21 / 30
『永遠』という薬
しおりを挟む制限令が解除され、いつも通りの日常が戻ってきた基地内で、マリヤはもくもくと研究を続けていた。
そして、それをブラッドが眺めていた。
その視線に耐えきれず、マリヤは手を止める。
「……あ、あのブラッド様。そんなにじっと見つめられるとやりづらいんですが……」
「気にするな、続けろ」
「はぁ……」
ブラッドが邪悪に笑って言うと、マリヤは萎縮しながらうなづき、再び研究を再開した。
レポートに書き込んだ内容を、実践し、液体を混じり合わせフィルターをそこに浸していく。
そのフィルターを銃のような器具に取り付けて、ビーム状の光を空箱に照射すると、空箱が縮んだ。
「無機物は問題ない、あとは有機物……、それと戻す方法」
マリヤはぶつぶつ言いながらフィルターを外して液体の結晶化作業へと入っていく。
「ドクター・マリヤ」
「は、はい?! ブラッド様?!」
「この研究はいつ頃終わる?」
「寝ずにやれば明後日ごろですが、寝てやれば一週間後くらいかと……」
「寝てやれ」
「わ、わかりました……」
マリヤはそういうと、研究のほうに戻った。
ブラッドはしばらくそれを見つめた後に、姿を消した。
研究室には、研究に没頭するマリヤだけが残された。
マリヤの研究室から戻ったブラッドは自室に戻り、椅子に深く座りため息を吐いた。
「……あと、どれだけ続けられるか……」
そう言葉を吐き出すと同時に、レアが入ってきた。
「おい、どうしたそんな深刻そうな顔をして」
「連中が動いているのが解る、だからこそ後どれだけの時間真実を語らずに済むかを考えてるのだ」
ブラッドの言葉に、レアは納得した表情で頷いた。
「いずれ語らなければならないのは最初から解ってただろう」
「それはそうだが……こんな時臆病になって困る」
「ブラッド・クライムの総帥がそんな弱気でどうする」
珍しく気弱になっているブラッドを、レアは鼻で笑った。
「今までこんな感情になったことなどないのだ、仕方ないだろう」
「そうだな、貴様はいつも邪悪で高慢で、どうしようもない奴なのが基本だったからな」
「相変わらず言ってくれる」
ブラッドはようやく笑う、疲れたような笑いだった。
「まぁ、だめだった場合は私が貴様を殺してやるから安心しろ」
「そうだな、その時は今度こそ、殺してもらおうか、しくじるなよ」
「今度はしくじらないさ」
レアの不敵な笑みに、ブラッドはいつもの邪悪な笑顔で返す。
「ところで、町の方にいったか? もう復興ずみなのは知ってるだろうに、そろそろ見回りでもしたらどうだ?」
「見回りならしてる、私は行った場所ならどこでも見れるからな」
「そうだな、そうだったな」
ブラッドの言葉に、レアはただ頷いた。
「薬を使っている連中がいるようだ、ちょっと行ってこよう」
「ああ、待っているぞ」
ブラッドは立ち上がるとその場から姿を消した、後にはレアが残されたが、彼女はすぐさま部屋を後にし、部屋は静寂に包まれた。
ブラッドは町中の路地裏部分に来ていた。
漂う血のにおいに眉を潜める、そして足音を立てずに近づくと目を見開いた。
様々な肉塊が混じり合ったような化け物が、人をむさぼり食っていたからだ。
「た、助けて……!」
まだ被害にあってない女をかばいつつ、化け物を蹴り飛ばすと、ブラッドは即座にその場を女と離れた。
少し離れた人気のない場所につくと、女に問いただす。
「おい、アレは何だ! 何が起きた!!」
「さ、最近流行の『エターナル』っていう薬をグループのメンバーがやったと思ったら、急にあんな姿に……」
「薬を貴様は所持しているか?」
「こ、ここに」
「ではよこせ、それが貴様の命をすくった代金だ」
「わ、わかった」
女はそういうと、注射器をブラッドに渡して逃げていった。
ブラッドはそれを懐にしまうと、先ほどの場所に戻る。
化け物は屍を食い漁っていた。
「……どうやら事態は悪い方向ばかりにすすんでいるようだな!」
ブラッドはそういうと、鋭い爪で化け物の胸元をえぐる。
化け物は耳障りな悲鳴を上げて抵抗するが、ブラッドは気にせず化け物の心臓部をえぐり出し、握りつぶした。
握りつぶすと化け物はくたりと動かなくなり、やがてどろどろに溶けて跡形もなく、消えた。
「……レアに言わんといかんな」
ブラッドはそういうとその場から姿を消し、レアの自宅へと移動していた。
すでに帰宅していたレアが、面食らった顔で出迎えた。
「どうした、何があった?」
「連中が実験段階として薬と称してばらまいている、『不老不死』の実験としてな」
