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いつもの夢と調教開始

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「……」
 ノーワンは処置を済ませてひと段落ついた。

 自室に戻り、ベッドに横になる。

 二人が目を覚ますにはまだ時間がかかる。

 ちらりと自室に飾っている漆黒の薔薇に視線を向ける。

 美しい黒い薔薇、変わらぬ美しい花。

 起き上がり、ノーワンはそっと薔薇の花びらに口づけをする。

「……」

 いつもは心が満たされ、落ち着くのに、それが少し減ったように感じた。
 ノーワンは再び、ベッドに体を沈ませ、少しの間目を閉じた。




 ノーワンは夢を見た。
 調教の仕事をする時に必ず見る夢。

『ああ、この子は不気味だわ……声も上げない、何も見ていない……!!』
『そうだ、捨ててしまおう、この子は――いや、これは悪魔の子だ、私の子を殺して乗っ取った子だ!!』

 遠い遠い昔、赤子の頃の記憶。
 自分は森の中に捨てられた。
 薄い布切れに包まれて、何も思わず泣くこともせずにいた。

『……赤子? ふむ、変わった子だ』

 赤い髪に、赤い目の男が自分を抱き上げた。

『……そうか、お前は捨て子か……ふむ、普通の子とは違うか、ならいい。私が育てよう』

 男はそう言った。

『さて、性別は……男か……ふむ……そうだな、セドリック。お前の名前は今日からセドリックだ。さてお前はどのようなヒトに育つのだ?』

 男はそう言って赤子ノーワンを――セドリックを抱き抱えてその場を立ち去った。


――父さん……貴方の跡を継いで本当に良いのですか?――
『ああ……構わない、私は生きるのに飽きた。それにお前のことはやはり息子としか思えなかった』

 ベッドに横たわる、育ての親――義父を、セドリックは見つめた。
『……いや、息子と思えただけで上出来か、私にしては。セドリック――いや、セドリック・ノーワン。私の息子よ。お前は私のようにはなるなよ、私のようには』
 義父はそう言って、セドリックの頬を撫でてから、息を引き取った。

 セドリックは義父の死体を義父の指示通りに処理した。
 そして、自分がヒトではない存在になった事を理解した。

 文字通り全ての意味で「義父の跡を継いだ」のだ。




「……」
 ノーワン――セドリックは静かに目を開けた。
「……」

 セドリックという名前を知る存在はもう何処にもいない。
 ノーワンという存在としてしか他の者は認知しない。

「……」
 セドリックは体を起こし、唇をなぞる。

――あの男に何時か呼んで欲しい……私の名前を――

 今まで抱いた事の無い感情、今まで浮かんだことの無い考え。
 それがどういうものなのか、セドリックは理解ができなかった。




「ん……?」
 ダリルが目を開けると、戦場でもなければ、基地でもない、見慣れない部屋だった。
 そして少し硬いベッドの上に自分がいる事を理解する。
 身動きを取ろうとするが、動かせない、何とか視線を動かして自分の状態を確認すれば、黒い拘束具らしき物体が自分の体を動かせないようにしている。
 正確には固定しているが近い。
 そして衣服は何一つ身に着けていない状態。
「ふざけやがって……!!」         
 ダリルは忌々し気に呟き、拘束を引きちぎろうとするが、出来なかった。

 軍議会議で拘束されても、気に食わなければ引きちぎって、ふざけた発言をした輩をぶちのめしていたダリルでも引きちぎれなかったのだ。

 ただ、体力だけが消耗する現状に異常を感じた。
 戦場でどれ程暴れても、殺しても、もの足りなさを感じる程の体力をダリルは持っている。
 それが、引きちぎれない拘束具を引きちぎろうとするだけで、消耗していくのだ。


 これほど体力を消耗する事態、また自分ではどうすることもできない事態に陥るのはダリルは初めてだった。


 ガチャリと言う音が聞こえた。
 ダリルが視線を向ければ、黒いスーツに身を包んだ黒髪の20代半ば程の男が立っていたのだ。
 琥珀色の無感情な目をダリルに向けている。

「――確かに、他の連中では手に余るな」
 男はどうでも良さそうにそう言って近づいてきた。
「貴様何考えてやがる!!」
「何も」
「んだと?!」
 男の言葉に、ダリルは怒りを露わにしたまま噛みつく。
「――私は貴様を『調教』するよう依頼を受けた。もし考えているとすれば、調教内容位だ」
「調教だと!? 貴様ふざけてるのか?!」
「ふざけてなどいない。どうせ聞かないだろうが言っておこう、早めに『折れる』方が楽になるぞ」
 男はそう言った。
「ラムダ所属、突撃部隊第二部隊隊長ダリル・ブラッドフォード。此処では貴様は一切抵抗も、反抗も許されないと思え。反抗や抵抗をした場合、こちらもそれなりの対応を許可されている」
「……」

「私は調教師ノーワン」

 男はそう名乗る。
「では、始めさせてもらおう。言っておくが私の言う事を聞いておいた方が、楽ができると思うといい。貴様の性格では理解できんだろうがな」
 男――調教師ノーワンは、無感情な声のままそう言った。




 セドリックは静かに、ダリルの後孔を見る。
 明らかにそういう用途で用いた事が無いのが分かる窄み。
 浅黒い肌とほぼ同じ色で、くすんでもいない。

――まぁ、予想通り、か――

 普段は粗野だが、行為として真逆の性質を持つヒトも存在する。
 そちらの方が支配される快楽に堕ちやすいので調教はスムーズに進む。
 だが、ダリルの性質的に、彼は支配や命令に「反抗」する側だ、自分の思うがままに生きてきた人間だ。

 堕とすのが大変だが――一度折れれば、少しずつ楽になる。

 液体で満たされたシリンジの一つに手を伸ばす。
 普段使うシリンジよりも液体が入っている量が多い。
 そしてそれをセドリックはダリルの反応によっては何本か使う予定だ。


 腸内洗浄の意味以上に、一度苦痛を与える為に。

 液体も通常のよりも排泄欲求を高めるものだ。

 ただ、腸内にある排泄されるべき物体は液体に全て分解される。

 普段なら媚薬も混ぜるが、今回は混ぜない。


 シリンジの先端にローションを塗り、セドリックはダリルの後孔に、挿れた。
「っ?! 貴様何しやがる?!」
「黙っていろ。自分の立場をわきまえていないなら、こちらも相応の対応をする」
「ふざけるな!! 殺すぞ貴様!!」
「……」
「ぐぅぅ?!」
 ゆっくりと注入していたそれを一気に注ぎ入れて抜くと、セドリックはもう一本に手を伸ばし、注入し始める。

 ダリルの体の頑丈さではなく、ダリルにつけている首輪の効果で普通ならできないような負荷がかかりすぎる行為も可能になっている為、セドリックは気遣いなど一切する気はない。


「お゛ぅぐ……」
 ダリルの鍛えられた腹が膨らんでいる、後孔にはアナルプラグで栓をしているので今のダリルでは抜くこともできない、故に排出することもできない。
 褐色色の鍛え抜かれた体は脂汗でじっとりと濡れている。
 顔色も苦痛の色に染まっている。
「……さて、何か言う事は?」
「ころ……す……!!」
「そうか、ではじっくりと頭を冷やすといい」
 セドリックは明らかに折れる気配のないダリルにそう言うと部屋を出た。

――さて、彼の様子を見に行こう――

 セドリックは部屋に鍵をかけると、本命クライヴの元へと向かった。
 どこか心がまるで「弾む」ような感触に、戸惑いながら。




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