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離婚します!~王妃の地位を捨てて、苦しむ人達を助けてたら……?!~

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 むせかえる香水の匂い。
 女達の痕跡。
 我慢にも限度がある。


「離婚します」


 私は、女癖のだらしない国王陛下に、夫にそう告げて離婚の紙をおいて外に出た。
「ま、ま、待ってくれ!! 君がいなくなったら私は……!!」
「女の子達に慰めて貰ったらどうですか? 独り身になったと」
 私は荷物を手に持ち、そうして王宮を後にした。

風の精霊ウィンディ
『なぁに、聖女様』
「私を『真祖の国』まで運んでちょうだいな」
『あいあい! ちょっと待ってねー』

 人気の無い場所に来て、風の精霊を呼ぶと、どこからかアシュクロフトがやって来た。
「王妃様」
「もう王妃じゃないわよ」
「ではエイリーン様、この国を去られるのですね」
「ええ」
 仕事を放り出すようなのが気分が悪いけど、文句はあの陛下に言って欲しい。
「必ず、おそばに向かいます」
「アシュクロフト……」
「私は王家では無く貴方に忠誠を誓ったのですから──」
 最後まで聞く事無く、私は風の精霊の力で真祖の国へと飛ばされた。




「これは……」
 荒廃仕切った大地、ボロボロの家屋、病気の人々。

──なんとかしなくちゃ──

 私は急いで真祖の城へと向かった。

 城は魔法で建てられているらしく、立派だ。
 私が城に入ると──

「ローグ王国王妃が我が城に何用だ?」
 声が響き渡った。
「既に離婚しています、故に私は王妃ではなく、一人の苦しむ人々を助けたいだけの者だと考えてください」
「神の教えか?」
「いいえ、私の意思です」
 そう答えると、目の前に真っ白な髪に赤い目の壮年の男性が立っていた。
 この方が真祖。
「好きにするがよい、ただしおかしな真似をしたらその首を刎ねる」
「はい」
 真祖はそう言って再び姿を消した。
 私は頬を叩き──
「頑張るぞ!」
 と自分を励ました。




「エイリーンがいない……エイリーンがいない」
 国王は鬱々とした表情でめそめそとないていた。
「女遊びの激しい陛下に愛想を尽かしたとの事です」
「だって、エイリーンは聖女の仕事で忙しいから……!」
 自分を正当化する発言にアシュクロフトは呆れのため息をつく。
「寂しくて? なんとも情けない御方ですな」
「アシュクロフト?! お前は私を馬鹿にしてるのか」
「私が忠誠を誓ったのは貴方では無く王妃──エイリーン様です、ですので私もやめさせて貰います」
 そういってアシュクロフトは王宮を後にした。
 そして、愛馬と旅費用の退職金を元に、自分が仕えるべき主の元へと駆けだした。
 愛馬は走る「真祖の国」へ向かって。




 私は、精霊術と聖女の力の二つを行使して、荒れ地を豊かな土地へと変えた。
 そして病人を一人一人面倒を見て、病を癒やし、健康になったら皆で畑を耕して、いった。
 私はそうして土にまみれる生活をしていたが、嫌ではなかった。

 寧ろ誇らしかった。

「エイリーン」
「真祖、様」
「今宵私の元に来て貰いたい、城で待っている」
 ある日の夕方そう言われ、私は慌てて身支度を調えた。
 そして城へと向かった。


 城へ入ると、真祖が出迎えてくれた。
 そして頭を垂れた。
「すまなかった、其方を疑って」
「いいえ、仕方ないことですから」
「其方は捨てられ、居場所がない民達を救ってくれた。感謝する」
 そう言って手を握られた、爪が短くなり、どこか土臭い手だった。
「香水をつけているより何倍も良い」
「そ、そうですか」
「其方の頑張りを見て、私も気が変わった。配下達に命じさせて其方の手伝いをさせよう」
「本当ですか?!」
「勿論だ、あとそれと──」
「何ですか」
「宜しければ、私の妻になって欲しい」
「うーん、それはいったん保留にさせてください、前回の結婚生活がアレだったもので」
「わかった」
 真祖は納得したように頷いてくれた。

 いや、本当、前の結婚生活がアレだったから当分結婚したくないのだ。
 それはそれとして真祖の配下の手伝いもあるというのは有り難かった。




 真祖の配下らしき、方々がやってきて、畑仕事や病人怪我人の治療を手伝ってくれている。
 それに驚いていたのは住民の方だった。
「聖女様が真祖様のお心を変えなさった」
 と余計崇められるようになって、少し恥ずかしい。


 そんな日々を過ごしていると、ある人物が私を訪ねてきた。
「エイリーン様」
「アシュクロフト!」
「漸く見つけました、これからおそばを離れません」
「有り難う、じゃあ早速なんだけど……」
 私はアシュクロフトに仕事を頼んだ、配下と一緒に畑仕事を始めた。

 その日の夜、私は真祖に呼び出された。
「あの男とはどのような関係だ?」
「当時私に忠誠を誓った騎士です、おそらく今も」
「左様か」
 真祖はそう言って納得したのか近況の情報共有を行い、私は住まいに帰還した。




「アシュクロフトといったか?」
 真祖はアシュクロフトを呼び出した。
「其方、エイリーンとはどのような関係だ?」
「エイリーン様に忠誠を誓った騎士、それだけです」
「そうか……」
「貴方様は、エイリーン様を愛してらっしゃるのですか?」
 アシュクロフトの問いかけに真祖はうなづいた。
「だが、前の結婚生活が相当嫌だったらしく私のは保留だ」
「真祖様」
「なんだ?」
「奥方様が忙しいととっかえひっかえ女を呼ぶ等しませんか」
「せん。そんな事をしてる暇があるなら夫婦の時間をどうにか作るし、仕事をこなす」
「畏まりました、私にお任せを」
「う、うむ」
 アシュクロフトの言葉に真祖はなんとも言えないような声で返した。




「エイリーン様、真祖様から告白されたそうですね」
「ぶふっ?! なんでそれを」
 私は思わず飲み水を拭きだした。
「真祖様にたずねました」
「そ、そう……確かにそうなんだけども……」
「エイリーン様」
「な、なに?」
「エイリーン様がいなくなってからローグ王国は混乱してます」
「でしょうね」
「ですが、陛下はまだエイリーン様を諦めてないご様子でした」
「本当?」
「本当です?」
 頭が痛くなった。
「ですが、エイリーン様が書いた離縁書がある今、真祖様と結婚なされれば、陛下は諦めざる得ないか、もしくは愚行を行い自滅するかの二択です」
 アシュクロフトの発言は色々と怖かったが、あの男に迫られたくないという一心で私は真祖との結婚を承諾した。

 真祖は、華やかな結婚式は行わない、慎ましく身内だけで行おうといってくれた。

 私はアシュクロフトと民の代表者の方々が参列し、真祖は少数の配下が参列するだけの小さな結婚式だが、私はあの男との結婚式より価値あるものに思えた。



 それから二年後──
「ふぎゃあふぎゃあ」
「ダニエル、よしよし」
 私は真祖──デインとの子をもうけ、幸せに暮らしていた。
 アシュクロフトは相変わらず私に仕え、色々と働いてくれている。
「ううむ、子育てとは難しい」
「そうよ、難しいの」
 困っているデインに私は微笑みかけながら、育児をこなす。
 デインは困りながらも、育児に協力的だから非常に助かっている。

 そんなある日──
「真祖様、エイリーン様。ローグ王国の国王が」
「何やってるのかしら」
「民は逃げだし、この国に来ている──というのは名目上、本音は」
「私?」
「はい、エイリーン様の奪還です」
「配下達を出す、捕まえて身の程を教えてやる」
 デインは私にそう言うと配下を送り出した。


 二時間後、一緒にいた騎士達は牢屋行き、国王陛下基ボーフォートは──
「エイリーン……!!」
 私とデインの目の前にいる。
 アシュクロフトが変な事をしないように剣に手をかけている。
「エイリーン! 私が悪かった、一緒に戻って暮らそう!」
「お断りします、それに私は……」
 デインの頬に口づけをする。
「この方の妻になってるのよ」
「そんな?!」
「子どももいるわ」
「?!」
 私の言葉に打ちひしがれて泣くボーフォートに、私はこういった。
「女ならいくらでもいたでしょう? 慰めて貰いなさいな」
「いやだー! 僕はエイリーンじゃないと嫌なんだー!」
「鬱陶しい、私は嫌なの、だから帰って、二度と来ないで」
「それともここで死ぬか?」
「ひっ」
「鬱陶しいな、戻るがいい、二度とこの地を踏むな、そのときは命はない」
 デインはそう言うと魔術でボーフォートを飛ばしてしまった。
 おそらく、城に不格好な状態で戻っているだろう。

「他の連中も同じようにするか」

 デインはそう言って牢屋へと向かっていった。




 それから一ヶ月後──
 ローグ王国が大軍を率いて攻めてきたので、デインの魔術でほぼ皆殺しになった。
 勿論、国王だったボーフォートは死んだ。

 ローグ王国はどうにもならない状態になったので、デインが配下を遣わせて乗っ取った。

 馬鹿なボーフォート。
 老人と女子どもしかいない国なんて、どうやっても上手くいきっこないのに。



 かくして、ローグ王国は「真祖の国」の属国となり、各国はよりこの国に攻め入る考えを捨てざる得なかった。
 それくらい、真祖──デインが強大だからだ。




「悲しいか」
「いいえ、哀れだと」
「そうか」
 デインはそう言って我が子を見つめる。
「お前はあのような王になるなよ」
「させません」
「だうー」




 離婚から始まって国がある意味滅んでしまうのは想像ができなかった。
 でも、そのおかげで私は、幸せだ──















 
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