「愛」知らぬ調教師は「愛」を知る

琴葉悠

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交渉と情報確認

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 セドリックは性玩具を取り出した。
 男性器――自身の雄を模した物だ。
 それをぐずぐずにほぐれきった、クライヴの後孔にゆっくりと押し込んだ。

「~~~~!!」

 ベッドに顔をうずめ、頭を振り乱すさまはセドリックの「欲」をかきたてた。

 ゆっくりと出し入れを繰り返し、馴染ませた。

 最奥に入った感触と共に、何かの臭いがセドリックの鼻に届いた。
「ああ、深くイキすぎて漏らしてしまったんですね。大丈夫です、良い事ですから」
 連続に続く連続の雄ゆえのメスの絶頂を繰り返した結果、クライヴは最初のような反応をしなくなった。
 それを少し寂しく思いながらも、セドリックは行動を続けた。


「お゛あ……」
 がくりとベッドに倒れ込み、意識を失ったクライヴをセドリックは抱きかかえ、シーツを新しいものに触れずに一瞬で取り換えると、そのまま洗浄室へと向かった。

 クライヴの逞しい肉体を愛でるように触りながら洗浄すると、意識のないクライヴの口から喘ぎ声が零れた。

 セドリックは洗浄を終えると、体を拭いてやり、クライヴに遅効性の催淫剤を注入してから部屋を後にした。

 そして、少し休憩をとるため、仮眠室で眠りについた。




「っ……」
 クライヴは目を覚ますと、出入り口の無い部屋に居た。
 幸いトイレと洗浄室と、冷蔵庫はあるが、それ以外は見当たらない。
 空調も、どうやって調整しているのかわからないが肌寒さや息苦しさを感じない。
 相変わらず服がないし、脱出手段も分からないが、それでも逃げなければならないと思った。
 このような非道な行為を行い続けさせるのは許しがたかったからだ。

 クライヴは腰にタオルを巻いてから、壁を叩いて出入口がないか探し始めた。

 しばらく探し始めてから、体に異変が発生した。
 酷い熱がこもっているようで、ずくずくと疼く感触。
 クライヴは遅効性の催淫剤を注入されていた事を理解する。

 それに堪えながら、脱出口を探すが、ついに立ってられなくなり膝をついてしまった。

「っ……」

 熱を吐き出すのが手っ取り早いと判断したクライヴは恥を忍んで自身の雄に触り、扱くが反応しないことに目を見開く。
「なっ……?!」
 そして思い出す、散々あの美しいが何処か不気味な男に抱かれた事を思い出した。

 男同士での行為、理解はするがしようとは思わなかった行為を無理やりされたことを思い出す。
 それの所為で、雄が反応しなくなったことを理解した。

 が、クライヴはその熱を吐き出す行為をすることがどうしてもできなかった。
 ただ、辛さに耐えかねて、ベッドに戻り蹲る。

 蹲っていると、何者かがの気配がした。
 視線を向けると、何処か僅かに不安の色をしたあの男がすぐ近くにいた。
「我慢せずに、私を求めてくれたら、楽になれるのに、何故?」
「っ……こんな事をして、ヒトの心を得られるとでも……?!」
「得られるから、そうしてきたのです。得られるから、皆依頼をするのです、違いますか?」
 男の言葉にクライヴは耳を疑った。
 この男は、そういうものを「知らない」のだ。
 好いた相手に振り向いてほしいという願いや、愛し合うという感情を理解できていない。

 認めたくないがこの男は自分に「惚れた」からクライヴを誘拐し、そして「愛し合いたい」から行為に及んでいるのだ。

 ただ、本人はそれを理解していない。

――なんて、哀れな――

 男の行為は許しがたかった、だが、男が哀れだったのは事実だ。
 男はそのような「愛」を知らぬ環境で育ち、愛を分からぬまま成長した。
 だから、このような行為に罪深さも何も感じていない、ただ淡々と行うだけ――

 そしてそれで得られる心が、本来のものとかけ離れたものになったとしてもそれで良いのだと思っている。
 いや、思っているのではない、そういうものだと最初から思わされている。

――逃げる道は一つ、あるかもしれない――
――だが……――
――やるしかない――

 クライヴは起き上がり、男の服の襟を掴んで引き寄せた。
「交渉、だ。お前が『愛する』ことを私が教えてやる、それまでにお前が私を堕とせたら、素直に従おう、代わりにお前が理解出来たら私達を開放しろ」
「『愛する』? 何ですかそれは?」
「お前は私を欲しいと言った、それの解を教えてやると言っているのだ」
 男は一瞬目を見開き、しばらく無言になってから頷いた。
「いいでしょう、けれども開放するのは貴方だけだ。アレは――彼は既に堕ちている」
「っ……」
 男の言葉にクライヴはぞくりとした。

 おそらく、この男が自分にしている行為の何倍も激しい――否、精神と肉体を犯す行為をダリルはされているのだろう。
 ただ、気になったのは、その程度でダリルが堕ちるとは思えない。

――決定的な何かがあるはずだ――

「……一つ聞きたい、どうやって堕とした?」
「アレをですか? そうただ」
 男はナイフを取り出して自分の首を切り裂いた。
「?!」
 頭が落ち、男の手のひらに収まる。
 血が噴き出る事もない。
 頭のない体はそのまま、手の中にある頭を元の位置に戻した。
 すると傷は消えた。
「殺せないことを教えてやったら、堕ちました」
 ダリルが落ちた理由がクライヴには理解できた。

 どうやっても「殺しても死なない化け物」相手では、本能が無理だと悟ってしまったからだ。
 再生し続ける兵器クリーチャーを倒した際もダリルの疲弊具合はすさまじかったことを覚えている。
 殺せない相手と対峙する恐怖をこの時、わずかに覚えてしまっていたのなら――

 諦めるのも無理はない。

 クライヴは言った傍から不安になった。
 心も体も異常な存在である男に本当に「愛する」ことを教えられるかどうかを――

「では、今日は止めておきます」
 男はそう言って、クライヴの脚に薬を注入した。

 熱を持っていた体はすっと熱が引いた。

「……何故だ」
「貴方が言う『愛する』のにはおそらく薬は不要でしょう? ならばこれからは薬なしで貴方を堕としますので」
 同じ場所に立つとでも言いたげだが、クライヴは体が既に自分の元のものではない為、圧倒的に不利なのを理解していた。
「では、お休みください」
 男はそう言って部屋を出ていった。




 セドリックは不思議だった。
 何故あんな言葉に乗ってしまったのか。
 それほど「愛する」というのは蠱惑的なものなのか――とセドリックは自問するが首を振った。
 セドリックは「愛する」ことなど知らない、だがヒトが「愛」を誓いながら破ることを理解していた。

――そんなもの、どうでもいい――

 セドリックはそう言い聞かせて、ダリルの依頼主から来た引き渡し相手の情報を見ることにした。

「……」

 ダリルの引き渡し相手は、セドリックのブラックリストに載っている人物だった。
 そんな事も知らずに依頼をするはずはないと、セドリックは考えた。

――最初から、殺すつもりで依頼をしたのか――

 セドリックは腹立たしくなった、そんな依頼に引っかかったことに。

――私を舐めるな――

 セドリックは計画を変えて、調教に時間がかかっていると嘘の報告をすることにした。
 自分を舐めた行動をした連中に制裁をくだすために――





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