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こうして幸せになりました~良くなった者、悪くなった者~
しおりを挟むレックス様と結婚して二年が経過しました。
レックス様の傷はほとんど癒え、普通の夫婦として私達は過ごしています。
夜会に出るのを傷が癒える前は渋っていましたが、今では私をエスコートしてくださります。
友人達と話すのも穏やかに微笑んで見守ってくださります。
癒える前はちょっとしたことでおびえ、私にどこにも行かないで欲しいとすがり、私がなだめ、しばらくの間軟禁生活を送る──という事を繰り返していましたが、癒えた今はそんな事はなく、癒えた直後は何度もその件について謝ってきました。
でも、私は気にしてないからと何度もいい聞かせ、貴方の傷が癒えたならそれでいいと伝え、レックス様も話題にしなくなりました。
そうして朝ともの目覚め、食事をし、読書をしたり義父様の手伝いをしたり、夜会に出て友人達とおしゃべりをしたりと穏やかで賑やかな日々を過ごせるようになりました。
そんな穏やかな日々を過ごしていたある日──
夜会にレックス様の元婚約者──ジョディー様が現れました。
一体何をするおつもりでしょう。
でも、胸には贖罪の巡業を終えた者がもらうことができる飾りがありました。
「レックス……」
「……」
「貴方にはとてもひどい事をしたわ……」
「──謝る必要はない、もう過ぎたことだ」
レックス様はそう答えました。
「私にもう会う必要は無い、どうか貴方は貴方の幸せを掴めばいい」
レックス様はそう言って私の方へとやってきました。
「私はすでに結婚している、もうどうでもよい話だ」
レックス様の言葉に、ジョディー様は涙を流して頭を下げ夜会を後にしていきました。
「……心臓が口から出ると思った」
レックス様はそうおっしゃられました。
「レックス様はお許しになられたのですね」
「……ああ、君のおかげだアイリーン」
「レックス様……」
その後、少しだけ、「お熱いですねお二人さん」と友人に茶化されましたが、レックス様は笑って流しました。
このとき、私はレックス様の心の傷が本当に癒えたと思いました。
確かに癒えてはいましたが、過去と向き合うのは初めてですから。
夜会を後にしようとすると、ならず者が私達の馬車に近づいてきました。
そのうちの一人は見覚えがあります。
「……アルフ、何のようだ」
レックス様が私を守るように立ちながら、ならず者の一人──アルフを見据えます。
「兄貴……なんでだよ、なんで兄貴とアイリーンが結婚してるんだよ!!」
「お前がアイリーンに不義理を働き婚約解消になった結果だ。後私は婚約者が不義理を働いたから婚約破棄した結果でもある」
「アルフ、貴方とはとっくの昔に終わっているの、帰ってちょうだい」
「ふざっけんなよ!! 俺の事は家から追い出しておいて、二人で仲良くしやがって……」
アルフが刃物らしきものを出したのが見えました。
レックス様も護身用の剣に手をかけました、そのとき──
「見つけたぞ!」
「全員捕まえろ!!」
治安維持の方々が、わっと押し寄せてきて、ならず者達をあっという間に捕まえてしまいました。
突然のことで、私とレックス様はきょとんとし、顔を思わず見合わせます。
あまりにもタイミングが良すぎるからです。
「放せ! 放しやがれ!!」
「い、いつからいたんだ?!」
ならず者達は一人残らず連れて行かれました。
「どうやら間に合ったようだな」
「父上!」
「義父様!!」
オーガストおじ様──義父様がいらしました。
「アイリーン、無事か!!」
「お父様!」
お父様もです。
「……お二人とも、説明してください」
レックス様は何かわかったかのように不機嫌な声で二人に申し上げられました。
「アルフの馬鹿がお前達を襲おうとしているのがわかってな、お前達の護衛を治安維持の者たちに隠れてさせていたのだ」
「すまない、二人が警戒すると逃げる可能性があって言わなかったのだ」
お二人の言葉に、レックス様はふぅと息を吐き出しました。
「……わかりました、それでアルフはどうなるんです?」
「絶縁しているからもう関係ないが……罰が与えられる事は間違いないな、それだけの事をあいつはしてきたそうだ……」
義父様の言葉に私は、ため息をつきます。
自分の行いを恥じて、贖罪の旅に出て、改心したジョディー様。
自分の行いを恥じず、悪事を重ねて、悪人となったアルフ。
人とはこうも差がでるものなのでしょう。
ジョディー様には後ろ盾があったのかもしれない、贖罪をするための。
でも、アルフにも後ろ盾があったとしても、同じ事が起きたとは思えません。
人とはそれほど差が出る者なのでしょう……
それこそが、人なのかもしれません……
「アイリーン」
屋敷に戻り、寝室で二人きりになるとレックス様は声をかけてきました。
「どうしました、貴方?」
レックス様に声をかけるとレックス様は私を抱きしめます。
「レックス様……」
「君が私を愛してくれてよかった……君が婚約者になってくれて良かった……ありがとう……」
「……いいえ、レックス様。私の方こそ、ありがとうございます……」
私はレックス様を抱きしめ返しました──
相手の不義理により婚約解消になって、どうなるのかわからず不安になった娘
相手の不義理により婚約破棄をして、不信となった青年
二人は傷をなめ合うのではなく、娘が青年を支えて青年は立ち上がる事ができた。
周囲も二人を守ろうとした。
結果、二人は夫婦となり、幸せになることができた。
人生とはままならぬもの、人生とは何が起きるかわからないもの。
だけれども、こういう形の幸せのつかみ方もあるのだ──
end
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