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絶世のハンターは狙われる

二人の過去

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 クロウは依頼をこなしつつ、ディストの面倒も見ていた。
 ディストはというと、薬は飲むが血はなかなか飲まない、隙あらば逃げようとするという反抗的な態度を繰り返していた。
 そういう態度を取る度に、クロウはディストのことを抱きつぶしていた。

「あーハニー何で頭いいのに学習能力ないのマジで」
 店舗のほうの椅子に座り、机に脚を乗っけながらクロウは言う。
「あの子が無茶するようになったのは、あの時からですから……」
 店に薬を持ってきていたマリーが深いため息をついた。
「……両親が死んでからか、まぁ俺も母さんが死んで親父が行方不明になって自棄になった時期があるけどな……あいつのはそれより重いからな……」
「両親を殺した魔族は貴方が殺したんでしたよね」
「そう、俺がやった。ただ、まだ関係者連中が生き残ってるからあいつはそれを血眼になって追い続けてる、俺ここでダメ出しするわ、ハニーじゃ勝てない」
「本人が眠ってるからって貴方……」
「俺なら超余裕で勝てるけど、ハニーは自分の手で殺したいと思ってるんだよなぁ……」
「どうすれば勝てると思いますか?」
「そりゃ俺の血飲み続けるしかないだろ、ダンピールとして万全状態と俺の血で強化状態にしときゃ勝てる見込みはある、け、ど!」
 クロウは脚をテーブルから下ろし、バンと机をたたく。
 普通の机なら壊れていただろうが、特注の机だった為凹む程度で済んだ。
「ハニーは! 血を! 全然! 飲まないの!!」
「……まぁトラウマの根が深いですから……」
 マリーははぁと再度ため息をつく。
「なんなん、これ俺十回以上説明してるけど聞かないの! 馬鹿なの?」
「……本人的に他人の施しは受けない、みたいな感じなんでしょう……」
 クロウは疲れたような息を吐く。
「まぁいいや当分抱きつぶすのと血無理やり飲ませるし……」
「……その間依頼は……」
「難しいのなら受けてやる、それ以外は他の連中と教会にやらせろ、俺はそこまで面倒見良くねぇよ」
「分かりました……しかし、最近腕の立つ人本当減ってるんですよ、ハンターも、教会も」
「知らねぇよ、今まで楽しすぎてたんだろう、つーかハニーこき使いまくってたんだから少しは働けマジで」
 クロウは立ち上がり、冷蔵庫を開けて冷えた瓶のコーラを飲み干した。
「あーうめぇ」
「貴方お酒は飲まないけど炭酸は好きですねぇ」
「酒はどうにもあわねぇ、飲めなくはないんだがな。飲むとしてもカクテル位だしな」
「……ディストさん、飲食でもしてくれればいいんですが」
「ありゃあ無理だな、飲食もしねぇというかできなくなってる上胃袋が血とか液体以外ほとんど受け付けないんだ」
「普通のダンピールなら飲食も多少は可能では?」
「飲食してこなかったツケだ。第一両親健在の時も飲んでたのは血だ、飲食は無理だろう」
 空になった瓶を置き、冷蔵庫を締めて椅子に戻り、座る。
「あの頑固頭マジでどうするか……」
「痛い目にはかなりあってるので痛い目にあえというのは意味がないですし……」
「お前も結構鬼だな」
 マリーの言葉に、クロウは息を吐く。

 マリーの言う通り、ディストは結構痛い目を見ている。
 ズタボロになることもあれば凌辱された回数もかなりの回数だ。
 二人のいう事をちゃんと聞いていれば被害が激減するにも関わらず、頭が硬いディストは耳を貸さない。
「俺後どれくらいキレればいいんだ?」
「さぁ……」
 疲れたように言うクロウに、マリーは何とも言えない表情をした。
「では私はそろそろ帰ります、店を分身に任せっぱなしなのはアレなので」
「お前本当の緊急時しかでねぇよな……」
「ぶっちゃけ私がその時しか使えない一発屋なの貴方もよくご存じでしょう」
「まぁ、その一発がどでかいからなぁ……教会の連中もお前を怒らせないように腰が低いしな……」
「では」
 マリーはそういうと、店を出て行った。
 クロウはそれを見送ると、ディストがいる寝室へと向かった。
「よぉ、ハニー大人しく……」
 そこには、拘束具をちぎって出かけようとしているディストがいた。
 クロウの額に筋が浮かぶ。
「おい、ディスト。お前マジいい加減にしろ」
 クロウはそういうと、拘束具を完全に引きちぎろうとしていることに意識していたディストは床に押し倒された。

