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「商品」と「欲しいもの」を手に入れる

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 ノーワンは息を吐いた。
 どうしても、どうしてもクライヴが欲しくてたまらなくなったのだ。
 だから、依頼主に一度もしたことの無い連絡をした。


 金額を下げるのとターゲットの男 ダリルが参加し、確保予定かつ、ラムダ側では最重要とされる戦いの時トリニティ側を全滅させる代わりに、クライヴをよこせと連絡をした。
 依頼主達は少し時間をくれと答えた。

 少し待つと、返事が返ってきた。
 ノーワンにとって良い内容だった。


 クライヴは優秀だが、その優秀さ故に、上層部の公に出せぬ行為を調査しているらしく、次回の戦いが終わったら、それを公にされかねない。
 だから構わないと返ってきた。


 連絡を終えると、ノーワンは依頼主側からもたらされた作戦内容と、とある方法で入手したトリニティ側の情報を擦り合わせ始める。
「……」

――彼らは何と……いや、何処にも属さない故に自分の気まぐれで大きな事を起こしてきたんだ、これくらい、いいだろう――

 ノーワンは「同類」に連絡をしようと思って止めた。
 彼らが何か大事を起こす時、基本連絡などしないと思い出したのだ。


 皆自分勝手、故に繋がる、何処にも属さないが属している、そういう関係だと言い聞かせて。


 作戦当日――
 ノーワンは不可視のローブに身を包みながら静かに、戦場を上空から見下ろしていた。

 全てに目印をつけている。
 邪魔者が入らないよう、全てに。
 誰もそれに気づいていないし、気づく気配もない、そしてノーワンの気配に気づく様子もない。
 ノーワンは静かに地上を、戦場を見据えた。

 ヒトの群れが、動き始める。
 兵器が動き始める。

――始まった――

 ノーワンは静かに頭上に手をかざした。

 黒い空を、同色のおびただしい槍の様な物体が埋め尽くした。

 手を振りかざすと同時に槍は一気に地上へと降り注ぎ、ノーワンはまぎれるように地上に降りて行った。


 黒い槍のような物体は周囲の視界を閉ざし、そしてトリニティ側の兵士を殺し、兵器は破壊した。
 ラムダ側の兵士は一時的に拘束し、兵器は機能を一時的に停止させた。

 ノーワン以外の者達は、何が起きているか把握できていない。

――先に依頼からこなすか――

 ノーワンは静かにもがくターゲットの男 ダリルを見据えた。


「くそ!! 身動きがとれん!!」

 藻掻くダリルに一気に近づき、頭を手で掴んだ。
「誰……」
 掴まれる感触に声を上げようとした直後、ノーワンはダリルの意識を一瞬で失わせた。
 がくりと頭を項垂れさせ、拘束から身をよじる行為等をしなくなったのを見ると、転移術を作動させて「部屋」に転移させた。
「……さて、本命、か」
 ノーワンは一人そう言うと、その場から離れた。




 周囲が一向に消えることの無い煙幕に囲まれた状態かつ、音も届かない中クライヴは自分の動きを制限する黒い物体から逃れようとしていた。
「応答せよ!! こちら第一部隊――」
 通信を取ろうとしても一向に誰一人からも連絡が変える気配どころか、通信すらできない状況に歯を食いしばる。

 周囲の状況が分からない、不利なのか、有利なのか、それとも全員が自分と同じ状態か、もしくは自分以外全員死んでいるのか。

 何一つ分からない状況下。

 覚えているのは無数の黒い「槍」の様な物体が音もたてず、観測もさせずに降って来た事だけ。

 それにより周囲の状況を把握できなくなり、通信も途絶え、また身動きができなくなった。

 黒い「槍」だった存在が体の動きを制限しているのだ。
 その所為で身動きを取ることすらままならない。

 力で引きちぎることも、術で解除することもできない。

――一体何が起きている?!――

 もしトリニティ側の作戦だったのならば、向こうからの動きがあるはずだが、その気配もない。
 連合ラムダ側で何者かが動いているのならば、理由が分からない。
 誰かがトリニティと連合ラムダの争いの間の利を得ようとするとしても候補が思い浮かばなかった。

――一体誰が、何の為に――

 クライヴが必死に状況把握と状況脱出を繰り返していると、誰もいないのに、首を触られる感触を感じた。

「?!」

 かろうじて動かせる頭を動かして振り返るが、誰もいない。
 だが、確かに自分の首を撫でるように触っている感触があった。

「――捕まえた」

 静かだが何処か楽し気な男の声が聞こえた。

「?!」

 クライヴの足元が闇色に染まりクライヴを包み込む。


 ぶつんと、クライヴの意識はそこで途絶えた。




 音もたてずに、ノーワンはクライヴを抱きかかえて、調教師になって以来、掃除はするものの、一度も使ったことの無い部屋に入った。
 先代も「作ったのはいいが使った事はない」と言っている部屋。

 依頼によって調教される事になった「商品」は、部屋が与えられる。
 それは「商品」への依頼内容と、通常時の態度によって使い分けられる。
 調教されることになる「商品」は、逃亡や外部への連絡手段を全て取り上げられた状態になる、依頼内容によっては服どころか下着すら常時ない状態にされる。

 ノーワンが依頼を受けた「商品ダリル」は既に別の部屋で、そのような状態にされている。

 だが「商品」ではない、クライヴはどうしようかと悩んだ結果、ノーワンはこの部屋を使用する事にした。
 確かに必要最低限な物以外置いてない部屋だが、他の部屋よりも品がある。
 クライヴは「商品」にする為に捕まえたわけではない、連れてきたわけではない、ノーワンが欲しかったから捕まえたのだ。

「……」

 ノーワンはクライヴをベッドに寝かせると閉じられた唇をなぞった。

 頬を撫でる。
 喉を触る。
 青い長い髪を触る。

「……」

 見目が美しい者なら他にも多くいた。
 なのに、どうして、クライヴが欲しくなって、そしてこのような行動に出たのか、ノーワンは、分からないままだった。





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