14 / 19
堕ちる~愛を知らぬ故に~
しおりを挟む粘質的な音が、クライヴの聴覚を犯す。
「はー……はー……」
ぬちゅぬちゅと後孔に長い雄がゆっくりと蠢いていて、ナカを擦る感触が心地よくてたまらなかった。
シーツを掴み、あられもない声を上げるのを必死に堪えながら、クライヴはセドリックに抱かれていた。
「クライヴ、教えて下さい。愛とはなんですか?」
そう問いかけながら、自分を抱くセドリックをクライヴは見る。
相変わらず無表情に近いが、何処か嬉しそうな表情をしていた。
優越感ではなく、自分を抱くことを嬉しく思っているようだった。
クライヴは自分の心がもう堕ちているのを理解していた。
でなければ「抱いてもいいですか」という言葉を今まで拒否していたのに、「いい」と答えてしまった理由がわからない。
愛を教えるはずなのに、教える事はできず。
愛の真似事のような行為で、自分が堕とされる。
――何とも笑えない冗談だ――
これでは負けたと自分から宣言しているようなものだ。
どちゅと奥を刺激され、声を上げそうになったが、クライヴは何とか堪えた。
体は完全に堕ちている、そして心も――
この男からは逃れられない。
「お゛お゛?!」
ぐりゅっとえぐられるように弱い場所を刺激され、堪らず声を上げてしまった。
「クライヴ、教えて下さい、愛とはなんですか?」
セドリックの言葉に反応することはできなかった。
ぶつりとそこで意識が途切れた。
意識を飛ばしたクライヴからずるりと雄を抜いてから、抱きかかえて洗浄室に向かい、ともに体を洗浄する。
そして体も乾かしてから、セドリックはクライヴを綺麗にしたベッドに寝かせた。
「どうして、教えてくれないのですか?」
そう問いかけて、額にキスをする。
クライヴが言った「愛」をセドリックは今も理解できない。
けれども、クライヴが既に堕ちている事は何となく理解はできていた。
それを自分から告げるのもいいかもしれないが、セドリックはそれをする気にはなれなかった。
仮眠室に向かい一人、眠る。
夢の中で「父」が笑っていた。
――何故?――
『ああ、お前はやはり私に似なくてよかったよ』
その「父」の言葉を、セドリックは理解できなかった。
目覚めたセドリックは何となくクライヴの所に向かった。
クライヴは既に目を覚ましていた。
「……」
こちらを見てから俯き、黙り込んでいるクライヴにセドリックは声をかけた。
「どうしてのですか?」
「――私の負け、だ。無理だ、お前無しで生きることなどできないし、お前に『愛を教える』などできない」
予想外の言葉に、セドリックは少しだけ目を見開いたが、その後すぐ薄く笑った。
「では、貴方は私のものです、クライヴ」
「……分かっている」
セドリックはクライヴの首筋を撫でた。
するとそこには黒い薔薇の紋様が刻まれていた。
「貴方を手放さないという証です」
「……」
「では、部屋を変えましょう。此処は殺風景ですから」
そう言ってセドリックはクライヴの手を握り、クライヴを立たせて部屋を後にした。
クライヴに用意された部屋は窓などは無いが、綺麗な部屋だった。
花が飾られていた、黒い薔薇が。
モノトーン系の家具で統一されており、黒い薔薇に違和感がない部屋だった。
「ここを使うといいでしょう」
「……ダリルは?」
「今処遇を考えている途中です」
「……可能なら、売るなど考えないでくれないか?」
クライヴは懇願するように言った。
――仮にも元仲間だ――
――売られるような事態は避けたい――
「分かりました、ではそのように」
セドリックはそう言っていなくなってしまった。
扉はなくなると、クライヴに不安がどっと押し寄せてきた。
愛を教えることなど出来ず、クライヴ自身が相手の愛を欲して溺れる事態に陥っていたことがまず第一の失敗だった。
愛を知らぬ、愛を知らぬはずなのに、愛を知っているような方法をとる異常性を持つ黒い薔薇がふさわしき美丈夫たるセドリックに嫌悪どころか惹かれていった。
今まで見たことのない存在。
善も悪もなく、無垢でもなければ空白だらけのヒトとしては異常、されども美しき存在に惹かれた。
あの異常性と美しさに、それは花たちも愛されたがって咲き誇り、愛でられるのを望むだろう。
彼が愛を理解する日が来ることを望む一方で、それが理由で自分を引き離すのではないかとクライヴ怖くなってきたのだ。
いわゆる「正常」になることを望まず、今のまま「異常」であって欲しいと、クライヴはセドリックの精神構造や感情が変わらぬことを望んだ。
セドリックはこれが「嬉しい」という感情かと思いながらその感情に浸った。
欲しいと望んだ存在が手に入るというのがどれほど嬉しいものか、理解したのだ。
――決して彼を手放さない――
セドリックはそう思いながら、一人思案する。
ダリルの処遇についてだ。
売らないなら、自分の元使う必要がある。
もともと腕力もあるし、現状はセドリックに従順だ。
調教時何かの時に使うのもいいかもしれない。
ダリルの雄の部分を壊さなくて良かったとセドリックは思った。
まだやるべき事は多くある。
セドリックの事を裏切った依頼人たちの仲間を陥れる事などだ。
その情報は多分、クライヴが持っているだろうと思った。
――後で、クライヴに聞くか――
そんなことを思いながら仮眠室のベッドに横になる。
目を閉じて眠りにおちた。
夢の中の「父」は笑っていた。
死ぬ間際のあの笑みで。
『セドリック、お前は私に似なくて良かったよ』
その意味がセドリックにはやはり理解できなかった。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。
にのまえ
BL
バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。
オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。
獣人?
ウサギ族?
性別がオメガ?
訳のわからない異世界。
いきなり森に落とされ、さまよった。
はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。
この異世界でオレは。
熊クマ食堂のシンギとマヤ。
調合屋のサロンナばあさん。
公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。
運命の番、フォルテに出会えた。
お読みいただきありがとうございます。
タイトル変更いたしまして。
改稿した物語に変更いたしました。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない
ゆうきぼし/優輝星
BL
騎士団養成の寄宿学校に通うアルベルトは幼いころのトラウマで閉所恐怖症の発作を抱えていた。やっと広い二人部屋に移動になるが同室のサミュエルは塩対応だった。実はサミュエルは継承争いで義母から命を狙われていたのだ。サミュエルは無口で無表情だがアルベルトの優しさにふれ少しづつ二人に変化が訪れる。
元のあらすじは塩彼氏アンソロ(2022年8月)寄稿作品です。公開終了後、大幅改稿+書き下ろし。
無口俺様攻め×美形世話好き
*マークがついた回には性的描写が含まれます。表紙はpome村さま
他サイトも転載してます。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる