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これからも共に歩いて行く~この空の下で~
しおりを挟む日本に帰ってくると、明里はクォートと共に自宅に戻った。
「ふー結婚式なんとかなったね! でも、これで本当に諦めてくれるのかなぁ?」
「大丈夫ですよ明里、諦めてますよ」
「本当?」
「明里、気づいてなかったみたいでしたけど、誓いのキスの時にアルフレート来てましたよ」
「嘘⁈」
明里は驚愕の声を上げる。
「ええ、私と明里の誓いのキスを見て崩れ落ちてましたけど」
「そ、それからどうなったの」
「父上と葛葉さんに引きずられて城から追い出された」
「ど、どうしてこれたのかな?」
「そこを葛葉さんが調べると言ってたから待とう」
「う、うん」
「明里」
不安になっている明里にクォートは声をかけた。
「もう大丈夫だから」
「……うん」
まだ不安そうな明里の額にキスをし頬を撫でる。
「大丈夫、私たちみんなで守るから」
「……有り難うございます」
明里は漸く笑顔になった。
「貴様らの所為か!」
「申し訳ございません‼」
メリアは怒る葛葉に土下座でひたすら謝っていた。
床にはぼろぼろのエドワードが転がっている。
クリスは顔を引きつらせている。
「貴様らの所為で明里の結婚式が危うく台無しになりかけたんだぞ!」
「本当に申し訳ございません!」
「しかもそこの転がってる屑が情報漏らしたのが気に食わん!」
「あたり……まえ……だ! おれの……いもうとは……アルフレートに……吸血鬼に……されたのに……だれも……たすけず……殺されたんだ……!」
「だから同じ目に遭わせると? ふざけるな! そんな考えを持っているならハンター等辞めてしまえ‼」
「で、でも最終的には上手くいったんでしょう? だったら──」
「最終的にだこのくそぼけ共! アルフレートは私がボコった時以上の精神ダメージを受けて引きこもりになった! これで万々歳だが、奴が生きているうちは安心できん! 責任を持って貴様等教会がアルフレートを始末してこい!」
「ええええ⁈」
クリスが悲鳴を上げる。
「そ、そんな無茶ですよぉ!」
「無茶もヘチマもあるか! それが終わるまで私は貴様等に協力などせんからな! 他の善良な吸血鬼達にも通達済みだ!」
「そ、そんなぁ~~‼」
葛葉は怒りをあらわにしながら教会の支部を後にした。
それから数年後──
「明里、医者になったんだな、おめでとう」
「先生達のおかげです!」
明里は葛葉の前でにこりと笑った。
「旦那とはどうしてる?」
「幸せです、私の事を気遣ってくれて」
「クォートも、お前が気遣ってくれるからと言っていたな、いい夫婦になったな」
「はい」
「さて、本題に入ろう」
「何でしょうか」
「アルフレートが死んだ」
「え」
葛葉の言葉に明里は目を見開く。
「彼奴はやり過ぎたんだ、だから狩られた」
「ハンターとかに、ですか?」
「ああ、そうだ」
「……」
「明里、あまり元気がないな」
「改心して、二度と私のような人をださないで居てくれたら良かったんですが……」
「無理な話だ、奴は何度も同じようなことを繰り返している、その度に駄目になるがな」
「……改心できない方って、改心できないんですね」
「そうだ」
「……気になるのはどうして花嫁にこだわったのかです」
「それは知らん、奴が死ぬまで持って行った秘密だ」
「……」
「と、言うことで奴の脅威は完全に無くなったし、お前はより自由だ」
「お医者さんだから人のまねしなきゃならないのがちょっと大変ですね」
「医者の知り合いがいるからそいつに相談するといい」
「有り難うございます」
「いいや、気にするな。お前はいつまで経っても私の可愛い生徒なのだからな」
「はい!」
明里はにこりと笑い、葛葉は微笑んだ。
「アルフレートが死んだ? 本当なのかい?」
明里はクォートに葛葉からの情報を共有した。
「うん、葛葉先生が言ってた」
「そうか、死んだか……もう犠牲者は出ることはないな」
「うん」
「明里」
「はい」
「君を決して離さない」
「私も……」
そう言って、二人は抱き合いキスをした。
「漸くアルフレートを殺せたか」
教会の支部に葛葉は訪れた。
空気は重苦しいものだった。
「はい……でも多数の負傷者に……エドワードが死にました」
メリアが沈痛な面持ちで言う。
「エドワード、なんで……」
「あの阿呆は死に場所を欲しがっていた、だからアルフレートを殺せと言われてそこを死に場所に選んだんだろう」
「だからって……」
「言い出したのは私だが、死に場所を決めたのは奴だ」
「……」
「アルフレートの最後はどうだった?」
「『何故誰も花嫁になってくれない、何故、何故──!』でした……」
「そこまで花嫁に固執するなら、もっとまっとうな恋愛をするべきだったな」
葛葉はそう言って支部を後にした。
「葛葉先生」
「明里か、どうした」
「私も居ます」
「クォートも、どうした」
突如葛葉の家を訪れた二人に葛葉は困惑した。
「私の家の玄関をひっかくような音がするので裏口から出てきたんです……」
「私だけじゃ心配なので、葛葉さんもお願いできますか?」
「わかった」
葛葉はクォートと明里と共に明里の家へと向かう。
クォートに明里の護衛をさせて、葛葉は玄関を見る。
目を見開く。
『あかり……あかり……わたしのはなよめ……はなよめ……なぜなぜ……』
「完全にくたばりきれていなかったか」
葛葉は黒い影の心臓部を貫く。
すると影は消えていった。
「葛葉先生、いまの、は」
「アルフレートの残滓だ、花嫁にしようとしたのがお前で最後だったから来たのだろう」
「……もう大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。だが何かあったらすぐ連絡しろ?」
「はい!」
「はい」
明里はその日夢を見た。
花嫁のドレスをつかみ泣くアルフレートの姿を。
『私の花嫁がいなくなった……私のどこがいけないのだ……』
明里は目を覚ます。
体を起こして呟いた。
「貴方の自分が正しい、そう思う心が花嫁がいなくなった原因なのでは?」
「自分の間違いを認められなくなったら人として苦労するから──」
明里の答えに、返事をするものは、誰もいない。
ただクォートの寝息だけが帰ってきた。
「そんな夢を見たのか」
「はい」
明里は葛葉の家を訪ねて、夢の話をした。
「……おそらく人間だった頃のアルフレートだろうなそれは」
「花嫁に逃げられてしまったのですかね?」
「おそらくそうだろうな」
「……」
「どうしてそんな夢を……」
「お前はアルフレートの血族で一番若いからな、おそらくそれで見たんだろう」
「先生は?」
「見てない」
「……アルフレートは自分が正しいと思っていたと思います」
「その通りだ、奴はいつだって自分が正しいと思っていた」
「その自分が正しいと思うことは間違いを認められないことだから、花嫁は去っていったのだと思います」
「なるほど……そうかもしれないな」
葛葉はふぅと息を吐いて呟いた。
「哀れな男だ」
「……」
「だからといってやってきたことは許さないがな」
「はい」
「明里、これから先、お前は多くの困難に直面する。だが、私たちがいることを忘れるな」
「はい、先生」
──私はもう一人じゃない──
──先生や、クォートさんやみんながいる──
葛葉の家から出ると、明里は空を見上げて呟いた。
「ああ、今日もいい天気」
それは雲一つない満月の空だった──
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