18 / 21
支配から脱出した結果~今までにない幸せな時~
しおりを挟む車は教会が隠蔽工作で会社としての場所に着くと、中に二人をクリスは案内した。
「まっていたよー明里ちゃん! あのアルフレートの支配から脱出できたんだって⁈」
「は、はい」
「あのアルフレートの支配から脱出できた吸血鬼はネメシスと貴方だけだよ! すごーい!」
「あの、ネメシスってもしかして……」
「葛葉さんの事だ。彼女も元々アルフレートの被害者だ」
「被害者……」
「だが、彼女は被害が出ると即座にアルフレートの元に行ってアルフレートの事をボコボコにした上で血を吸い返して独立した吸血鬼になっている」
「そう、だったんだ……」
初めて葛葉の過去を明里は知った。
「彼女は独立した吸血鬼になった後アルフレートを何度もボコボコにしたそうだよ、でそれに嫌気がさしたアルフレートが逃げて行方不明になってたのが今回見つかって──」
「……私が吸血鬼にされた」
「そうですね、で、一体どうやって独立した吸血鬼に?」
明里は実際行った作戦を教えた。
「え? それで激昂して対処しているうちに血を吸ったんですか⁈ マジ⁈」
「マジ、です」
「その通りだ、その結果彼女は独立した吸血鬼になった」
クォートも言う。
メリアは驚いた表情でPCに情報を打ち込んでいた。
「アルフレートは今何を」
「ヴァンピールを作っている組織を八つ当たりで壊滅している最中だ、詳しいことは葛葉に聞いてくれ」
「わ、分かりました」
「他には?」
「あー……今は特に……いや、ありましたわ。ヴァンピールってどうやって作られるんですか? 聞いた話だと人間と吸血鬼が結婚して子どもができても吸血鬼だと……」
「少し違いがあります、そこに『愛』が無ければヴァンピールになってしまいます」
「え」
「ヴァンピールは人間の卵子に吸血鬼の精子を受精させたものからうまれます、人工的に作られるのがヴァンピールと言って良いでしょう」
「えーとつまり」
「人間が男吸血鬼を捕縛して、精子を搾り取りそれを人間の女性の卵子に受精させているんです」
生々しい話に明里の表情がこわばる。
「二人の間に愛情が無ければ人間と吸血鬼の間に生まれるのがヴァンピール、でいいですよ、明里」
クォートがまとめて言う。
「だから人間と結婚して吸血鬼が生まれるとかなり祝われるんですよ、本当に愛情は本物だったと。私がその例でしたから」
「そっか、クォートさんのお母さんは人間って言ってましたもんね」
「ええ、優しい母でした、もう亡くなりましたが」
「……」
明里は寿命の問題かと少し切なくなった。
「このワラキア氏のご子息であるクォートさんと明里さんは結婚前提のお付き合いなのですよね」
「はい」
「ええ」
クォートが明里の手を握る。
「うーん、ちょっとまずい事態が起きる可能性があるんですよ」
「何がです?」
「アルフレートです、まだ明里さんを諦めてないというか……」
「うえ」
思わず明里は声を出した。
まだ諦めてないなんて困りものすぎるのだ。
「大丈夫だ、明里。私や葛葉がいる」
「有り難うクォートさん」
「それに父上も居る、私たちの関係が落ち着くまで当分この地に滞在する予定だ」
「え⁈ ワラキア氏も滞在⁈ ほ、本部に連絡しないと!」
バタバタと慌てふためくメリアを見て、明里は他人事のように大変そうだなと思った。
「この地は吸血鬼が集う場所があるから屋敷がある、父はそこに滞在するつもりだ」
「また、幽霊屋敷に行かされる事態にならないといいけど……他の人が」
「ああ、そうか。明里はそれが原因でアルフレートに目をつけられて吸血鬼にされたのだったね……」
「ええ」
明里はあの日の事を思い出した。
いじめをしてくる連中に、アクセサリーを落としてきたから拾ってこいと幽霊屋敷ことアルフレートの屋敷に行かされて吸血鬼にされたのだ。
いじめをしてきた連中の大半はアルフレートに殺され、そして両親も殺された。