 ガツンと頭に衝撃が走り、頭に痛みが走った。
 明らかに怒っているクロウに押し倒され、ディストは自分の行動をもう少し早くするべきだったと明後日の方向に反省していた。
 クロウが何かつぶやくと、掴まれていた腕が何かによって拘束される。
 ディストを拘束していた拘束具よりも柔らかい感触だったが、どうやっても引きちぎれない。
「今日のはキツイのだからな、覚悟しろ」
 クロウはそういうと、ディストの頭をわしづかみした。
 クロウの目とディストの目があった。
 その瞬間、一瞬だけクロウの海より青い目が、闇色に変化する。
 ドクンと、ディストの心臓が大きく脈打った。
「が、あ、あ」
 ディストの目が真紅に染まり、口から牙が見えた。
 息がはっはと荒くなる。

 血が欲しい、快楽が欲しい、血が欲しい、快感が欲しい

 今までよりもずっと強い、強制的な欲情。
 吸血本能の出現。
 ディストにとってひどく苦痛だったが、それをまともに考えるだけの思考が奪われかけていた。
 薬よりもずっと強い、クロウの能力によって。

 『抑制』を破壊するという能力。

 破壊する能力を持つクロウによって、自分の『抑制』を一時的にだが大きく破壊されたのだ。
 押さえ続けていた吸血本能と、欲情があらわになった。
 美しい顔がヴァンパイアの本能の色に染まり、欲情に歪む。
「完全に破壊はしてねぇから安心しろ」
 クロウのその言葉も今のディストには良く聞こえていない。
 クロウがディストを抱き起こす、ディストの動きにはびくともしなかった拘束している物体が柔軟に形を変えた。
 クロウがディストのズボンを脱がし、後孔にディストの自重で入るような形で自身の雄を押し付け、挿入した。
 欲情しきったナカはぎゅうぎゅうと締め付けてきて、クロウの種を絞ろうとしていた。
 挿入し、奥をごつっと突き上げた衝撃で、ディストの雄は白濁液を吐き出していた。
「ほら、お前のお待ちかねの血だ」
 ディストの顔をクロウは自分の首筋に近づけると、ディストはクロウの首筋に牙を食い込ませた。
 血がわずかにこぼれる。
 クロウは血を吸われる感触を確かめながら、ディストの奥を責め続けた。

「お゛あ゛」
 吸血本能が治まったディストは、クロウに抱かれながら鈍い声を上げた。
 感じやすい奥をごりごりと刺激され、ナカはぎゅうぎゅうと締まり吐き出された欲の熱を敏感に感じてしまっている。
 粘質な音がディストの鼓膜を犯す。
「今日はちゃんと飲めたじゃないか」
 クロウはそういいながらディストを突き上げる。
 首には牙の食い込んだ後はなくなっていた。
「人間なら死んでる量だけどな、俺人間じゃねぇから関係ねーし」
 そう言いながら、奥に熱を吐き出しながら突き上げ抱き続ける。
「あ゛う゛」
 ディストは赤く艶めかしい舌を出して鈍い声を上げ続ける。
 体はぴくぴくと震えていた。

