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壊れた祝福者
伝わらない
しおりを挟むどうして、君は、分かってくれないんだろう。
ずっと君を想ってたのに。
その所為でたくさん間違って、君を追い詰めて――違う、君の壊れたままの心を余計壊して歪めてしまったのも覚えている。
自分の心がボロボロになってたから、何てただの言い訳だ。
幼い君と別れたあの時、きっと君は私の事を覚えてないんだろうと思っていた。
その通りだった、あの時既に君の心は壊れて歪んでどうしようもない位辛い状態だったから。
家族には言えない、その歪みと壊れている原因は家族にもあったからだ。
君の家族が悪い訳じゃない、君は「自分が産まれた」事に酷い罪意識を持っていて、家族をそれに巻き込んでしまっている、家族を普通の「幸福」から遠ざけてしまっている、家族に安寧の場所が訪れない事を、ずっと苦しんでいた、誰にも言えず。
漸く吐き出すことのできる第三者である私と別れてしまった事で、君は吐き出す場所を無くしてそれに耐えられず私との事を「忘れる」ことを選んだんだろう。
そのまま、壊れて歪んで、それを抑えつけて君は生きていた。
漸く思い出したの時、君は壊れて歪んで私を疎ましく、憎く思っていたのを――根が優しすぎるから、自分の行為がきっと許せなかったんだろう。
だから、あの石を私に返そうとした、約束を破ったから、自分に資格はないと。
そんな事、一つもなかった。
君は覚えていなかったけれど、壊れていた私の事を疎ましく、憎んだりしたけれども。
それでも、君は私の事を「嫌い」だとは言わなかった。
私はね、それだけで嬉しかったんだよ。
私の事を憎み、疎み、そして犯したり、暴力をふるったりしたけど、君はその言葉だけは私には言わなかった。
ああ、でも、君はそれでも自分の行いを許せなかった。
眠ってる君が私の所に連れてこられた時、苦しくて仕方なかった。
自分が憎くて仕方なかった。
辛うじて生きているだけの状態に追い詰めたのは、私だ。
あの時、別れる事などせず、君の家族に会って、無理やりでも君と君の家族を私の国に連れてくることができていれば。
そうすれば、あの愚王は君に暗殺者を差し向けることなど出来なくなっていたし、君たちは穏やかに暮らせて、君の歪みも壊れてる心も、多少は良い方向になっていたかもしれない。
ずっと押し殺してきた結果、歪んで壊れた君の心。
君自身が気づかず、結果こうなってしまった。
君が悪い訳じゃない、でも君はそれを受け入れないだろう。
君は死にたいというだろうけど、それは本心じゃない。
君はきっと生きていたくない、生きるのが辛い、生きるのが怖い、それらが本心なんだろう。
君からすればどんな形であれ、理由であれ、家族を傷つけた、約束を違えた。
私の事を「傷つけた」と思っている君には、きっと産まれてきたことが罪だと思っている君は、より生きているのが苦しいのだろう、優しすぎるから。
目を覚まさない君の傍で、少しずつ私は治っていったけれども、ああ分かる、私も歪んでしまっている。
許せない、何もかもが。
君を苦しめた愚王も、君の家族も、壊れていた自分も、壊れていた私のあの行為を手助けしたアルゴスも、今の自分も。
そして君に触れて欲しくなかった、誰も、誰も。
君の命をつなぐ為だから、触れるのを見ているしかなかった。
でも、私ができる事は全て私がやった。
それ位、君に触れさせたくなかった。
父も、アルゴスも、マイラも、誰も、触れさせたくなかった。
自分も触れてはいけないと思ってしまったけど、触れたくて仕方なかった、我慢できなかった。
眠り続ける君に、ずっと触れて、抱きしめて、血の気のない唇以外には口づけをして、愛してると何度も語り続けた。
君には聞こえていたのかは分からない。
そうしていれば、一日は終わってしまう。
最初の頃は、君の体を拭くのはできなかった。
だから、マイラが君の体を拭いたり、髪を洗っていたけど、それが嫌だった。
それが嫌だったから、出来るよう必死になった。
食事だって、最初は吐きそうだったけどそれでも何とか食べた。
調理した物はまだ、食べれないけれど。
何かが、入っていそうで、怖くて食べれない。
何度か試した、けれども、全て吐いてしまった。
調理人達には悪いが、どうしても無理だった。
毎日、いつになったら君は目を覚ますのだろうと思いながら過ごしていた。
君に触れて、君に何度も宝石を握らせ、君の体に口づけをして、抱きしめて、同じことを何度も繰り返した。
君からの反応は無かったけれど。
そして、今日も君は起きないかと君を見つめていた。
突然、口が動いた。
声はない、けど、聞こえた。
「だれか」
と、君が言うのを。
「――ニュクス、起きて」
私は唇に触れていた手をどけて、血の気のない唇に口づけをした。
大昔、どこかの国の姫が眠りの魔法をかけられ、愛する者の口づけによって目覚めたという。
その昔話にすがるように、私は君に口づけた。
ゆっくりと君は目を開いた。
闇色の美しい目を久しぶりに目にすることができた。
少し眩しそうな表情をしてから、君は私を見た。
君は口を再び開いた。
「――」
名前を呼んでくれているのに、君の声は出ていない。
でも、聞こえているから、別に良かった。
それに、漸く目を覚ましてくれた。
君は何とか体を起こそうとした。
でも、ずっと眠って体を動かす能力が低下してしまっているから、すぐに倒れた。
君は、いつだって、無理をする。
「ニュクス、無理を、しないで、いい」
口ではそう言ったものの、本当は、君とたくさん話がしたい、起きてる君と時間を過ごしたい。
でも、我慢する。
我儘で君をたくさん傷つけたから、だから、言わない。
君は私を見ていた。
考え事をしているようだ、時折目を閉じてしかめっ面のような表情をする。
どうしたのだろう?
少しすると、扉の開く音がした。
時間的に朝食の時間、だけれど、今は酷く邪魔に感じた。
「リアン様、お食事を――」
「……邪魔を、しない、で、くれ。ニュクス、がようやく、起きて、くれた、のだ」
冷たく当たってしまう、良くないのは理解できるけど、どうしてもそうしてしまう。
「申し訳ございませんリアン様」
「――」
君は私を咎める。
「……ああ、すまな、い。そう、だな、そういう、ふう、に言わなくても、良かったな」
食事の準備中、君は口を開いた。
「――」
何で、そんなことを、言うんだ、嫌だ、嫌だ!!
「嫌だ、嫌だ、嫌、だ!! お願い、だ、ニュクス、私、から、離れ、ないで、くれ。傍、にいて、くれ、嫌、だ。君が、いない、のは、嫌、だ!!」
どうして、そんな言葉ばかり言うんだ?
何で、分かってくれない?
君はそんな言葉ばかり吐き出す、お願いだ、止めてくれ。
「――」
「嫌だ、私は、君を、殺し、たく、ない。死なせ、たく、ない」
「嫌、だ。もう、君、と離れ、たく、ない。傍に、いて、くれ、ニュクス、お願い、だ」
怖くなって抱きしめる、お願いだ、傍にいて、離れないで。
「――」
「どう、して……そんな、願い、ばかり、言う、んだ? 嫌、だ。私は君を、愛して、いる、お願い、だ。離れ、ないで、ずっと、傍、に、居て」
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愛してる、愛してるよ、ニュクス。
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私の事を「大嫌い」だと言ってくれ、私からこの恋を終わりにできないから――
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