど、私は間抜けではありません」
マリヤはレアに拘束をとかれながら静かに口を開いた。
「お前、まさかわかっていて……!」
「いろんな発明品を作ってる中で、ブラッド様の細胞登録をする必要があるものもありました、その時気づきました。でも、ブラッド様は何も言わないから気づかないふりをしてました」
「……!!」
ブラッドは驚きの表情を浮かべてマリヤを見る。
マリヤは困ったような笑顔を浮かべてブラッド見つめた。
「だからいつ気づいたのバレるかなーってどきどきしてたんです、だからいつも急にでてくるブラッド様に驚いてしまったんです、それ以外もありますけど」
マリヤは苦笑しながら続けた。
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「私、少し変わったヴィランなんです、臆病で、自分に自信がなくて――そして誰かが傷つくのがとても怖いヴィランなんです」
「ヴィラン?! それのどこがヴィランだ!!」
マリヤは立ち上がり男を見据えた。
「――世界征服組織ブラッド・クライムに所属してますからねこれでも、だからどうであれ私はヴィランなのです。そして私はブラッド様のものです。あの日からすべて」
その言葉に、ブラッドはニヤリと笑った。
「――と、いう訳だ。その我々に喧嘩を売ったのだから覚悟はできてるだろうな?」
男の目の前にブラッドが指をやり、目線を合わせると、男は歯をがちがちならし、絶叫した。
「まだ化け物になりたくないいい! 薬は薬はどこだぁ……!!」
狂ったように暴れだしたのを見ると、ブラッドはマリヤの元に戻り彼女を抱き抱えてレアと一緒にその場所を後にした。
「しかし、新薬が効かないとは一体何をしていたのだ?」
「特効薬も新薬がありますから、それを事前にワクチンとして注入していただけですよ」
「なるほど、さすがだマリヤ」
「だがあの男を挑発するのはやめた方がよかったぞ」
「ははは……ところで何をしたんですか?」
「ああ、あの男に新薬を注入する幻覚と化け物に変化していく幻覚両方見せただけだ」
「うわぁ……」
「えげつないな」
やや青ざめた顔をするマリヤと、どん引きするレアにブラッドは少し怒りまじりの表情を浮かべた。
「私たちに喧嘩を売ったのだ、これくらいは当然だ!」
「ブラッド様……」
培養液の中の物をレアが全て破壊してから三人はマイヤー社の中を少し歩いた。
そして途中で、歩くのをやめて三人同時に姿を消す。
すると屋敷の中に三人は移動していた。
「……相変わらず便利な能力だな」
「これくらいはできんとな」
「さて、私は大学にいって負傷者の治療と救助にあたってくる」
レアはそう言うと、屋敷の外へと出て行った。
「……あのブラッド様……」
「――なんだ」
「二人っきりになれたので、話したいことがあるんです」
「いいだろう、折角だ私の自室で話すぞ」
「はい」
ブラッドはマリヤを抱えたまま、基地の方へと姿を消した。
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