そして、明里はいじめっこの一人の血をアルフレートに操られていたとは言え吸って殺したのだ。
「う……」
明里は気分が悪くなった。
自分の所為で大勢が死んだ、自分が人を殺したという事実が重くのしかかる。
「明里」
「クォートさん……」
「君がされたこと、してしまった事、全てエレ──葛葉さんから聞いている。だから一人で抱えこまないでくれ」
「クォートさん……有り難うございます……」
「ごめん、話が途中だったね!」
メリアが戻ってきた。
「で、他に聞きたいことは?」
「特にないので、家に早く帰りたいです」
「分かったわ、エドワード、クリス、送って差し上げて」
「分かったよ」
「チッ」
クリスはにこやかに笑っていたが、エドワードは不服そうだった。
車に乗せられ、家に着く。
「何かあったら僕らにも相談してよね」
「は、はい」
「死にたくなったらいつでもいえ、殺してやる」
「い、嫌ですよぉ、死にたくないです!」
エドワードの言葉に明里はそう返す。
エドワードは仏頂面のまま前を向いた。
「じゃあね、お二人さん」
「はい」
「……」
エドワードがいなくなるとクォートは盛大に息を吐いた。
「クォート?」
「あのエドワード、こちらを殺す気満々だったから気が気でなかった」
「うへぇ」
「さぁ、家に入ろう明里」
「うん」
明里達は家に入った。
「吸血鬼用の入浴剤と、吸血鬼用の『お湯』を出すシャワーヘッドを葛葉さんが置いていってくれたようだ、付け替えるのと、お風呂で使おう」
「うん、そうだね。じゃあ付け替えてくるから貸して」
「分かった、気をつけて」
明里は頷きシャワーヘッドを交換し、そして早速お湯を張り、お風呂に吸血鬼用の入浴剤を入れた。
入れると赤く染まり、花の香りがした。
「いい香り」
クォートのいるリビングに戻ると明里はクォートに声をかける。
「先に入る?」
「いいや、家主の君からどうぞ」
「そう? じゃあそうするね」
「ああ」
明里は着替えを持ってきて、髪を洗い、お風呂につかり、そして上がった。
体はかなり楽になっていた。
「クォートお風呂どうぞ」
「では……」
クォートも風呂へと着替えを持って向かっていく。
しばらくするとさっぱりとした表情で出てきた。
「やはりエレ……葛葉さんには感謝だ、今の吸血鬼が風呂を楽しめるのは葛葉さんの力があってこそだからね」
「え、そうなんですか?」
「そうだよ、術式やら、成分配合やら全て編み出したんだ。本人曰く『風呂に入れんのは嫌だ』の一言でね」
「先生らしい」
明里はくすりと笑った。
「じゃあそろそろ寝ましょうか」
「明里宿題は?」
「もう終わりました」
「そうか、お休み」
「はい、おやすみなさい」
二人は手を握り合ってから、手を離しそれぞれの寝床へと向かった。
明里は自室に戻り、薬を飲んで眠りに落ちた。
──ああ、なんて、幸せなんだろう──
初めて、強く感じる幸せに不安を覚えながらも、それを抱くようにして眠っていった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
魔法少女になれたなら【完結済み】
M・A・J・O
ファンタジー
【第5回カクヨムWeb小説コンテスト、中間選考突破!】
【第2回ファミ通文庫大賞、中間選考突破!】
【第9回ネット小説大賞、一次選考突破!】
とある普通の女子小学生――“椎名結衣”はある日一冊の本と出会う。
そこから少女の生活は一変する。
なんとその本は魔法のステッキで?
魔法のステッキにより、強引に魔法少女にされてしまった結衣。
異能力の戦いに戸惑いながらも、何とか着実に勝利を重ねて行く。
これは人間の願いの物語。
愉快痛快なステッキに振り回される憐れな少女の“願い”やいかに――
謎に包まれた魔法少女劇が今――始まる。
・表紙絵はTwitterのフォロワー様より。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる