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吸血鬼~一線越える~

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 両親の死を知った翌日、明里は両親とは仲はよくないが、自分と仲が良かった祖父母達になんとか連絡し、その旨を伝えると、双方からすべてこちらで任せなさいという連絡をもらい、安堵の息を吐く。
 そして、曇天の中、あの男と出会った館へと足を運ぶ。
 館にはいると、相変わらず静まりかえっており、明里はおそるおそる中に入る。
 そして、奥のホールにたどり着くと、ホールに明かりがついた。
 明里は、思わずホールの舞台に視線をやると、昨日あった男がいた。
「……!!」
「ごきげんよう、明里。よく来たね」
 男は前回と変わらず笑みを浮かべたまま、明里に会釈する。
 明里は恐怖心と何か得体の知れない感情を押し殺しながら、口を開いた。
「私を……いじめてた人と、両親を殺したのは貴方、ですか」
「覚えていたのだね、やはり君を選んだのは正解だった」
「っ……正解ってなんですか!!」
 明里が声を精一杯だすと、男は首をたたく仕草をした。
 まるで自分の首を確かめろと言わんばかりの仕草だった。
 明里は首すじに手をあてると、昨日はなかった、否先ほどまでなかった二つの穴の感触に顔色を変える。
「さっきまで、何もなかったのに……!!」
 明里が戸惑いの声をあげると、男は楽しそうな顔のまま明里を見る。
「日の光は、つらかったろう?」
 男の言葉を思い返し、明里は自分の体に起きた変化を思い出す。

 日の光が当たる場所は、つらくて体が痛かった。

――吸血鬼――

 明里の顔色がさらに悪くなる、あのときの光景を思い出す。
 明里は、この男に血を吸われたのだ。
 首筋の二つの穴が牙が食い込み、血を吸った証拠。
「どうして……なんで……」
「今までは血も吸わずに引き裂き殺してきたが、君はここにきたのは自発的ではなかった、そして現在の不条理さに嘆いていた。それが理由かな?」
「だからってお父さんやお母さんまで殺さなくても……」
「覚えてないからしかたないが、アレは君が求めた結果だよ」
 男のその言葉に、両親が死ぬ前の光景がフラッシュバックする。
 両親をいるか、いらないかと男に問われ、明里は――いらないと答えた光景が目に、耳に入ってくる。
 思わず吐き気がこみ上げる。
 明里はその場にしゃがみこみ、その場に座り込み吐き気を催す。
 吐き出すものはなく、口端から唾液がこぼれるだけだったが。
「食べ物を見ても食欲がわかなかっただろう?」
 男の言うとおり、明里は昨日から何も食べていない。食べる気にすらならず、水だけしか飲んでいない。
 耐えきれず、扉を開けて逃げようとしたが、扉は堅く閉ざされ開かなかった。
「せっかく血族が生まれたのだ、お祝いしようではないか」
 そう言うと、目の前に縛られたいじめっこの1人が出された。
「おい、明里!! この縄ほどけよ、殺すぞ!!」
「君の記憶から取り出させて貰って捕まえた奴だ、君が血族である証拠を見せてみせたまえ」
 男のその言葉を聞いたとたん、喉がひどく乾く感覚に明里はおそわれた。
 明里は喉を押さえ、その場に再びうずくまる。
 口を押さえると、鋭くなった犬歯が、自分の皮膚をたやすく突き破る。
 血がじんわりとにじむ、それはひどく蠱惑的なものに見えた。
 自分の血をなめると、ひどく甘く、美味なものに感じられた。
 明里はぎゃんぎゃんと騒ぐ首謀者の仲間をみる。
 怖いはずの存在が、ただの食べ物にしか見えなかった。
「……」
「お、おい、ふざけるなよ、おい!!」


 食べ物、うるさい。


 明里は、その男子の口をふさいで、首に牙をたてた。
 血がこぼれ、甘い味が口いっぱい広がる。


 おいしい、もっと欲しい。


 明里は、男子の血を飲み干していく。
 男子は、どんどん力をなくし、口から小さなあえぎ声を上げながら、絶命した。
 明里は口を手でぬぐった。
「……」
 しばらくぼーっとしてから、明里は我に返り、口を押さえる。
 吐き気はしなかった、むしろ血色は先ほどよりよい位だ。
 男は楽しそうな笑みのまま、明里に近づく。
「上出来ではないか!」
 男は男子の死骸を消滅させると、明里を抱き寄せる。
「ひっ」
 我に返った明里は小さな悲鳴を上げる。
 男は楽しそうな笑みを浮かべたまま、明里の顔を掴む。
「獲物は次からは自分でとれるよう頑張りたまえ」
 男が指をならすと、次の瞬間意識が暗転する。


