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突き落とされて異世界へ

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 目を覚ましたら、森の中にある城の前に居た。
 何を言ってるか自分でも分からないがそれが事実だ。


 俺の名前は紫藤しどうがい
 しがない会社員だ。
 記憶が確かなら、俺は屑なパワハラ上司に屋上に同僚が呼び出されたと聞いて、嫌な予感がしてビルの屋上に向かうと、屑は同僚を蹴る殴るの暴力を振るっていた。
 俺は同僚をかばい屑と取っ組み合いになり、周囲に他の社員が集まって──

 そこから記憶がない。

 気がついたら見慣れない森の、見慣れない城の前に居た。

 西洋風の城。
 屋敷っていうにはでかいレベル。

「ごめんくださいー」

 チャイムらしき鐘を何度か鳴らすが返事がない。
「うーん、どうしたものか」
「私に何か用か」
 悩んでいると、声が聞こえた。
 声のする方向を見れば、金髪に金色の目に色白の美青年がいた。
「いえ、ここの城の人に用があって」
「私の城だ」
 美青年は警戒するように俺を見る。
「そのここ何処か分からないから教えて欲しくて」
「何……?」
 青年はバケツを置いて、俺に近づき俺の目をじっと見つめた。
「……異世界人か」
 青年はつかれたようなため息をついて言った。
「は?」
 俺は理由が分からなくて唖然としていた。


 何とか城の中に入れて貰い、客室に案内して貰えた。
「名前は」
「紫藤凱です。凱と読んでください」
「ガイ、ここはお前から見ると異世界だ」
「異世界ぃ?!」
「この世界に来る人間は直前に死ぬような事態に陥っているのがこの世界に転移する時の仕組みだ。覚えは、ないか?」
 青年に言われて俺はじっくりと思い出そうと目を閉じた。

 ぶわっと光景が広がった。


 取っ組み合っている最中に柵が壊れた。
 そこから屑に俺は突き落とされた。

「あ──!!」
「覚えがあるんだな」
「ち、ちなみに戻ろうとすると……」
「死ぬ直前から戻ることになる、お前は結局死ぬ事になる」
「マジですか……!!」
 命は助かったが、二度と家族や友人達と会う事ができない事実に頭を悩ませた。
「ガイ、お前は特に能力もないようだ。転移した者は何らかの力を持っているのがほとんどだが、そうでないと雑に扱われる」
「げ」
「……だから、仕方ないから私の城の客人として置いておこう」
「本当ですか! 貴方は神様仏様?! ありがたい!」
 思わず手を合わせて青年を拝む。
「……ただ一つだけ注意してくれ」
「何をです?」
 青年は一呼吸置いて呟いた。
「私はダンピールだ」




 青年の名前はアドリア。
 ダンピール──確か記憶が正しければ吸血鬼と人間のハーフになる。
 しかし、そんな事は俺にとっては些細なこと。
 住居ももらえて、パワハラ屑野郎が居ない環境って最高!!




「おお、ファンタジー的な服ですね」
 用意された服に身を包むと、俺はそう呟いた。
 RPGの狩人とかそう言った類いの服に俺は感心する。
「あの格好は目立つ。それとあまり城から離れないようにしてくれ。後、その丁寧すぎる口調もいらない、普通にしてくれ」
「あ、そうかい。もし必要な物があったらどうすれば?」
「私に言ってくれればいい」
 アドリアはそう言って俺に宛がってくれた部屋から出て行った。
「今必要なもの……特にねぇな」
 俺はそう言って靴を脱いでベッドに寝転んだ。
「何かつかれたし、寝るか……」
 俺は目を閉じた。




『──君、君は紫藤君を突き落としたと他の社員の証言があるんだよ?』
『つ、突き落としていません! だ、第一紫藤、君の死体が──』
『ああ、警察がたまにある事らしいといっていた。君がこれまでしたことと、紫藤君にしたことは消えない。警察にはもう言ってあるし、君は会社をクビだ。擁護するつもりはない』
『そ、そんな?!』
『──ですね、では同行してもらいます』




「──ガイ」
「んお?!」
 顔を女よりも綺麗な顔がのぞき込んできたので俺は慌てて飛び起きた。
 向こうも反応が早かったのか、俺の動きを避けた。
「うなされてるようにも、ざまぁみろともとれる表情で寝ていたぞ」
「ああ……俺の事突き落とした屑が警察に突き出される一部始終が夢で……」
 そう言うと、アドリアは少し考え込んでから俺に言った。
「おそらくお前がここに来たその後。異世界で何が起きたか夢でお前に知らせたのだと思う」
「はは! それなら最高だぜ!」
「あくまで可能性だが……」
「いーんだよ、そういう補足は!」
 その直後──

 ぎゅるるるるるぐごごごご──

「……腹が減った」
 俺がそうぼやくとアドリアの奴は吹き出して笑った。
 見惚れるような笑みだった。

「あまり豪勢じゃないが食事はできている、食べるか?」
「おう!」
 俺はアドリアの後についていった。




 このときの俺は、アドリアが笑うなんてどれほど貴重なものなのか理解していなかった──





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