「何だと?」
ブラッドはレアに先ほどの薬を手渡した。
「『エターナル』というらしい、使った奴が出来損ないのような化け物に変貌していた」
「……解った成分を調べよう、それくらいなら私にも可能だ」
「頼んだ、くれぐれもマリヤを巻き込むな、あいつを巻き込んだらそれこそ何がおきるか解らない」
「ああ」
レアは薬をもって奥の部屋へと閉じこもった。
それを見送ると、ブラッドはすぐさま基地へと瞬間移動した。
基地では、マリヤが研究の一段落がついたようで、自室のソファーに横になっていた。
「はぁ……もう少しブラッド様のお役に立ちたいなぁ……」
「十分役に立っているぞ」
「あびゃあ?!」
マリヤは突然のブラッドの出現の驚き、ソファーにさらに身を沈めて、腰をぬかしているようだった。
「貴様はいつも通りだな、それが心地いい」
ブラッドは邪悪に笑って、マリヤの頬を撫でる。
「貴様は貴様の研究をつづけろ、そして私に貢献しつづけろ、それでいい」
「は、はい。ブラッド様」
マリヤは腰をぬかし、ソファーに身を沈めたまま返事をした。
「貢献できなくともかまわん、貴様がいればそれで十分だ、いいな」
「え……あ、は、はい……」
ブラッドの言葉に驚いた表情をしてマリヤはそのまま動けずにいた。
ブラッドはそれを楽しげに見る。
「今後も私を楽しませろ、ドクター・マリヤ」
「――はい、ブラッド様」
ブラッドはその言葉に満足そうに笑うと、部屋から姿を消した。
部屋にはソファーに横になったまま動けないマリヤが残された――
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
DOLL GAME
琴葉悠
SF
時は新暦806年。
人類の住処が地球外へも広がり、火星、木星、金星……様々な惑星が地球人の新たな居住地となっていた。
人々は平和を享受していたが、やがてその平和も終わりをつげ新たな戦争の時代に入った。
「代理戦争」。自らが行うのではなく、他者に行わせる戦争だった。
そしてその戦争の中で、新たな兵器が生み出された。
「DOLL」。大型特殊兵器であった。
人間の姿をモデルに作られた「DOLL」は、今までの陸上兵器とも、水上兵器とも、飛行兵器とも違う、画期的な兵器だった。
戦争は「DOLL」を使った戦争へと変化した。
戦争が表面上終結しても、「DOLL」はその存在を求められ続けた。
戦争により表面化した組織による抗争、平和を享受してきた故に求めていた「争い」への興奮。戦いは幾度も繰り返される、何度も、尽きることなく。
人々は「DOLL」同士を戦わせ、それを見ることに熱中した。
その戦いは「DOLLGAME」と呼ばれ、大昔のコロシアムでの戦いを想像させる試合であった。勝敗は簡単、相手の「DOLL」を戦闘不能にすれば勝ち。
その「DOLL」を操縦するものは「人形師」と呼ばれ、人々の欲望の代理人として戦っていた。
「人形師」になる理由は人それぞれで、名誉、金、暇つぶし等が主だった。
その「人形師」の中で、自らの正体を隠す「人形師」がいた。
パイロットスーツに身を包み、顔を隠し、黙々と試合を行い、依頼をこなす。
そんな「人形師」を人々は皮肉にこう呼んだ。
「マリオネット」と。
鋼月の軌跡
チョコレ
SF
月が目覚め、地球が揺れる─廃機で挑む熱狂のロボットバトル!
未知の鉱物ルナリウムがもたらした月面開発とムーンギアバトル。廃棄された機体を修復した少年が、謎の少女ルナと出会い、世界を揺るがす戦いへと挑む近未来SFロボットアクション!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
発作ぐらい、ハンデと思ってね
ブレイブ
SF
生まれつき病弱な少女、壊七。彼女は病弱でありながら天才でもある、壊七はエージェント組織、ディザスターに所属しており、ある日、任務帰りに新人エージェントと出会ったが、その新人は独断行動をする問題児であった。壊七は司令官から問題児である新人エージェントの指導を任された
異能テスト 〜誰が為に異能は在る〜
吉宗
SF
クールで知的美人だが、無口で無愛想な国家公務員・牧野桐子は通称『異能係』の主任。
そんな彼女には、誰にも言えない秘密があり──
国家が『異能者』を管理しようとする世界で、それに抗う『異能者』たちの群像劇です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる