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一人に八人
父の思い出~恨めしいとは言ったけど!~
しおりを挟む「──結婚したそうだな」
「ぶふっ」
行きつけのラーメン店で、レイドと久しぶりに遭遇し、相席になって早々に言われた言葉に、カナタはラーメンを吹き出しかけた。
なんとか飲み込んで、ふぅふぅと息を吐く。
「大丈夫か?」
「……レイドさん、質問するときは時、場所、場合を選んでください」
「ああ、すまんな」
カナタの言葉にレイドは素直に謝罪した。
「誰から聞いたんですか?」
「それは秘密だ」
「あ、なんとなく分かった」
「それも含めて秘密だ」
「分かりました」
「──八人か、君にはちょうど良さそうだ」
「え、どういうことですか」
「そのままの意味だよ、君は他人より抱え込む量が多すぎる、一人よりも複数の方が良いだろう」
「……でも八人は多くないですか?」
「多くないだろう、君の今後の生活を考えると」
「あー……そうっすね、子どもは欲しいですもんね、八人分」
「ごふっ」
カナタの言葉に今度はレイドが吹き出しかけた。
「だ、大丈夫ですか?」
「……君、割ととんでもない発言を平気でするな」
「そうですか?」
「子どもが、ほしいのかい?」
「んー、そうですね、お母さんみたいな母親になって子どもと向き合いたいって小さい頃から思ってました」
「それは君の母親が良い親だということだろうね」
「まー良い親ですけど、割と抜けてますよ?」
「それなら、その分補助は必要だな」
「だから父が生きていた頃はバランスとってたんですけどね……」
カナタは思い出すようにそう口にした。
「父親は君にとってどんなだった?」
「子育てに参加する頼りになる親でしたよ」
カナタはそう言って麺をすする。
「まぁ、病気で死んじゃいましたけど。未だにその件は恨んでますが」
「恨む?」
カナタの言葉にレイドは違和感を覚えたようだった。
「早めに手術してれば助かったのに、しないで主治医が進める医療じゃなくてSNSで流れる偽医療に引っかかって死んじゃったんですよ、最後に気づいたのは良かったけど、遅すぎる」
「……何故引っかかったんだい?」
「親父、今の医療用の人工臓器が合わない体質で、子どもである私と兄貴からしか臓器移植できないからそれが嫌で引っかかったんですよ。子どもの体に傷つけずにすむからと」
「なるほど」
レイドはそこまで聞いて納得したようだった。
「辛い事を話させたな」
「いえ、いいんですよ」
カナタは何でも無いように答えた。
「……と、言うわけだ。フォローは任せた」
レイドはアルビオンとディオンを呼び出して、そう伝えた。
「わかった」
「レイド、貴方はできればカナタに自身の地雷を踏まないようにさせてもらいたい」
アルビオンはレイドに苦言を呈した。
「それはすまない、だからこそ、君達にフォローを頼むのだ、今頃へこんでいるだろうから」
「了解した」
「分かった、では」
ディオンとアルビオンはその場から姿を消した。
「……やはり八人がちょうどいいな、彼女には」
「……子どもに関しては少し思うところがあるが」
レイドはそう言ってその場を後にした。
帰り道、カナタは突如アルビオンとディオンに家に来るように言われ、そのまま家へと連行された。
家に着くと、レンが茶菓子を用意して待っていてくれた。
「あの、どうしたの?」
「酷い顔をしているぞ」
「え?」
「何かあったのか?」
「あーうん……親父の事、話してね、ちょっとうん」
カナタは言葉を濁しながら答えた。
「そうか」
「詳しく聞かないの?」
それ以上聞かない皆に、カナタは驚いた声を上げる。
「その顔を、みたら、な」
「顔?」
カナタはクリエイフォンを鏡代わりにして見た。
すると、カナタの顔は今にも泣きそうな顔をしていた。
「……酷い顔、ごめん、こんな顔で」
カナタはそう言葉を吐き出したが、アルビオンが彼女の手を握った。
「気にするしないでくれ、寧ろ抱え込む事があるなら言ってくれ」
「……うん」
カナタはなんとなく、レイドが言っていた「八人がちょうどいい」の意味が分かったような気がした。
自分は重く抱え込みすぎる。
それを人には見せられない。
同じ傷を負ってる人には見せられないし。
友達にだって言えない。
今までは表情にだって出さなかった。
でも──
支えてくれる、そう思ったから、自分は表情に本心が出たんだと思う。
でも、八人は多くない?
カナタは落ち着いてお茶を口にしながら焼き菓子を頬張る。
「……じゃあ話そうかな」
「何をだ?」
「私が落ち込んだわけ」
「いいのか?」
アルビオンの問いかけにカナタは静かに頷いた。
そしてカナタは語り始めた。
父親の事を、父親が大好きだったから恨んでいる事を、だから悲しくてたまらないことを。
八人全員に語った。
気がついたら、カナタは涙を流していた。
「ごめん、みっともなくて」
「みっともなくねぇよ」
マリがそう言ってカナタの目をハンカチで拭う。
「大好きな家族が死んだんだろ、それしゃべってて悲しくなっても別におかしくねぇだろ」
「マリちゃんも、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの話をすると悲しくなるよね」
「うるせ」
「……マリは、育ての親がお祖父さんとお祖母さんだったんだよね」
「ああ、父方のな。母方は親と絶縁してるらしいって人づてに聞いた」
「……」
「頑固な爺と、世話焼きの婆だったよ。でも嫌いじゃ無かった」
「好きだったんだよねー、ずっと反抗期みたいな感じだったけど、あの二人の悪口いった奴は容赦なくしめてたよね」
「うるせぇ!」
サリの言葉に、マリが顔を赤くして怒鳴る。
「あー……まぁ、そういう訳だ。大事な家族が死んだんだ、割り切るのは難しいだろうよ」
「そうだな、俺達は割り切るしかなかったが、カナタ。君は割り切る必要は無い」
「そうだよカナタ」
「そうそう、カラスに身内全員殺されて復讐にとらわれてた僕らにこんな明るい時間をくれたんだからね」
「な、なんかそれは重い……」
「まぁ、それと君も偽医療を騙った連中に父親を奪われたようなもんだしね」
「あー……うん、それはあったわ。親父、学校関係でかなり地位ある人だったからそれが原因で亡くなったって新聞に載って騙ってた連中は全員逮捕されたわ……」
「今も偽医療騙ったら逮捕されるのに、どうしてまだ続けるんだろうね?」
「あー医者に聞いたら『それは医療に従わなかったそちらの責任』と言われて遺族が何も言えなくなるからだってさ。普通の医療でミス無くて死んでも色々あるのに。あーあ、偽医療騙ってる連中片っ端から捕まればいいのに!!」
カナタは心の底から思っている事を叫んだ。
それを見て、顔を見合わせて八人が頷くのに、カナタは気づくことは無かった。
一週間後、新聞に「偽医療を騙る医師全員捕縛?!」とでかでかと記事に載っているのを見て、カナタはひっくり返った。
「偽医療じゃない人いたらどうすんの?!」
「偽医療のだけ捕まえたから安心しろ」
「何処で判断を?!」
「データを調べて効果がないのを偽医療と判断したよ」
「うわ怖いわ」
カナタがうかつに何か言えないというのを学習するのにはまだ時間がかかりそうだった──
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