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支配から脱出した結果~今までにない幸せな時~
しおりを挟む車は教会が隠蔽工作で会社としての場所に着くと、中に二人をクリスは案内した。
「まっていたよー明里ちゃん! あのアルフレートの支配から脱出できたんだって⁈」
「は、はい」
「あのアルフレートの支配から脱出できた吸血鬼はネメシスと貴方だけだよ! すごーい!」
「あの、ネメシスってもしかして……」
「葛葉さんの事だ。彼女も元々アルフレートの被害者だ」
「被害者……」
「だが、彼女は被害が出ると即座にアルフレートの元に行ってアルフレートの事をボコボコにした上で血を吸い返して独立した吸血鬼になっている」
「そう、だったんだ……」
初めて葛葉の過去を明里は知った。
「彼女は独立した吸血鬼になった後アルフレートを何度もボコボコにしたそうだよ、でそれに嫌気がさしたアルフレートが逃げて行方不明になってたのが今回見つかって──」
「……私が吸血鬼にされた」
「そうですね、で、一体どうやって独立した吸血鬼に?」
明里は実際行った作戦を教えた。
「え? それで激昂して対処しているうちに血を吸ったんですか⁈ マジ⁈」
「マジ、です」
「その通りだ、その結果彼女は独立した吸血鬼になった」
クォートも言う。
メリアは驚いた表情でPCに情報を打ち込んでいた。
「アルフレートは今何を」
「ヴァンピールを作っている組織を八つ当たりで壊滅している最中だ、詳しいことは葛葉に聞いてくれ」
「わ、分かりました」
「他には?」
「あー……今は特に……いや、ありましたわ。ヴァンピールってどうやって作られるんですか? 聞いた話だと人間と吸血鬼が結婚して子どもができても吸血鬼だと……」
「少し違いがあります、そこに『愛』が無ければヴァンピールになってしまいます」
「え」
「ヴァンピールは人間の卵子に吸血鬼の精子を受精させたものからうまれます、人工的に作られるのがヴァンピールと言って良いでしょう」
「えーとつまり」
「人間が男吸血鬼を捕縛して、精子を搾り取りそれを人間の女性の卵子に受精させているんです」
生々しい話に明里の表情がこわばる。
「二人の間に愛情が無ければ人間と吸血鬼の間に生まれるのがヴァンピール、でいいですよ、明里」
クォートがまとめて言う。
「だから人間と結婚して吸血鬼が生まれるとかなり祝われるんですよ、本当に愛情は本物だったと。私がその例でしたから」
「そっか、クォートさんのお母さんは人間って言ってましたもんね」
「ええ、優しい母でした、もう亡くなりましたが」
「……」
明里は寿命の問題かと少し切なくなった。
「このワラキア氏のご子息であるクォートさんと明里さんは結婚前提のお付き合いなのですよね」
「はい」
「ええ」
クォートが明里の手を握る。
「うーん、ちょっとまずい事態が起きる可能性があるんですよ」
「何がです?」
「アルフレートです、まだ明里さんを諦めてないというか……」
「うえ」
思わず明里は声を出した。
まだ諦めてないなんて困りものすぎるのだ。
「大丈夫だ、明里。私や葛葉がいる」
「有り難うクォートさん」
「それに父上も居る、私たちの関係が落ち着くまで当分この地に滞在する予定だ」
「え⁈ ワラキア氏も滞在⁈ ほ、本部に連絡しないと!」
バタバタと慌てふためくメリアを見て、明里は他人事のように大変そうだなと思った。
「この地は吸血鬼が集う場所があるから屋敷がある、父はそこに滞在するつもりだ」
「また、幽霊屋敷に行かされる事態にならないといいけど……他の人が」
「ああ、そうか。明里はそれが原因でアルフレートに目をつけられて吸血鬼にされたのだったね……」
「ええ」
明里はあの日の事を思い出した。
いじめをしてくる連中に、アクセサリーを落としてきたから拾ってこいと幽霊屋敷ことアルフレートの屋敷に行かされて吸血鬼にされたのだ。
いじめをしてきた連中の大半はアルフレートに殺され、そして両親も殺された。
そして、明里はいじめっこの一人の血をアルフレートに操られていたとは言え吸って殺したのだ。
「う……」
明里は気分が悪くなった。
自分の所為で大勢が死んだ、自分が人を殺したという事実が重くのしかかる。
「明里」
「クォートさん……」
「君がされたこと、してしまった事、全てエレ──葛葉さんから聞いている。だから一人で抱えこまないでくれ」
「クォートさん……有り難うございます……」
「ごめん、話が途中だったね!」
メリアが戻ってきた。
「で、他に聞きたいことは?」
「特にないので、家に早く帰りたいです」
「分かったわ、エドワード、クリス、送って差し上げて」
「分かったよ」
「チッ」
クリスはにこやかに笑っていたが、エドワードは不服そうだった。
車に乗せられ、家に着く。
「何かあったら僕らにも相談してよね」
「は、はい」
「死にたくなったらいつでもいえ、殺してやる」
「い、嫌ですよぉ、死にたくないです!」
エドワードの言葉に明里はそう返す。
エドワードは仏頂面のまま前を向いた。
「じゃあね、お二人さん」
「はい」
「……」
エドワードがいなくなるとクォートは盛大に息を吐いた。
「クォート?」
「あのエドワード、こちらを殺す気満々だったから気が気でなかった」
「うへぇ」
「さぁ、家に入ろう明里」
「うん」
明里達は家に入った。
「吸血鬼用の入浴剤と、吸血鬼用の『お湯』を出すシャワーヘッドを葛葉さんが置いていってくれたようだ、付け替えるのと、お風呂で使おう」
「うん、そうだね。じゃあ付け替えてくるから貸して」
「分かった、気をつけて」
明里は頷きシャワーヘッドを交換し、そして早速お湯を張り、お風呂に吸血鬼用の入浴剤を入れた。
入れると赤く染まり、花の香りがした。
「いい香り」
クォートのいるリビングに戻ると明里はクォートに声をかける。
「先に入る?」
「いいや、家主の君からどうぞ」
「そう? じゃあそうするね」
「ああ」
明里は着替えを持ってきて、髪を洗い、お風呂につかり、そして上がった。
体はかなり楽になっていた。
「クォートお風呂どうぞ」
「では……」
クォートも風呂へと着替えを持って向かっていく。
しばらくするとさっぱりとした表情で出てきた。
「やはりエレ……葛葉さんには感謝だ、今の吸血鬼が風呂を楽しめるのは葛葉さんの力があってこそだからね」
「え、そうなんですか?」
「そうだよ、術式やら、成分配合やら全て編み出したんだ。本人曰く『風呂に入れんのは嫌だ』の一言でね」
「先生らしい」
明里はくすりと笑った。
「じゃあそろそろ寝ましょうか」
「明里宿題は?」
「もう終わりました」
「そうか、お休み」
「はい、おやすみなさい」
二人は手を握り合ってから、手を離しそれぞれの寝床へと向かった。
明里は自室に戻り、薬を飲んで眠りに落ちた。
──ああ、なんて、幸せなんだろう──
初めて、強く感じる幸せに不安を覚えながらも、それを抱くようにして眠っていった。
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