私とマリヤの世界征服録

琴葉悠

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マリヤと外出禁止日

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 レアが基地を訪れなかったその日、全世界に向けて警報が出された日となった。
「……」
 レアが訪れないことにそわそわしているマリヤをみて、ブラッドは不機嫌そうな顔をしたが、ぐっとこらえていつもの顔を張り付ける。
「どうした、ドクター・マリヤ。何かあったのか」
「あ……ブラッド様……レア先生が来ないんです、無事か不安になって……」
 レアの事を話題に出され、ブラッドは予想通りという顔をしてから、いつもの顔に戻る。
「ああ、彼奴なら大丈夫だろう、強いし」
「あの……たまにレア先生が強いという発言が出てきますが、一体どういう強さなんです? 何か能力をお持ちなんですか」
「ああ、そういえば言ってなかったな」
 ブラッドは思い出したような顔を張り付けて口を開く。
「レアは、彼奴が『生物と認識したものなら何でも殺せる』能力を持ってる」
 ブラッドの言葉に、マリヤは首を傾げた。
 ごく当たり前のような言葉に聞こえたのだろう。
「あの……どういう風に強いんですかそれは」
「『生物』を認識した時点で、どんな形でもいい。その対象触れば一瞬で殺せる」
 ブラッドが説明すると、マリヤの顔色がざっと変わった。
 少し青ざめているように見える。
「怖がるのも無理はないだろう、だから説明するタイミングを逃してたのだ。能力が能力だからな、勿論これは一部だが」
「え……」
 驚くマリヤに対して、ブラッドは説明を続ける。
「レアの能力は部分的にも応用が利く、たとえばガン患者にふれてガン細胞を全て殺して、それによってかけた部分を一瞬で修復されるとかな」
「じゃ、じゃあレア先生って……」
「そう、通常じゃ手術できない相手も手術できる最後の砦だ」
「だ、だったらなおさらレア先生――」
「だから待て」
 あわてて屋敷から出て行こうとするマリヤの腕をつかみ、そのままソファーに座らせるように引き留め、抱きしめると、ブラッドは息をついた。
「だから、何人も奴を殺せた事がない」
「あ……」
「殺そうと思っても、レアの『生物』確定範囲が広すぎてな、『生物』の攻撃が効かない、通らない、自爆覚悟で殺そうとした奴も、自爆損というオチがつくレベルだ。『生物』は彼奴を殺せない」
「そ、そんなレア先生がどうして悪の組織に?」
 ブラッドの説明を聞いて、何かを不審に思ったマリヤがブラッドを尋ねた。
「あ――彼奴と私はちょっと訳ありでな、彼奴は私がアホやらかさないかみてるというのが強い」
 ブラッドは少し考えてから答えた、少々訳ありのような感じで。
「ブラッド様がアホやらかすなんてあるんですか……」
「貴様はしらないだろうが、ブラッドクライム創設時してしばらくは相当彼奴にどつかれまくったのだぞ、未だにどつくし……いい加減にしてもらいたいものだ」
 疲れたようにため息をつくブラッドをみて、ようやくマリヤはくすくすと笑った。
「何がおかしい」
「ブラッド様とレア先生、本当に仲がいいなぁって……まるで恋人みたいです」
 最後に少し暗い声色でマリヤが話すのを見逃さなかったブラッドは、怒り顔を張り付ける。
「全然違うぞ!! あんな女が恋人だったら私の命いくつあってもたりんわ!!」
「え、ええ?! そ、そこまで否定しちゃうんですか……」
「当たり前だ!! 彼奴とそんな関係なんて一度もない!! あの鉄面皮の女は私の好みではない!!」
 すごい剣幕と否定にマリヤは驚き顔のまま何度も無意識に頷いた。
「で、ではブラッド様の好みの女性って……」
「ほほう、聞きたいか」
 ブラッドはがしっとマリヤの頭を鷲掴んで、これでもかと言うくらい邪悪な笑みを浮かべる。
 その笑みをみたマリヤはひっと短く悲鳴をあげて、首を横にぶんぶんと音がなるほど振った。
「それが賢明だ」
「は、はひ……あ、あのいつまでこの体勢なのでしょうか?」
 マリヤは抱きしめられながらソファーに座っている体勢を指さしながら尋ねた。
「あー……もう少しな」
「ええええ……」
 マリヤは、自由にならないまま総帥に抱きしめられているという状況に混乱しているようだった。
 ブラッドはその混乱している様をみながら、邪悪に笑う。
「貴様がそうしている様をみるのはとても愉快だ」
「ブラッド様が愉快でも、私には心臓に悪いですぅううう……」
 マリヤはげっそりしながら、ブラッドの腕の中で縮こまる。
 それをみながら楽しげに邪悪にブラッドが笑っていると、何かの気配を感じ取り、いつもの顔に戻った。
「ぶ、ブラッド様」
「……ダーシュだったか?」
「さすがに気づいたか」
 ブラッドがそう言うと、仮面の男ダーシュが姿を現し二人に近寄ってきた。
 ブラッドはマリヤを解放し、ダーシュの元に歩み寄る。
「これはこれは、別組織の幹部がわざわざこんな小さな組織に何のようかな?」
「小さな? わざとらしすぎるにもほどがあるが、今はその用事できたわけではない」
「では何のようだ?」
「あの医者に『ブラッドがおいたしすぎないか見に行け』と言われていてな、来ただけだ」
「レアの奴……!」
 ダーシュの言葉にブラッドは頭を抱えて唸った。
「あの女、本当に余計な事してくれる!」
「……」
 一人いらだつブラッドの後ろに隠れるよう、マリヤは近寄り、ダーシュをみてからぴゃっと隠れてしまった。
「マリヤ?」
「あ、あのブラッド様……私その、あの人苦手で……おそばによってもいいですか……?」
 マリヤがぼそぼそと小声でしゃべると、ブラッドは驚いた顔をしたが、すぐさま邪悪に笑った。
「ああ、構わんぞ」
「あ、ありがとうございます……」
 先ほどの会話がダーシュに届いていたのか、ダーシュは心なしか寂しげというか傷ついたような表情を浮かべた。
 それにマリヤが気づくことはなかった。
「私が何をしたというのだ……?」
 ダーシュはマリヤに聞こえないような、小さな声で嘆いた。
「知らん」
 ブラッドもマリヤには聞こえない小声で、返す。
 その返答を聞いたダーシュは、何か意味深にブラッドを見つめたが、言うのをためらうように首をふった。
「……何だ、いったい」
「気にするな」
 ダーシュはそういうと姿を消した。
「……ブラッド様、あの人もう帰っちゃったんですか?」
「あ――多分な」
「良かった……睨みつけてくるから怖くって……」
「……そうか」
 ブラッドは若干恋敵に同情しつつも、自分の優位性に酔いしれているのをひた隠すように邪悪に笑った。
「マリヤ、そういえば新作のゲームが対戦ゲームだと言っていたな。いいだろう、相手をしてやる」
「ほ、本当ですか! ありがとうございます!!」
 ブラッドの一言に先ほどまでの心配や不安が吹き飛んだかのように、マリヤは笑った。
 それをみて、ブラッドは若干心配になったが、表にだすことなく、ゲームの相手をすることにした。
 そしてその後、大人げなくムキになるブラッドの姿がみられることになったのは言うまでもない――




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