 目をさますと自分の部屋にいた。
 あわててかがみをみると、やや鋭くなった犬歯が確認できた。
 あれが夢ではないことを悟ると、がっくりとうなだれる。
「血を吸って殺しちゃったんだ……」
 誰にも聞こえない声で呟くと、起きあがる。
 ひどく陰鬱な顔だった、警察に行っても信じてもらえないだろうという気持ちになり、わき上がる罪悪感を抱え込みながらチャイムの音を聞く。
 明里はあわててうがいをし、そして玄関に行く。
 玄関に行くと、両親の祖父母がおり、抱きしめられる。
 思わず喉がなるが、ぐっとこらえて抱きしめ返し、家に招き入れる。
 両親が亡くなった旨を伝えると、祖父母は死体を確認した旨を伝え、一緒に暮らさないかと申し出られた。
 しかし、明里はそれを受け入れることはできなかった。
 なぜなら、明里は吸血鬼になった自分が、大事な祖父母と一緒に暮らすと、彼らに危険が及ぶことをおそれた。
 仲が悪かったが、両親と一緒に暮らしたこの家を離れるのはちょっと無理だという旨を伝えて、なんとか1人で暮らす方向に持って行った。
 祖父母が帰ると、明里はほっとため息をつき、そして自分の手を噛む。
「吸っちゃだめ……これ以上化け物になったらダメ……!!」
 そう言って自分を制して、ベッドへと戻っていった。
 わずかな喉の乾きを押さえながら、明里は自分が元に戻る方法を探し始めた。


 次の日、日傘をさしつつ館へと向かう。
 喉の乾きがひどく、気分が悪くなるのをぐっとこらえて人混みを避けるように進んだ。
 人混みを避けるのと日の光に体をさいなまれぐったりしながら館に入ると、明かりがついていた。
 明かりに違和感を感じながら、館にふらつきながら入ると倒れ込んで動けなくなる。
「だめ、だ……」
 のどの渇きを強く感じながら意識を失う直前、なぜか学校の保険医が自分に駆け寄る姿を視認した。


 明里が目を覚ますと館のホール内だった、そして自分の顔をのぞき込む学校の保険医の姿に驚いて飛び起きる。
「外崎さん、無理に動かないで」
「あ、葛葉くずのは先生?! な、何でこの洋館に?!」
 保険医――葛葉は深いため息をついて明里の口を引っ張る。
 鋭い犬歯――牙がむき出しになる。
「……あのバカ、私のところの子吸血鬼にしたな……」
「え?」
 明里が驚いた表情をすると、葛葉は自身の唇をひっぱり、鋭い牙を見せた。
 目も、普段と違い真っ赤に染まっている。
「え゛?」
「私も吸血鬼だよ」
「えぇええ?!?!」
 明里がすっとんきょうな声を上げると、葛葉は鞄から血液パックを取り出した。
「これを飲みなさい、血飲んでないんでしょう」
「は、はい……」
 明里は血液パックを受け取ると、葛葉のまねをしながら血液を口にする、最初に飲んだ時のような甘さはないが喉の乾きが癒されるのを感じた。
「先生が吸血鬼だったなんて……」
「正直墓場までもっていく秘密だったんだけども、あのアホが新しい血族つくったと社交場でぬかしてて調べるつもりでここに来たんだが……まさかうちの学生を吸血鬼にするとは何考えてるんだあの阿呆」
 葛葉は額を押さえながら、明里を見る。
 明里は申し訳なさそうな表情で葛葉を見た。
「アルフレート!! おい、アルフレートどこだ!! いるのは解ってるぞ出て来いこのロリコン!!」
 葛葉は立ち上がり、ホール内に響きわたるような声を上げる。
 すると声に反応するかのようにホール内のカーテンが閉じられ、明かりが灯る。
「誰がロリコンかね、相変わらず口の悪い女吸血鬼だ」
 ホールの奥から、男が――アルフレートが姿を表す。
 明里はアルフレートの姿を視認すると、葛葉の後ろに隠れ覗き見るような体勢をとる。
「おや、明里かね。君はこんな女吸血鬼になってはいけないよ。すてきなレディにならなくては」
 アルフレートが近づき、明里をのぞき込むような体勢を取ると、葛葉は彼を睨みつけ耳を勢いよく引っ張る。
「問題児とはいえうちの所の生徒殺した上、大事な生徒を吸血鬼にした貴様が何をほざくかぼけぇ!!」
「君は私に恨みがあるのかね!!」
「恨みしかないわ!!」
 葛葉がアルフレートを殴りつけようとすると、アルフレートはそれを瞬時によけ、ホールに破壊された床の屑が舞い、明里は目を閉じてそれを防いだ。





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