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悦を与える~知らぬことを歪に知る~
しおりを挟むクライヴは気が狂いそうな感覚に必死に耐えていた。
排泄器官を嬲られて悦を感じるなどありえないと思っていた。
腸内をゆっくりと指が入り込み、そしてしばらく動かぬまま静止し、その後ゆっくりと抜かれていく。
それの繰り返し。
男は今それしかしていない。
なのに、クライヴの体はそれでもどかしい快楽と、腸内を擦って欲しいという感覚に支配されていた。
自身の雄の熱も酷かった。
吐き出したい衝動が強いのに、それができないのだ。
痛みによる苦痛に耐えるのは慣れている、だがこのような「苦痛」を感じたのはクライヴは初めてだった。
自分を捕えたらしい男――まるで人形のような男。
感情の見えない目、表情、声。
どんな生を歩めば、このような存在ができあがるのか、クライヴは理解できなかった。
他者の「道」も「生」も何とも思わない、異常者。
誰か守りたい訳でもなく、強くなりたい訳でもなく、名誉が欲しい訳でもなく、幸せになりたい訳でもない。
誰かを愛したことすら、きっとないのだろう。
そんな男が自分を「欲しい」と、言ったのだ。
知性と理性を持つ生命体ならば持っているであろう物の多くが欠落しているような不気味な男が、そんな事を言ったのだ。
己以外――否己でさえも、まるで価値を見いだせてないような空虚さが男にはあった。
だが、その空虚さを埋める為にクライヴの事を欲しがっているわけではない。
だから「理解」ができない。
男の行為も、この行為の意味も――
時間が経過するほど、欲求は悪化していった。
歯を食いしばることももはやままならない程、クライヴは自分の体の欲求を抑えつけられなくなっていた。
自分がどんな声を出しているのかすら認識できない位に、精神は疲弊していた。
行為の終わりではなく、達する事を体だけでなく、精神までもが求めていた――
セドリックは、擦れるようクライヴの喘ぎ声を聞きながら、単調な行為を繰り返していた。
――あの男、大分手間がかかるな、有難いと思うべきか、面倒だと思うべきか――
別室で、粘質生物に調教され、体を仕込まれているダリルは疲弊はしているものの、相変わらず罵倒を繰り返している。
決して求めるような言葉を言おうとしない。
今まで調教した者達は、ダリルと同じ状態になった場合、既に懇願の言葉を吐き出していた。
なのに、ダリルは一向に堕ちる気配がない。
我慢強いのか自尊心が強いのか、それとも別の何か理由があるのか、セドリックには理解ができなかった。
そしてクライヴも堕ちる一歩手前まできているというのに、中々堕ちてくれない。
既に欲求は限界を超えていることは経験上把握している。
精神状態ではとっくに堕ちているはずの線を越えている。
それなのに――
堕ちていることを示す言葉を発していない。
――何故?――
性的な知識がほぼ無いような者達で合っても、何らかの言葉を口にしていた。
なのに、クライヴはそれすらも口に出していない。
ただ、掠れて何処か虚ろな喘ぎ声を零しているだけ。
――ならば――
少し「負けた」気がするが、セドリックは粘質生物の作用と、薬、単調な行為、それらによって酷く敏感になっているクライヴの前立腺を押しつぶした。
膨らんでいる前立腺をこりこりと、指の腹で押しつぶしてやる。
「~~~~!!」
びくりと体を反応させて、深い青い色の長い髪を振り乱した。
脚ががくがくと震えている。
どろりと、透明な蜜に白く濁った蜜が混じって滴り落ちていた。
指の数を一本増やし、薬も追加して、前立腺を中心に腸内を更に、仕込んでいく。
具合からして性玩具を使用しても良い程の状態になっていた。
ただ、性玩具を使う前に、自分の手で一度絶頂させたかった。
クライヴの会陰に空いてる手を添えて指で、撫でる。
そして両方から同時に、慣れた手つきで前立腺を刺激した。
「っぁあ゛ぁ゛~~?!?!」
クライヴが声を上げて僅かにのけぞり、そしてがくりと頭を下げた。
ぎゅうと腸内が指を強く締め付けるのを感じる。
ろれつの回っていない喘ぎ声と呼吸音が聞こえる。
指を抜こうとすれば、腸壁が絡みつき、しゃぶる様に、求めて抜かれるのを拒んでいた。
ぬちゅりと、音を立てて抜くと、後孔は咥える物を求める様にひくついていた。
射精をしない絶頂――ドライオーガニズム。
通常ならそこに至るまで開発するのに時間がかかるが、そこはセドリックの技量と道具等で補うことができる。
クライヴは我に返る様子もなく、熱っぽい呼吸音と喘ぎ声を零していた。
体勢を変えて表情を見れば、会った時の表情とは明らかに違っていた。
射精による醒めてしまう快楽とは違い、女の絶頂のような快楽と、長時間の「焦らし」が効いたのか、口端からは透明な液体が零れ、碧玉色の目は潤み、何処か熱っぽく虚ろだ。
幸いな事でもあり、面倒な事にダリルは未だ耐えているらしい。
面倒な「依頼品」だと思いつつも、耐えてくれればその分、クライヴの調教に時間を割くことができるので、今はまぁ良いとセドリックは納得しておいた。
手袋を脱ぎ、汗ばんだ褐色色の逞しい肉体を愛撫するように撫でる。
敏感な箇所を撫でれば、体をびくりと震えさせて反応していた。
それにセドリックは少しだけ「驚い」た。
クライヴの腸内に注入した粘質生物は確かに体を性的な意味合いでの感覚を感じやすくする、そして腸内に塗り込んでいた薬はその効果をさらに増大させる。
けれども此処迄敏感になるのは比較珍しい。
腸内の状態が敏感になるのは理解できるが、薬を塗り込んでいない箇所まで此処迄敏感にする程の薬ではないからだ。
長時間塗り込んでいた結果全身に廻ったのか、それとも元から素質があったのか。
それを判断するには早すぎると、セドリックは結論を出すのを中断させる。
クライヴの方に視線を向ければ、まだ快楽の余韻から醒めれない状態にあるようだ。
それもそうだ、ずっと我慢をさせられた上で、射精のような醒める快楽とは異なる悦に浸らされているのだ。
おそらく初めて体験したのだろう。
最初の反応的に、そちらへの知識があまりないようだ。
何処かで聞いたのか、それとも書物で読んだのか忘れたが「白いキャンバスに自分好みの色を塗り付ける快感」とはこういうものなのだろうかと、セドリックは思った。
自分で調教したい相手を見つけて、調教する調教師の事を思い出す。
その調教師は自分好みにしたいから、自分で調教する、どんな手間をかけてでもと楽し気に話していた。
だから、調教師に依頼する連中の思考が理解できないと、肩をすくめていた。
言われた当初は理解できなかったが、今のセドリックには理解できた。
自分が欲しい存在だからこそ、他の者の手など付けさせず、自分の手で自分の色に染め上げたい、自分の手でよがらせたい、自分無しでは生きていけなくさせたい。
セドリックは、少しだけ「欲しい」というものがどういうものなのか理解できた。
歪な形で――
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