 ディストの男根はもう吐き出すものが無くなっても、絶頂を続けた。
 終わらぬ絶頂を与えられるのは、クロウとのまぐわいでは当たり前だった。
 それでも慣れぬ快楽だった。
 後何回絶頂すれば終わるのか、意識が飛ぶのか、そういう思考がかすかにディストの脳内をよぎる。
「悪いけど仕置きだから、俺が満足しきるまでは意識は飛ばないからな」
 そんな思考を察知したかのようにクロウは、快感に浸り苦痛すら感じているディストに告げる。
 ディストのわずかな思考は、その言葉をうまく理解することができなかった。
 ただ与えられる快感に苦痛じみた、表情を快感に蕩けさせ、快感の苦痛に浸らせ、快楽に浸った喘ぎ声を上げるしかなかった。

 クロウが出すものが無くなる――満足した頃に、ディストの意識は途切れてぐったりとクロウにもたれかかるように倒れた。
「……拘束具、これと同じのにすっか……」
 クロウはそういうとディストを連れてバスルームに入る。
 服を脱ぎ、シャワーを浴びながら、ディストの汚れを落としていく。
 後孔に指を突っ込み、ナカに入っている白濁液をかきだす。
 意識のないディストの口から喘ぎ声が上がり、興奮したがぐっとこらえた。
 クロウは自分たちが綺麗になると、風呂場からあがり、シャワーを止めて、タオルで体を拭いてタオルで体の一部を隠しながらバスルームを後にした。
 クロウは服を着てから、ディストにも服を着せて、ベッドに寝かせ、何かを呟く。
 何かが出現し、ディストの腕と足を拘束する。
「あー疲れた、俺も休む」
 クロウはそういうと、ソファーに横になって眠り始めた。


 翌朝、クロウは目を覚ます。
 ディストが眠り続けているのを確認すると、店の方へと移動した。
 店へと移動すると、申し訳なさそうな顔をしたマリーがいた。
「クロウ……」
「どうしたマリー」
「……助けてください、ハンター一団が返り討ちにあった上、上級魔族が出て都市全体が魔界化した場所ができました……」
「はぁ?!」
 クロウの眠気は吹っ飛んだ。
「いや、そんなこと起きる予感してたけどな!! 情報集めてたから!! でもお前が言ってるハンター一団って教会からの信任も厚くて結構強い連中だろ!!」
「私も彼らなら大丈夫かと思って任せたんですが……なんかとんでもない魔族が乱入してきて状況一転して返り討ちにあって死傷者多数出てるんです……」
「ちょっと待て、その魔族もしかして……」
 クロウが身を乗り出す。
「……はい、ディストさんが探し続けていた魔族の一人です」
「あー……どうしよ、俺倒したのバレたら流石にハニーにちょっと申し訳ないなー……」
「でも、ディストさんだと……」
「いや、今のならいける。昨日大量に俺の血飲ませたから……ちょっと起こして聞いてみるわ」
「え、大丈夫ですか?」
 不安そうなマリーを見て、クロウは何とも言えない顔をした。
 寝室に戻り、眠るクロウに声をかける。
「ハニー俺にとっちゃあんまりよくない情報だが、ハニーにとって朗報だ」
 ディストは長いまつげを震わせながらゆっくりと目を開ける。
「ハニーが探してる魔族が現れた」
「!!」
 ディストは目を開き、起き上がろうとした。
 しかし拘束具がそれを阻んだ。
 それを見て、クロウは拘束具をほどく。
 拘束具が無くなったディストはベッドから起き上がり、クロウの服を掴んだ。
「本当か……?」
「ああ、マリーからの情報だ。普段のハニーなら止めるし内緒にしとくが、俺の血を大量に飲んだ今のハニーなら教えていいと踏んだ」
「俺一人で――」
「それだけは認められないな、俺も行くそれが教える条件だ」
「……わかった」
 クロウの条件をディストは飲むしかなかった。
「じゃあ仕度しな、俺はもう済んでる」
 クロウは武器を取り出し、自分の武器を背負うと、ディストに彼の武器を渡した。
 ディストはいつもの服に着替えると、武器を見て、異常がないのを確認し店の方に向かうクロウの後を追った。
「じゃあ俺空間破壊するからマリーはそれ塞いでくれ」
「わかりました」
 待っていたマリーにそういうと、クロウは空間を破壊して、魔界化した都市と直接つないだ。
「うわ、すげぇ瘴気。これ嗅いだら人死ぬわ、ほれ」
 クロウはそういうと、ディストに口と鼻を覆う布製のマスクを渡した。
「念のためしときな」
 ディストはクロウのいう事を珍しく大人しく聞いて、マスクを着用した。
 それを見たクロウは都市の方へと移動する。
「ディストさん、気を付けて」
「ああ」
 マリーの言葉に返事をし、ディストも都市の方へと移動する。
 二人が移動すると空間の穴が塞がった。
「雑魚相手にしてると時間がもったいないな、お目当ての奴倒してさっさと戻るぞ」
「わかっている」
 二人は走り出した。

