覚醒者~特別ランクの私は恋愛の好きが分からない!~

琴葉悠

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一人に八人

私は私

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 その日、カナタはいつもとは違う覚醒者と組まされて、山にいた。
「……これ遭難するんじゃないかなぁ……?」
 うっそうと茂る山を見つめてカナタが言うと、15歳ほどの義足の少女がカナタの腕を掴んだ。
「だいじょうぶ! おねえちゃん! わたしこのやまのことよく知ってるから!」
「そ、そう? じゃあ案内お願いね、えっとミーシャちゃん」
「うん!」
 少女──ミーシャは元気よく頷くとカナタを案内して山の中に入っていった。

 最初はハイキングのような感じだったが、途中から、嫌な空気と殺気が混じった空間に変わった。

 ぎゅっと鎌を握る。
「おねえちゃん、あんしんして?」
 少女が震えるカナタの手を握る。
「こんかいのあいてはわたしがするから、とどめもさすから」
 自分よりも幼い少女の言葉に、カナタはなんとも言えない気分になった。

 地響きがして、巨大なイノシシ──だったものが現れる。
 機械や人の手首など、様々な物が混じり合っていて、カナタは吐き気を覚えたが、ぐっと堪えて鎌を振り下ろし、目標の逃亡する場所を防ぐ。
 地面から無数の刃が出現し巨大な化け物の行く手を封じる。

 化け物は荒い息をたててこちらへ突進してきた。

 ミーシャの義足の形が変わる。
 鋭い刃と鋭い切っ先の針状へと。

 ミーシャは義足で化け物を切り上げると、脳天へと針状の足を突き刺した。
 頭部から無数の針の花が咲く。

 化け物は血しぶきと鈍い声を上げて倒れ、どろどろに溶けていった。

 そのすさまじい腐臭に、カナタは吐き気を催しそうになった。

「このいのししさんは、覚醒者のじっけんでこうなったの」
「!!」

 ミーシャの言葉に、カナタは言葉を失った。

「でも、ランクが低い覚醒者さんだったからぼうそうしたの、とりこまれてた手は覚醒者さんの手、もう死んじゃってる」

 ミーシャは静かに笑って言う。

「覚醒者でもばんのうでも、ぜんのうでも、ないのにね。どうしてこんなことするんだろうね」

 カナタはミーシャの問いかけに答えることができなかった。




 家に帰り、風呂に入ってしばらく考えたが、答えは出ず、カナタは風呂からあがり、体を拭いて遊戯室で一人考え込んでいた。
「カナタ、どうした?」
「あ、うん……その……」
 カナタはディオン言うべきか悩んだが、今日の仕事について話すことにした。
「レインめ、下調べをおろそかにしたな?」
「いや、レインさんが悪いんじゃなくてその……」
 しどろもどろになるカナタにディオンははぁと息を吐き出して、隣に座り口を開いた。
「……覚醒者になった者には普通の人間よりも優れていると思う連中がいる」
「優越感……?」
「人間の時劣等感が強いほどそれは大きくなる。それで、ランクが低くても自分は『何でもできる』と思い込んで今回のような事件を起こすこともある」
「……覚醒者はどうして生まれるの?」
「それは分からん、だが誰もが覚醒者になり得る可能性はある。今日組んだ相手を覚えているか?」
「ミーシャちゃん、でした」
「彼女は実親に虐待で殺されかけた時に覚醒者となった。その時、反動で父親を殺し、母親を殺しかけている」
「!!」
「今は義父母の家族の元で大人しいが、彼女がまた母親に遭遇したらそのときは容赦なく母親を殺すだろう。覚醒者になるというのは大きく変わることをほとんどが意味する」
「変わる……」
「だが、カナタ。君は違う。変わっているようで、変わっていない。本質がそのままだ」
「え、えーとつまり」
「覚醒者ではまずあり得ないことなんだ」
「ありえない……」
「君一人の力では無いが、君は殺意を押さえ込めるだけの精神を持つ。また人を殺すことにためらうだけの恐怖心も持つ。それは覚醒者ではあり得ないことなんだ」
「……」
「──とある覚醒者の話をしよう。その覚醒者は花屋の店員だった」
「普通の人……?」
「まぁ、そうだな彼女は恋人からの暴力で覚醒者になった。彼女の能力は拷問器具で相手を拷問することだ、下手をすれば死ぬ」
 カナタは、ディオンの言葉に何を言えばいいのか分からなくなった。
「彼女は能力を使ったとき、相手が死んでも構わないと思うようになった。覚醒者になる前は、ごく普通の、人の死を恐れる存在だったのに」
「……どうして、私は……」
「だから君は特別なんだ、敵対者の死など気にしない覚醒者の中で君だけは相手の死を恐れる」
「……他の皆も?」
「ああ、それが覚醒者だ。だから恐れられる」
「……」
 カナタはレンとサリが親が育てられないと施設で育ったことを思い出した。

 おそらく、親は怖かったのだろう。
 自分の事を敵と見なして殺そうとするかもしれない我が子を。
 覚醒者を。

 だから、覚醒者と言えば皆が恐れるのが漸く理解できた。

「カナタ」
 ディオンがカナタの頭を優しく撫でる。
「そう思い悩むのも君だからだ、人の心のまま、覚醒者である君を私達は皆愛しているんだ」
「……私も皆みたいにならないと思わないの」
「思わないな、悩んでいる時点で君はそうならない。ゴウの件でも、やり過ぎとまで言うんだ君は。だから大丈夫」

「君は君だ」

 ディオンのその言葉に、カナタは答えは分からないままだが、安心できた。
「ディオン、ありがとう」
「礼を言われるほどではない」
 カナタはディオンに抱きついた。
「?!」
「いつもありがとう、ディオン。大好きだよ」
「……俺こそ、ありがとう、愛しているとも」
 抱きしめ返されたが、カナタはどきどきすることはなかった。


「ディオンに抱きしめられてもどきどきしなかったから、全員で試したい」
「「「「「「「「なんと??」」」」」」」」
 家に帰ってきた七人とも抱きしめ合ったが、カナタはどきどきしなかった。
「んーやっぱり、恋愛的な感情が分からないのかなぁ?」
「カナタ、君は家族と抱きしめ合ったらドキドキするのか?」
 アルビオンが問いかける。
「しないよ」
「そういうことだろう」
「あ、なるほど」
 カナタは納得し、風呂場へと向かっていった。




「やっぱり恋愛感情的なのがわからないのか?」
「それか恋愛感情すっ飛ばしたのかもしれないな」
「ドキドキしてうぶなのもみたいと思ったけど、よく考えたらカナタちゃんから一緒に寝ようとか言ってるじゃん、ドキドキしないよアレ」
「あー確かにな」
「ところで今日の一緒に寝る当番は誰だ?」
「俺だ」
「ディオンか」
「学校卒業したら、そのうち『こどもほしい』とか言い出したりしないか?」
「あーカナタちゃんの場合ありそう」
「……俺はそれで終わるとは思えんがな」
「私もだ」
「何だよ、二人とも、不穏な発言して」
 男性陣がガヤガヤとあれこれ論争している最中、カナタはのんびり風呂を満喫していた。




「ディオンお休み」
「カナタ、お休み」
 明かりを消して抱き合って眠る。
 カナタはディオンの心臓の静かな音が心地よくてすぐさま眠ることができた。




 ディオンは少しだけ緊張して寝付くのに時間がかかった──





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