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マリヤと思い出話
しおりを挟む基地で、マリヤは今日も研究と実験に勤しんでいた。
そこに珍しくレアがやってきた。
「マリヤ、ちょっといいかな?」
「あ……はい、レア先生。少し待って下さい。もう少しで終わりますので!」
マリヤはそう言いながら、実験のレポートをまとめると、後かたづけを速やかに行い、レアの元にやってきた。
「何でしょうか?」
「この間のジョシュア氏の事だ、少しだけ聞きたくてね」
「は、はい」
少し真面目な表情で言うレアに、マリヤは少し驚いた表情をしてから頷いた。
「先生は、何というか変人としか言えないです……天才なのですが」
「それは私も解る、天才と変人は紙一重というのをよく理解したよ」
「あはは」
苦笑するマリヤを見て、レアは続けて問いかける。
「話を聞く限りでは、最後まで残ってたのはマリヤだけだったというがそれはどういう意味だい?」
「ああ……そのままです、先生の講義受けても、色々先生が幅広くなのに深く教えるもんだからついていけない生徒が続出する講義なので最終的に残って先生の授業受けてたの、私が卒業するまでは私一人だったんですよ、先生は必須科目教えてないですが……」
「なるほど」
マリヤの言葉にレアは理解できたという風に頷く。
「それで愛弟子か」
「愛弟子というほどでもないですよ、元生徒なだけです……先生も絞って教えればいいのに、色々とあれこれ教えてそれでもって全部レポートにしなきゃいけないからみんな投げ出すんですよ、本当苦労しました」
「ほぉ」
マリヤが思い出して疲れたように言うと、レアは感嘆の声をあげる。
「天才でもあり、問題児の教授でもあったというわけか」
「ええ、本当です……」
マリヤが疲れたように息を吐くのを見て、レアはくすりと笑った。
「なら、愛弟子だな。そんな問題児の教授に最後までつき合えたのだから」
「言わないで下さいよー……最初これもあって就職決まらなくてダメージでかかったし、今もあるんですから」
マリヤが非常に暗い表情で言うと、レアはしまったという顔になり、マリヤに頭を下げて謝罪する。
「それはすまなかった」
「あわわ……そ、そんな、なんかこっちこそすみません!」
マリヤがそう言うと、レアはまた笑ってからマリヤの頭を撫でる。
「こんなにかわいい愛弟子がいるのはうらやましいことだ」
「かわいいだなんてそんな……」
「そこは自分を否定しない方がいい、それに可愛さや綺麗さはいつだって側にあるからな」
レアがそういうと、マリヤはじっとレアの容姿を眺めた。
何かうらやましそうに眺めていた。
「どうした?」
「レア先生、美人でいいなぁ……って」
「……ふふ、それはありがたい」
レアはいつもにまして穏やかな表情で微笑み、マリヤを撫でる。
「あの、レア先生」
「なんだ?」
「レア先生は先生とお知り合いだったりするんですか?」
「いや、初対面だ、あの時がな」
マリヤの問いかけに、レアは即座に否定した。
「え、だってレア先生のこと知ってる感じでしたよ?」
「まぁ、私にも色々あってな」
「はぁ……」
珍しく渋い表情をするレアに、マリヤはそれ以上は尋ねなかった。
「……あ、そうだ。そろそろフミちゃんの相手しないと……」
「ああ、行ってやれ」
マリヤはレアの言葉にうなづき、レアと一緒に部屋をでると、そのまま屋敷の方へと向かっていった。
「……だ、そうだぞ、ブラッド」
「やれやれ、面倒な爺を師に持ったものだな」
その言葉と共に、ブラッドが姿を現した。
「あの爺、私の正体にも気づいているようだったぞ、言ってはいなかったがな」
「本当に、面倒なじいさんだな」
レアがため息をついて、壁に背中を預ける。
「ところで、あのじいさんが計画に参加してた覚えはあるか?」
「無いな。第一、あの爺が参加してたらああならなかっただろうに」
「だろうな」
レアはそう言ってメスを一本取り出した。
「665体、私が殺した獣<ビースト>の数だ」
「随分殺したな」
「私の患者に手を出した罰だ、あれがなかったら私はあの計画を木っ端みじんにしようとすらしなかっただろう」
「患者至上主義か、立派なことだ」
「だが自分を削ってまではしてはいないつもりだ、プライベートで患者とつきあいがあるのはマリヤくらいだしな」
「なるほど」
ブラッドは杖を手でもてあそびながらレアの言葉に耳を傾ける。
「ブラッド」
「何だ」
「お前は、目覚めてよかったと思っているのか?」
「……まぁ、半々だな、よかったと思っているならこんなことしてないだろうしな」
「そうだろうな、そして残りの半分はマリヤか」
「当然だ、アレは私のものだ。私が見つけ、今大事に育てているのだからな!」
誇らしげに言うブラッドに、レアは呆れのため息をついた。
「貴様は昔話の男か、気に入った女を側において育てて妻にしようとか考えるなんて」
「それと一緒にするな」
「ほぼ一緒だろうが」
呆れたような顔をするレアに、ブラッドは不機嫌を隠さず反論する。
「アレは自分の初恋の女とそっくりだったからだろうが、私は違うぞ!」
「それ以外は否定しないんだな」
呆れたような顔のまま、レアはため息をついた。
「ぐむむ……貴様と話していると本当にしゃくに障る!」
ブラッドはそういうと、屋敷の方へと足を向ける。
「またマリヤをからかうのか」
「からかってなどいない!」
「……アプローチなら、もう少しマシなものにしろよ……」
レアの呟きをブラッドは聞かないフリをしてそのまま屋敷に向かった。
屋敷内では、マリヤがフミとじゃれて遊んでいた。
「フミちゃんー、よしよしいいこいいこ」
マリヤがフミを撫でると、フミは満足そうにふみゃーと鳴いてごろごろと喉を鳴らした。
「よしよし、いいこいいこ」
「相変わらず猫には甘いな」
「ふぎゃあ?!」
背後からすっと現れ、ブラッドが声をかけるとマリヤはいつも通りの奇声をあげてソファーにぼふんと倒れ込んだ。
その様を見て、ブラッドは喉の奥で笑い、マリヤの頭を軽く叩く。
「貴様はいつ見ても同じだがあきんなぁ」
「だ、だから脅かさないで下さいよぉ!」
「いや悪いな。貴様を見てるとつい」
「うううー……」
マリヤがフミをなでながら半泣きでにらみつけてくると、ブラッドはさらに楽しそうに邪悪に笑った。
「いやはや、悪い悪い」
「悪いと思ってないですよねー?!」
マリヤの言葉に、ブラッドはさらにくつくつと笑った。
「さてな。それにしてもちゃんと休憩しているようだ、無理はするなよ」
ブラッドがそういうと、マリヤは目を丸くして頷いた。
「無理は禁物だからな」
「は、はい……ブラッド様」
普段のおそるおそる怯えたような表情のマリヤを見て、ブラッドは少しだけ不機嫌な表情を張り付けると、むにっと彼女の頬をつまんだ。
「全く、貴様はやっぱりどこかおっかなびっくりだな。まぁ病気だから仕方ないのだが」
「は、はぁ……」
「だからこそ、無理はするなよ」
ブラッドの言葉にマリヤはこくりと再度頷いた。
それを見たブラッドは満足そうに笑って、その場所から姿を消した。
後には、そこから動けずにいるマリヤと、気にしていないフミだけが残された――
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