 瘴気の影響で地上に出てきた魔族たちがこぞって二人に襲い掛かる。
 二人は剣と銃で、魔族を薙ぎ払っていく。
 魔族の首や臓物、肉片が辺りに散らばる。
 瘴気化なら再生するはずだが、再生することなく消滅した。
 それでも魔族たちはおびえることなくクロウとディストに襲い掛かってくる。
「雑魚がうっとおしい!」
 クロウは手を異形化し、炎を纏うと魔族の集団を薙ぎ払い、魔族の集団が焼かれ道ができる。
 二人はその道を通りながら、近寄ってきた魔族を撃退しつつ中心部に向かう。

「やっぱり魔樹できてやがった、これ切り倒すのきっついぞ」
 中心部に到達すると、すさまじい量の瘴気を吐き出す不気味な大樹がそびえたっていた。
 その根元に、根を椅子にするように座っている魔族がいた。
 ディストの表情が変わる。
 美しい顔が憤怒の色に染まった。
「おい、待てハニー! 焦るな!」
 クロウの静止を無視し、その魔族に突っ込んでいく。
 木の根のような物体がクロウの道を閉ざそうとするが、クロウはそれを剣で切り払って進んだ。
 ディストはその魔族の首を切り落とさんと剣を振りおろしたが、その直前に、彼の腹を触手のような物体が殴り、吹き飛ばす。
「ディスト!!」
 吹き飛ばされたディストにクロウは駆け寄る。
 ディストは腹を抑えてかすかにうめいてからなんとか立ち上がった。
「……瘴気の濃さを甘く見てたな……おい、ディスト」
「……っ何だ?」
「俺が道を完全に開いて奴の攻撃を封じて、奴の大部分をどうにかする、だからとどめはお前がやれ。それでいいな」
「……わかった」
 クロウの提案に、ディストは頷いた。
「じゃあ、根っこは……邪魔だぁ!!」
 クロウは両腕を異形化させて、木の根をえぐり、焼き払った。
 魔樹が苦しみの絶叫あげて、瘴気の量が一気に増加する。
 それに目を閉じていた魔族が反応し立ち上がり、魔法陣を展開し攻撃しようとするが――
「残念だったな!!」
 クロウが銃を魔法陣に向けて放つ、弾丸が本来破壊できるはずのない魔法陣を破壊した。
 魔族はすぐさま異変を感じ巨大な本来の姿に変貌し、二人に襲い掛かろうとした。
「ディスト、飛べ!!」
 クロウの一言でディストは跳躍する。
 その瞬間を狙って攻撃しようとしてきた魔族の腕を、クロウは変化した炎を纏った剣で切り落とした。
 腕を落とされた魔族は触手でディストをとらえようとしたが今度はそれを見ていたディストの剣が触手を切り落とした。
 ディストの剣が、魔族を脳天から一刀両断する。
 魔族は雄たけびを上げてもがいたが、消滅していった。
「後はこの木を――ディスト?!」
 瘴気にやられて、地面に膝をついているディストを見てクロウは駆け寄る。
 そしてすぐさまマスクに何か術を掛けた。
「最初から術かけときゃよかったな、悪い」
「……ぐ……それよりも、魔樹をどうにかしろ……」
「分かってる」
 何とか立つことができたディストを見てから、クロウは魔樹に近づき、何かを呟いた。
 すると、魔樹に全体にひびが入り、魔樹はそのひびから燃え上がり、あっという間に消滅した。
「よし、これでいいはずだ」
「……俺はこれから次の――」
「それはちょい待ち」
 ディストのワーカーホリックっぷりに、クロウの額にまた筋が浮かぶ。
「ハニーはこれから俺の家で絶対安静な」
「俺の邪魔……ぐぅ?!」
 クロウの拳がディストの腹にめり込むと同時に、ディストはクロウの腕の中に倒れこんだ。
「瘴気に体侵されてるだから、大人しくしとけって話だよ」
 クロウはそういうと、ディストを抱えて都市を後にした。

 出現していた魔族は瘴気のない地上では生きられなかったらしく、瘴気を出す魔樹の消滅とともに姿を消した。

「お帰り……ディストさん!?」
「また依頼受けようとしたから気絶させた、無理だめ、絶対」
 空間を破壊して穴をあけて戻ってきたクロウと、クロウに抱きかかえられているディストを見てマリーは声を上げたが、クロウの言葉を聞いて少しほっとしたような表情を見せた。
「そうですか……」
「つーわけで空間の穴塞いでくれ頼むから」
「はいはい」
 マリーは空間の穴を塞いだ。
 クロウはディストを寝室に連れて行きベッドに寝かせると、先ほどの拘束を再度して、店に戻ってきた。
「全く、朝っぱらからハードだ」
「ハンバーガーですけど食べます」
「お、気が利くじゃん」
「飲み物はコーラで良かったですよね」
「いい、いい、ありがとよ」
「報酬はちゃんと口座に振り込んでおきます、特別褒賞も付けます、今回は酷かったですから……」
 申し訳なさそうに言うマリーに対し、クロウは既にハンバーガーを食べながらフライドポテトも口に放り込む。
「魔法で出来立てのまま維持できるって本当いいな、商売にすりゃ儲かるんじゃねぇの?」
「いや、そもそも普通の人は魔法と無縁ですから……」
「そういわれるとそうだな、ポテトうめぇ」
 取り損ねた食事をとっているクロウを見ながらマリーは少し呆れのため息をつく。
「……食事が必要なディストさんは食事をとらなくて、食事が必要ない貴方が食事をとっているってのが……」
「いいだろう、俺食うの好きなんだから……ハニーが必要な血は教会登録しないと支給されないからなぁ、ハニー教会嫌ってるしな」
「……根は深いですからね……」
「まぁ、教会が支給する血より、俺の血のほうが価値あるけどな」
 クロウは食べ終わると、コーラを飲み干すと、袋や紙コップをゴミ箱に捨てた。
「まぁ、そうですね。破壊者――」
「マリー、それ以上は言うな。俺は母さん死んだ途端行方不明になったあいつの事まだ許してねぇんだからな」
 マリーの言葉をさえぎって、クロウは怒りのこもった声で言った。
「……仕方ないですね」
「あの野郎が悪いんだよ!! いきなり『お前は一人で生きれるか?』とかわけ分からねぇこと言って行方不明になったくそ親父の事は許せねぇわ!!」
「……あの方は何を考えてるか昔から分かりませんでしたから、どの神々もあの方には逆らえませんでしたし」
「そうだよなぁ、マリーも親父には喧嘩うれなかったし、本当あんな野郎のどこがよかったんだ母さんは」
 クロウは椅子に座ったまま、机に頬杖をつき、指で机をたたきながら不機嫌そうに言う。
「あー!! マジあの野郎どこ行った!! 一発ぶん殴らせろ!!」
 クロウは居なくなった自分の父親への悪態を続けた。
 こうなったらしばらくは悪口を言い続けていると理解しているマリーはそれを苦笑いしながら聞いていた。

「あー……くそ親父の事思い出して気分が悪くなった」
 マリーがいなくなってから、店に「本日休業」の板を立てて寝室に向かい、眠っているディストの額をそっと撫でる。
「……腹立つけど、あの親父からの力があるから俺は守りたいものを守れてるんだよな……」
 そう呟いて、ディストの唇にそっと口づけしてからソファーに横になり眠りについた。

 静かな寝室に、二人分静かな寝息だけが響いた。



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